地質学と環境(特に気候変動)

・最近の変動が問題となるが,長い地球史の中では大規模な気候変動が何度もあった。

・気候変動要因に温暖化ガス,海洋の動き,火山噴火,太陽活動,地球の動き,宇宙線がある。

・緩和策をとっても温暖化は長く進行する。短期の適応策(社会再構築)が必要となる。

 

T環境史と人類の活動

T.1 地球史の中での気候変動

地質時代区分 (スライド3を参照してください)

先カンブリア時代 無生物あるいは原始的生物の時代。

隠生累代ともいう。冥王代,始生代,原生代と区分。

顕生累代 多細胞動物が出現,化石から古生代,中生代,新生代に区分。

地球史上,注目すべき事変 (スライド2は地球全球凍結の想像図)

光合成開始と酸素増加,地球全球凍結,古生代末と中生代末の生物大量絶滅。

氷河時代,大規模な氷床が存在した時代。

・原生代初期24.5億年前-22.2億年前,原生代末7.3億年前-6.4億年前。

・古生代の中,オルドビス紀後期4.6億年前,石炭紀後期3億年前。

・新生代の後半4300万年前-現在。

種の大量絶滅

・古生代末に海生動物の96%が絶滅。大陸での大量の玄武岩溶岩噴出が原因。

・中生代末に恐竜,アンモナイト,海生動物多数が絶滅。巨大隕石衝突が原因。

T.2 人類の歴史の中での気候変動

74000年前インドネシアのトバ火山で巨大噴火(トバカルデラ) 

平均気温10度下がる。 

1-5000年前(完新世中期)近日点で北半球は夏となる。(スライド16参照)

北半球の夏がより暖かく,冬により寒くなる。

・中世温暖期 西暦950-1250年,ヨーロッパでは温暖,グリーンランドに入植

・小氷期 西暦1450-1850年,英国のテムズ川やオランダの河川が凍結(スライド5参照)

181545日,ジャワ島東のスンバワ島タンボラ火山噴火で寒冷化。

突然の噴火,噴煙は高度3万mに立ち昇る。(スライド6参照)

翌年,北米東岸平均気温が例年より4℃低くなり,6月に雪

T.3 鉱物資源の開発史(消費拡大)  (スライド8参照)

1900年から最近に至るまでに世界の人口は4倍となった。

銅の生産量は38倍となり,一人あたりの消費量は1世紀余りの間に約9倍となる。

1750年ごろの産業革命,1955年ごろの石油利用拡大でエネルギー消費伸びる。

地球史46億年を1年にたとえると (スライド10参照)

地球誕生から現在まで1年とする。産業革命は大晦日午後115958秒。

新しい年になる2秒前になる。この2秒で一気に資源を消費している。

 

U気候はどのようにして決まるか

U.1 気候システム(大気,海洋,陸上とのやりとり) (スライド11参照)

・地球に太陽光線が届く。地表はその太陽光線を吸収し,赤外線を放出。

・地表から放出された赤外線は宇宙に出ていってしまう。

・全てが放出されると,地球は寒い星になってしまう。

・大気中に温室効果ガスがあり,赤外線を一部閉じ込め適度な気温となる。

気候の変化

・太陽からのエネルギーは,太陽自身の活動や地球の軌道によって変化する。

・火山が噴火すると硫酸ガスなどのエーロゾル放出,それが太陽光を反射する。

・工業化で大気中の二酸化炭素が増え温室効果を強める。(スライド12参照)

U.2 地球の公転軌道や自転軸の変化 (スライド1516参照)

公転軌道10万年周期でほぼ円から楕円の軌道と変化。楕円だと季節変化大きい。

自転軸の歳差(首振り)運動 冬至夏至の位置2万年周期で変わる。

・今は近日点が1月上旬,遠日点が夏至のころ,そこで夏と冬の気温差が小さい。

自転軸の傾き 4万年周期。傾きが大きくなると,夏はより暑く,冬はより寒い。

U.3 太陽活動,宇宙線,火山活動

太陽活動(黒点数変化の周期) 

・周期は11年と言われているが,実は10-14年と幅がある。

・太陽の活動が活発になると周期は短くなる。

太陽風や宇宙線

・太陽から噴き出す電離粒子(太陽風)と銀河系内の宇宙線が地球に降り注ぐ。

・太陽風が強くなると地球への宇宙線が減る。雲が減り,地球の気温が上がる。

火山の例 インドネシア,ジャワ島東のスンバワ島タンボラ火山噴火

   181545日突然の噴火。翌年,北米東岸平均気温が例年より4℃低くなる。

過去の気温がどうやってわかるか(温度計の代わりに使う指標)

樹木の年輪 年輪の幅が広いと,気温が温暖で成長が進んだことを利用。

   サンゴ         年代は年輪から求める。気温は重い水と軽い水の比からわかる。

   氷床下の氷 過去の大気が泡となって閉じ込められている。それを直接分析。

 

V 気候変動とその対処

V.1 IPCCの予想 (IPCC:国連気候変動に関する政府間パネルの英文略記)

最近の日本の気温と降水量  (スライド17参照)

この100年,日本の平均気温は1.14℃上昇。

降水量をみると,大雨の頻度は増えたが,総降水量は変わらない。

日本の気候がどうなるか(気象研究所,二酸化炭素を温暖化要因として予想)

二酸化炭素が21世紀半ばまで排出量は増加しピークを迎えてあと,緩やかに減少と仮定した場合。

世界の平均地上気温上昇は2.8℃,不確実性を考慮した上昇量は1.7-4.4℃。

日本では真冬日が減り,猛暑日が増え,大雨が多くなり,短時間強雨。

雪は減る。台風全体の数は減るが,強い台風が増える。

V.2 気候変動の影響 

水循環変化 氷河縮小で下流の水資源に影響。

高緯度地域では永久凍土の温度上昇や融解。

自然生態系 ニホンジカやイノシシの分布が広がる。

農作物    高緯度で農業可能。二酸化炭素が光合成の原料になる。

コメ品質低下,家畜の死亡。

人の健康  生物分布変わり感染症が拡大し,熱中症増大する。

気象・気候 熱波,干ばつ,洪水,台風,山火事が多くなる。

V.3 対応策や対処技術(二酸化炭素を主因としたIPCCの立場から)

緩和策 温室ガス排出抑制や削減。

省エネルギー,再生可能エネルギー,森林(吸収源),二酸化炭素回収・貯蔵。

適応策 数十年の温暖化進行は不可避,そこで早急に社会再構築で影響を軽減。

   渇水対策,治水対策,感染症対策,農作物の高温対策,生態系の保存。

石炭消費と二酸化炭素

ここで毎年石炭からどれだけの二酸化炭素が生成するかを計算してみる。

・石炭1グラムあたりの炭素量を0.8 グラム として発生する二酸化炭素量を求める。

・石炭1gからは,3.67×0.8=2.936gの二酸化炭素ができる。

・2021年石炭消費量(生産量)は約80億トン,すると,80億トン×2.936=235億トン。

・世界全体での二酸化炭素総排出量は314億トン,石炭からはその4分の3。

火力以外の発電(火力発電は石炭や天然ガスなどの化石燃料やバイオマス燃焼)

・太陽光発電 ()資源枯渇ない      () 太陽が出ないと発電できない

・地熱発電   ()火山国では資源豊富 ()温泉が枯れる心配

・風力発電   ()資源枯渇がない    ()風が吹かないと発電できない

・水力発電   ()クリーンなベース電源 ()ダム建設で環境改変

・原子力発電 ()CO2排出少ないベース電源 ()放射能の管理

・省エネルギー  エネルギー効率の良い製品を使う,少しでも消費を抑える

二酸化炭素固定化や有効利用 (スライド23参照)

・二酸化炭素排出削減技術    隔離 地中貯留 例:枯渇油・ガス田貯留

・二酸化炭素の変換・有効利用  化学品へ変換  例:高分子合成法

大気中の二酸化炭素濃度低減技術

・大規模植林による地上隔離 例:乾燥地帯植林

・動物による吸収 例:珊瑚礁造成

教訓:オゾンホール発見からフロンガス規制のように対策を施し効果が出るまで時間がかかる(スライド24参照)

 

--------------

付録

参考文献

伊藤公紀(いとう・きみのり) 「地球温暖化」 日本評論社,2003年,209p

鬼頭昭雄(きとう・あきお) 「異常気象と地球温暖化」 岩波新書,2015年,208p

鎌田浩毅(かまた・ひろき) 「知っておきたい地球科学」 岩波新書,2022年,239p

気象庁 IPCC第6次評価報告書.

https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html

技術要約 112ページ

概要 60ページ

政策決定者向け要約 33ページ,要点が太字

よくある質問と回答 72ページ

 

毎日新聞202342日社説

IPCC温暖化報告書 危機深刻化へ重大な警鐘」

 深まる気候危機への警鐘と受け止め,直ちに行動しなければならない。

 国連の「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change; IPCC)」が,今後の地球温暖化対策の科学的根拠となる報告書を発表した。 気候変動を「人類の幸福や地球の健康への脅威」と位置付け,「この10年の選択と行動が,これからの数千年に決定的な影響を与える」と強調した。

 世界各国の温室効果ガスの排出削減目標では不十分であり,気温上昇に歯止めをかけることが困難になると分析した。 温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」は,産業革命前から1.5度の上昇に抑えることを目標に掲げる。2050年には排出を実質ゼロとすることが求められている。

 しかし,既に1.1度上がっており,生態系や人々の暮らしへの悪影響も広範囲で生じている。中でも,途上国など弱い立場の人たちの被害は甚大だ。対策が遅れるほど深刻化し,取り返しがつかなくなる。現在のペースで排出を続ければ,30年代前半にも1.5度を超える恐れがある。

 報告書は,35年に19年比60%,40年には69%削減する必要があると明記した。これまでにない大胆な対策を各国に迫るものだ。 目標の達成は容易ではない。ウクライナ危機などによって,温暖化対策を巡る環境は厳しさを増し,排出量の多い石炭火力発電所の利用も広がっている。

 だが,IPCCは,太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入,ライフスタイルの見直しなどに一層取り組むよう促す。これらは,すぐに実践可能で,効果を期待できる対策だ。

国際協力もカギを握る。長期にわたり排出してきた日本などの先進国は,率先して削減する責任を負う。中国やインドなど,成長が著しい途上国の削減も重要だ。先進国は,資金や技術を提供することが欠かせない。

 国連のグテレス事務総長は「もう無駄にできる時間はない」と訴えた。来月には主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれる。議長国の日本は,対策の加速を主導しなければならない。