岩石鉱物科学 (2023) 52, gkk.230208

 

解説・資料

2022年の地質鉱物関連英文ニュース誌の話題「鉱物資源,鉱物学展望,および地域地質」

Some topics in English newsmagazines in 2022, with special reference to mineral resources, minerals matter, and regional geology.

高橋 裕平 (Yuhei TAKAHASHI)

 

Abstract: Information collected from geological newsmagazines in 2022 is reviewed. First topic is mineral resources such as mineral commodity summary in USA, geospatial analyses of lode gold potential in Alaska, and mineralogy of Eudialyte.  Second topic is mineral matters, that is, attribution of minerals to science, technology, and society, and notation history from alchemy to modern mineralogy.  Third topic is regional geology such as large igneous provinces across the Archean-Proterozoic transition and a giant meteorite impact in Scotland.  In addition, Anthropogenic data question for a new geological epoch is reviewed.

Keywords: USA, Alaska, Lode gold, Eudialyte, Minerals, Alchemy, LIPs, Impact, Scotland, Anthropocene

 

T.まえがき

地質鉱物学分野でどんなことが話題となっているのか,あるいは社会が何を地質鉱物学分野に求めているかの情報源の一助となるよう,2022年に入手した英文ニュース誌から野外系の鉱物科学分野に関する話題を紹介する。地質鉱物学分野を学び始めた学生諸氏を意識しているが,開発最前線の技術者が周辺動向を展望する一助になることも視野に入れている。

小論では,鉱物資源関連として,米国の2021年の開発状況,アラスカの金鉱床有望地絞り込み,ユーダイアライトの解説を紹介する。次に鉱物学が工学や社会にどう貢献するかの話題,鉱物標本のラベル表記から化学組成表示の変遷を知る話題を紹介する。地域地質では,始生代-原生代境界付近での巨大火成岩区,スコットランドの巨大隕石衝突痕跡の話題を紹介する。最後は,高橋(2022)の紹介にひき続き,アントロポセンが新しい地質区分となる根拠指標へ疑問を投げかける話題である。

 

U.鉱物資源

1. 米国の2021年鉱物資源動向

米国地質調査所(United States Geological Survey, 以下USGS)では,毎年年頭に前年の鉱産物生産状況を報告している。2022年版鉱物資源生産報告(USGS, 2022)に基づき,2021年の米国の鉱物資源開発概況を紹介する。金属資源とともに非金属資源(工業用原料)も扱っているため,建設業界を含めた米国内の景気動向を知る手がかりとなる。なお,この年間生産額は年頭段階のため見込みを含んでいて,最終的な確定額では多少の増減がある。

建設業,鉄鋼業,自動車運輸業に関連した非燃料系鉱産物消費の増加は,世界的なコロナまん延後の経済活動再開による(USGS2022)。金属では,銅,鉄鉱,鋼,亜鉛が製造業需要増加の影響を受ける。非金属では,建設業界動向と関連して,セメント,採石,砂れき,ソーダ灰の生産が増加した。

鉱物資源分野は,粗鉱,選鉱,製錬,素材,製造分野と段階をたどり米国経済に貢献している。鉱山段階の非燃料系鉱物資源(金属と非金属資源)原料生産額は,2021年に904US$である。輸入額を差し引いた鉱物資源原料輸出額は,2020年の40US$から2021年には53US$に増加している。米国内リサイクル分は430US$で,そのうち鉄鋼スクラップが180US$を占める。鉱山からの出鉱分と米国内リサイクル回収分をあわせて製造業直前の鉱物素材は8200US$である。さらに製造分野段階で2021年に33200US$の価値を生み,それは2020年から8%増である。

鉱物資源原料と加工品をあわせた鉱産物のうち,2021年には47の鉱産物において米国内消費量の半分以上を輸入に頼っている。そのうち17の鉱産物が100%輸入である。国家経済や安全保障上確保すべきクリティカルミネラルは35種ある。100%輸入に依存する17の鉱産物のうち,14がクリティカルミネラルである。加えて,15のクリティカルミネラルでは国内消費量の50%以上を輸入に頼っている。

米国で輸入50%以上の鉱産物の輸入先は,中国25種,カナダ16種,ドイツ11種,南アフリカ10種,ブラジルとメキシコそれぞれ9種である。日本も7種の輸入先である。日本の場合,多くは,希土類元素をはじめとする原料(粗鉱または精鉱)を輸入して日本国内で製錬したものである。

前述したように,2021年に米国の鉱山から産出した非燃料系鉱物資源の生産額は904US$であるが,これは前年2020年の807US$から12%の増加である。金属資源生産額は前年に比べ23%増加し338US$である。この主たる要因は,銅価格が2021年年間平均4.20US$/lb(pound),すなわち9259US$/tと上昇したことによる。金属資源生産額内訳は,銅(35%),金(31%),鉄鉱(13%),亜鉛(7%)である。非金属資源生産額は,2020年に比べ6%増加し566US$である。内訳は,砕石(非金属資源全体の34%),セメント(19%),建設用砂礫(17%)である。

2021年に米国国内生産額10US$以上の鉱物資源は14種ある。額の大きな順から,砕石,銅,セメント,金,建設用砂礫,鉄鉱,塩,石灰,工業用砂礫,亜鉛,ソーダ灰,りん鉱,パラジウム,モリブデンである。

2021年の州単位鉱物資源生産額は,13州が20US$以上である。額の大きな順に,アリゾナ,ネバダ,テキサス,カリフォルニア,ミネソタ,アラスカ,ユタ,フロリダ,ミズーリ,ミシガン,ワイオミング,ジョージア,モンタナである。前年と比べると,新たにモンタナが加わる(USGS, 2021;高橋,2022)

USGS (2022)では,約90種の鉱産物それぞれについて2ページにわたり,2021年の国内生産状況,用途,5年間の生産や価格の推移,リサイクル状況,輸出入先,代替物を記している。鉱産物の中には用途で細分しているものがある。例えば,砂れきは建設用と工業用,砕石は砕骨材(crushed stone)と石材(dimension stone)に区別される。これら鉱産物のうち,ここではベースメタルの代表として銅,日本が主要産出国であるよう素,話題に事欠かない希土類元素を紹介する。

(1) (Copper)

国内開発と用途:米国鉱山の2021年銅生産量は,2020年のそれと変わらず120tと見込まれる。生産額では120US$相当で,2020年の761000US$より58%増加している。アリゾナが国内生産の71%を占めている。そのほかの州は,ミシガン,ミズーリ,モンタナ,ネバダ,ニューメキシコ,ユタである。鉱山の数は25あり,そのうち19鉱山で生産量の99%を占める。銅と銅合金の用途と割合は,建設 46%,電気・電子製品 21%,交通インフラ 16%,一般消費材 10%,工業用機械 7%である。

市場動向:銅の国際価格(ロンドン金属取引所価格)年平均は,4.2 US$/lb (pound),すなわち9259 US$/tである。

リサイクル:スクラップのほか,化学産業や製造業の工程からも銅を回収している。これら回収銅総量は,米国内銅供給量の32%にあたる。

輸入:米国は銅産出国であるが,国内分だけでは需要を満たさず銅を輸入している。2017年から2020年の形態別の輸入相手国割合は,転炉処理後のブリスター銅や電解精錬用銅アノードの形では,フィンランド81%,マレーシア13%,その他の国6%が占める。製錬過程の溶融硫化物のマットや灰の形では,カナダ28%,メキシコ20%,ベルギー14%,スペイン11%,その他の国27%,鉱石や精鉱では,メキシコ97%,その他の国3%,スクラップが,カナダ54%,メキシコ34%,その他の国12%,製錬銅では,チリ62%,カナダ23%,メキシコ11%,その他の国4%が占める。

国内動向:米国内銅鉱山の2021年生産量は2020年から変わっていないが,個々の鉱山ではさまざまである。アリゾナのサフォード(Safford)鉱山は,2020年後半に拡張工事が完了し,生産量が著しく増加したニューメキシコのチノ(Chino)鉱山では,多くの従業員にコロナ陽性反応があり20204月から操業が止まっていたが,2021年第1四半期に再開した。アリゾナのピントバレー(Pint Valley)鉱山では,2020年と2021年で行われた適正化プロジェクトが完了し,効率化が進んだ。2020年後半に生産を開始したアリゾナのガニソン(Gunnison)鉱山では,圧入井の技術的な問題が長引いている。ネバダのパンプキンホロウ(Pumpkin Hollow)鉱山は,2019年後半に操業を開始したが,コロナで2020年数ヶ月休止した。2022年の第3四半期には最大限の生産になった模様である。アリゾナでは多くの地場鉱山で生産量が増加したが,いくつかの主要鉱山で生産が減少した。

製錬銅は,ユタの製錬施設が2020年の地震で影響を受け,再建とその後の稼働開始に時間がかかった。この2020年の状況から脱し,2021年の米国内製錬銅生産は,2020年に比べ9%増加した。

世界の生産量と埋蔵量: 2021年世界の銅鉱山生産量は2000tと見込まれる。そのうち主要な生産国は,チリ(560t),ペルー(220t),中国とコンゴ(それぞれ,130t) ,米国 (120t)である。埋蔵量は,生産量同様にチリが突出している。世界の製錬銅生産量は2600tである。そのうち,中国が1000tで,チリ220t,コンゴと日本それぞれともに150t,米国100tと続く。

世界の資源量:USGSが行った試算で,既知資源量は21t,今後発見される鉱床は35tと見込まれている。

銅の代替物:自動車のラジエーター,冷却チューブ,電機,電線でアルミニウムが銅の代用となる。熱交換器でチタンや鋼が銅の代用となる。電気通信では光ファイバーが,排水管など各種パイプではプラスティックが,それぞれ銅を代替する。

(2) よう素(Iodine)

国内開発と用途:2021年,米国ではオクラホマの3社がよう素を生産している。会社の情報秘匿等が絡み,米国の産出量は未公表であるが2020年より減少した模様である。米国輸入分のよう素平均価格は32US$/kgで,2020年からわずかに上昇した。よう素原料と無機よう素化合物が米国内消費の50%余りを占めている。中間化合物を経るので,米国内の最終製品を正確に見積もるのは困難である。世界的には,X線造影剤,薬品調合,液晶ディスプレースクリーン,よう素殺虫剤の順に用途がある。

リサイクル:少量がリサイクルされている。

輸入先:米国のよう素輸入先は,チリ 89%,日本 10%,その他 1%である。

市場動向:2021年初めの9ヶ月の引き渡し価格平均は36US$/kgで,2020年平均36.49US$/kgからわずかに低い。いずれにせよ2012年後半から2013年前半の6585 US$/kgには及ばない。

2020年の世界的なコロナ感染に続き,2021年中はよう素の世界的な需要が増加している。USGS (2022)によれば,米国内の会社が新たなよう素プラント建設を2021年末までに行うとある。

世界の生産と埋蔵量:主要な生産国は,多い順にチリ,日本,米国で,これらに続いて量は少ないが,トルクメニスタン,アゼルバイジャン,インドネシア,ロシアが続く。米国の生産を除くと,チリが世界の生産量の3分の2を占めている。主要な生産国のうち,チリでは硝酸塩鉱山からよう素を産し,日本では石油やガス田から産し,オクラホマ北西部ではよう素に富むかん水井戸から産する。USGS (2022)によると,世界の総埋蔵量は620tで,日本の埋蔵量が490t,チリのそれは61tである。

(3) 希土類元素(酸化物,rare-earth oxide)

国内開発と用途:カリフォルニア州のマウンテンパスでバストネス石を産出する。米国南西部では,モナズ石が重鉱物精鉱の副成分として産出する。2021年に米国が輸入した希土類元素(化合物と金属)16000US$で,2020年の1900US$から増加した。

希土類元素の用途は,触媒 74%,セラミックスとガラス10%,金属への添加や合金 6%,研磨4%,その他6%である。リサイクルによる希土類元素回収は,バッテリー,永久磁石,蛍光ランプで行われている。

市場動向:2021年の平均価格は,テルビウム酸化物1300US$/kg,ジスプロシウム酸化物400US$/kg,ネオジム酸化物49US$/kg,ユウロピウム酸化物31US$/kg,などであった。2017年から2020年の米国の希土類(化合物と金属)輸入先と割合は,中国78%,エストニア6%,マレーシア5%,日本4%,その他 7%である。エストニア,日本,マレーシアの希土類化合物と金属は,それらの国がオーストラリア,中国,そのほかの国々から輸入した精鉱や中間化合物を加工したものである。

世界の生産と埋蔵量:2021年の世界の産出量は,希土類元素酸化物相当28tで,2020年に比して4t増えた。世界市場では,中国が相変わらず優勢で,168000tである。世界の埋蔵量は12000t,そのうち中国4400t,ベトナム2200t,ブラジルとロシアそれぞれ2100tが目立つ。

 

2. 地理情報システムでアラスカ金鉱床有望地を探る

Karl et al. (2021) は,アラスカの各種地質情報を地域ごとに得点化し,その結果を地理情報システムで図示し,ロード金鉱床の有望地を探った。その骨子を紹介したKarl et al. (2022) に基づき,鉱床有望地を探る取組みを概観する。

この解析では,地質,地球化学,地球物理に関する7つのデータセットを利用した。データセットとして使われたものは,公的機関で蓄積されてきたデータ集である。水文学および分水嶺境界データ(National Hydrography Dataset and Watershed Boundary Dataset),アラスカの資源データ(Alaska Resource Data File),アラスカの地質図(Geologic Map of Alaska),空中磁気データ(Aerial Magnetic Survey Data) 地球化学データセットである。地球化学データは,3セットあり,堆積物(Sediments Geochemical Data),岩石(Rock Geochemical Data),重鉱物(Heavy Mineral Concentrate Data)に関するデータからなる。

これらのデータの内容はKarl et al. (2021)から参照できる。例えば,地質図はWilson et al. (2015)が既存の地質図を1584000分の1縮尺で編集したものである。

Karl et al. (2022) の前半でロード金鉱床として,造山型金鉱床(Orogenic Gold Deposits),貫入岩関連金鉱床(Intrusive-related Gold Deposits),浅熱水金鉱床(Epithermal Gold Deposits)で鉱床を評価した。貫入岩関連金鉱床は,火成岩形成の場の違いから,酸化システムと還元システムに分けられるので,Karl et al. (2022)の後半では,このシステム分けを体系化して,還元性金鉱床形成システム(Reducing Gold Ore-Forming Systems)と酸性金鉱床形成システム(Oxidizing Gold Ore-Forming Systems)で評価を試みた。

まずKarl et al. (2022) 前半の3ロードタイプによる評価を紹介する。地域区分は,分水嶺境界から約100km2の範囲を単位とする。単位地域ごとに,鉱床ポテンシャル指標基準に従い,各種データを得点化する。総合点から,地域の金鉱床見込みを3段階(高,中,低)に区分し,それぞれ,赤,黄,緑の色で図示する。加えてデータセットの完備程度から確からしさを減じる順に,濃,中間,淡と濃淡であらわす。データを全く欠く地域は灰色である。これらの作業は地理情報システム上で容易に行える。

得点化の例として,造山型金鉱床(Karl et al., 2021)を紹介する。アラスカの造山型金鉱床は,一般に顕生代縫合帯に伴う緑色片岩相にあり,沈み込みに伴う熱異常あるいは熱水流体の影響を受けた付加体に見いだされている。

鉱床見込みを表す指標は次の通りとなる。(1)ひ素,ビスマス,テルル,タングステンが岩石や堆積物中で見いだされる,(2)重鉱物,岩石,堆積物に金が見いだされる,(3)ホストは,変成火山岩,変成炭酸塩岩,変成堆積岩(砕屑岩)(4)鉱化した縞状の石英脈の存在,(5)近傍に造山型鉱床が知られている。

どのように得点化していくか,紹介する。地質図から緑色片岩相の変堆積岩(雲母片岩や石英長石片岩)か変火山岩(変玄武岩や角閃石片岩)であれば3点,炭酸塩岩質変成堆積岩であれば4点とする。

アラスカ資源データから,造山型形成の場かどうか識別する。造山性(orogenic)や造山時(synorogenic)の場であれば4-5点とする。金,自然蒼鉛,輝安鉱,灰重石が存在すれば高得点である。造山性の場であっても石英,アンケライト,硫砒鉄鉱,絹雲母の存在は低い得点となる。

岩石や堆積物の化学データについて,金,ひ素,ビスマスが富めば得点が高くなる。ベースメタル(銅,鉛,亜鉛)にも配点がある。バックグランドに比して,1.5倍から3.5倍なら1点,3.5倍から7.5倍で2点,7.5倍から15.5倍で3点,15.5倍以上で4点である。

そのほかの要素も加えて,高得点地域を造山型金鉱床の有望地と判断する。ここで北部アラスカの結果を紹介する。

北アラスカ,ブルックス山脈(Brooks Range)のチャンダラール地区(Chandalar District)の金鉱床は,上部緑色片岩相の変成堆積岩をホストとしている。炭酸塩岩や石墨片岩を含む。ミカド(Mikado)鉱山がよく知られ,年間7700オンスの金を生産している。

今回の解析法で進めると,チャンダラール地区は確かに高い金ポテンシャルとなり解析法の信頼性を確認できた。それでは未開発地域ではどうだろうか。

ブルックス山脈南部のワイズマン(Wiseman)地区は,従来ロード鉱床の評価が低かったが,今回の結果では高いポテンシャルが予想された。そこでKarl et al. (2021) は,この地域でのあらたな探査活動を提案している。

このような要領で,各鉱床タイプについて金鉱床有望地を提案している。3つのロード金鉱床の,造山型金鉱床,貫入岩関連金鉱床,浅熱水金鉱床は,それぞれ形成場の地質や鉱化流体の化学組成を反映して特徴的な微量元素組成を有する。鉱化流体の類似性,同一地域で異なる時代の鉱床が重なるなどのため,個々の鉱床型を区別するには限界があるが,異なる鉱床タイプの有望地が重複して求められれば,その地域の金資源存在の可能性が高まる(Karl et al., 2022)

Karl et al. (2022) の後半では,酸化状態を使った2つの鉱床形成システムモデルでアラスカの鉱床形成場を説明している。初めに紹介したように,3つのロード金鉱床型の一つである貫入岩関連金鉱床は,還元的貫入岩関連金鉱床(Reduced-intrusion-related gold)と含金斑岩鉱床(gold-bearing porphyry)にわけられる。そうすると,この還元的貫入岩型鉱床と3つのロード鉱床型の一つ造山型金鉱床は,造山運動減衰期の還元的な環境な場で形成された還元性金鉱床形成システム (Reducing Gold Ore-Forming Systems) としてまとめられる。一方,斑岩鉱床と3つのロード鉱床型の残る一つ浅熱水金鉱床は,サブダクションに関連したカルクアルカリ火成活動に伴い鉱床が形成される酸性金鉱床形成システム (Oxidizing Gold Ore-Forming Systems) となる。

還元性金鉱床形成システムは,コリジョンとその後の厚い地殻の還元環境下で鉱床を形成する。還元的な性質,CO2に富む流体,隠微小質変質で特徴づけられる。このシステムで有望性のある元素は,コリジョンテクトニクス下で形成された石英脈に含まれる。例えば,CO2流体に溶存するタングステン,ビスマス,テルルである。バックグランドより高いタングステン濃度は,この還元性金鉱床システムの指標となる。

酸化性金鉱床システムでは,金とともに豊富な銅と硫黄を含み,酸化条件を特徴づける。石英,方解石,アデュラリア,ディッカイト,カオリナイトの鉱物組み合わせが認められる。このシステムを構成する鉱床型は浅熱水鉱床と斑岩鉱床であるから,酸化性金鉱床システムの指標は,(1)半深成岩-深成岩,(2)浅熱水性を指示する元素,ひ素,アンチモン,水銀,セレン,テルル,銅, (3)前述の酸化条件を特徴づける変質鉱物,(4)斑岩鉱床の指示鉱物の輝水鉛鉱,マグマ性浅熱水環境を特徴づける高硫化銅鉱物,地熱型浅熱水環境を特徴づける銀を伴う硫塩鉱物, (5)半深成岩や深成岩が産出する地域での高い空中磁気である。

両システムについて,鉱床ポテンシャルの得点化を行ったところ,有望地域が還元性鉱床システムか酸化性鉱床システムを区別できる。Karl et al. (2022) 前半の3つの鉱床タイプで得点化したような重なりは少ない。

 

3. 鉱産物入門 ユーダイアライト

ロンドン地質学会(The Geological Society of London)と英国地質協会(The Geologists Association)が発行するGeology Todayでは年に1-2回鉱物紹介を行っている。2022年にはユーダイアライトを解説している。

ユーダイアライト(Eudialyte)は,希土類元素を含むため経済的に注目されつつある鉱物である。この鉱物について,Brooks (2022)は,鉱物学と地質学側面に加え,資源面から解説している。その要点を以下に紹介する。

1819年にドイツの鉱物学者が,南グリーンランドのイリマウサック(Ilímaussaq)岩体中のユーダイアライトを記載した。ユーダイアライトは,三方晶系のジルコニウムけい酸塩で,鮮紅色を呈する。

イリマウサック岩体は,南グリーンランドのカンゲルルアルスク(Kangerluarssuk)フィヨルド突端南側に露出する層状の岩体である。ネフェリン閃長岩で,Brooks (2012)がイリマウサックアルカリ岩体として記載した。ネフェリン,アルカリ長石,アルカリ角閃石(アルべゾン閃石),ユーダイアライトからなる。

層状で,29の層が認められる。一つの層の厚さはほぼ10mで,黒い基底,赤い中間部,白い上部からなる。この層状を呈する特徴的な閃長岩に,ローカルな名称として "kakortokite" が使われる。Brooks (2022)はこの名称を使っているが,以下では単に層状の岩石として紹介を続ける。

ユーダイアライトは複雑な化学組成と結晶構造のジルコニウムけい酸塩で,理想組成は,Na15Ca6Fe3Zr3Si(Si25O73)(O,OH,H2O)(Cl,OH)2である。9個のSi-O四面体の環(Si9O27)18-3個のSi-O四面体の環(Si3O9)6-ZrO68-八面体によって結ばれたフレームワークが基本的な構造である。そのフレームワークが,陽イオン,陰イオン,水分子を取り込む。

2002年にIMA(国際鉱物学連合,International Mineralogical Association)はユーダイアライトグループの化学式を次のように提案した。

N15-16[M1]6[M2]3[M3] [M4] Z3Si24O66-73(Q)0-9(X)2

N=Na+,K+,Ca2+,Sr2+,REE3+,(空白),Ba2+,Mn2+H3O+; M(1)=Ca2+,Mn2+,REE3+,Fe2+,Na+,Sr2+; M(2)=Fe2+,Mn2+,Na+,,H3O+,Zr4+,Ta5+,Ti4+,K+,Ba2+ Fe3+; M(3)/M(4)=Si4+,Al3+,Nb5+,Ti4+,W6+ Na+; Z=Zr4+,Hf4+; Q=H2O,OH-,O2-,CO3-3,SO2-4; X=Cl-,F-,OH-

これら全てが置換可能で多くの鉱物を提案可能だが,IMAが認定している鉱物は29種である(Brooks, 2022)

その一つ,ケントブルックサイト(kentbrooksite)は東グリーンランドのカンゲルドルグスアク(Kangerdlugssuaq)岩体で見つかった。化学組成は,(Na,REE)15Ca6Mn3NbSiZr3Si24O73(O,OH,H2O)3(F,Cl)2である。東グリーンランドでの発見後,すぐに世界中の多くのところで見つかった。カナダのスレーブクラトン(Slave Craton)のネチャラチョ(Nechalacho)層状岩体では,この鉱物を対象とした世界クラスの希土類元素生産地となるかもしれない。

Brooks (2022)はユーダイアライトの産状を理解できるよう,まずアルカリ岩を詳しく解説している。一般にアルカリ岩は,長石成分より過剰にアルカリ(ナトリウムとカリウム)を含む。アルミニウムよりもアルカリが多い場合,パーアルカリである。準長石(ネフェリンなど)を含み,アルカリ輝石(エジリン)やアルカリ角閃石(リーベック閃石やアルべゾン閃石)を含む。

アルカリ岩は,ミアスカイト質(miaskitic)とアグパアイト質(agpaitic)に分けられる。ミアスカイト質岩は,(Na2O+K2O)/Al2O3モル比が1より小さく,ジルコニウムやチタンがジルコン,チタン鉄鉱,スフェーンに入る。アグパアイト質岩は,(Na2O+K2O)/Al2O3モル比が1より大きなパーアルカリ質で,ここで紹介しているユーダイアライトはこのアグパアイト質アルカリ岩に産出する。ジルコニウムやチタンがユーダイアライト,エニグマ石(aenigmatite),リンカイト(rinkite),星葉石(astrophyllite)など複雑な構造のけい酸塩鉱物に含まれる。

各地のアグパアイト質岩を紹介する。ロシアのコラ半島のデボン紀のヒビヌイ(Khibiny)岩体は,面積1360q2で世界最大のネフェリン閃長岩体である。南グリーンランドのイリマウサック岩体とカナダのネチャラチョ岩体は既に述べた。カナダではモン・サン・ヒレール(Mount Saint-Hilaire)でも知られている。ほかにブラジルのポソス・デ・カルダス(Poços de Caldas),モロッコアトラス山脈のタマゼット(Tamazeght),南アフリカのピラネスバーグ(Pilanesberg)の諸岩体があげられる。規模は小さいが,ノルウェーオスロ地域のランゲスンスフィヨルド(Langesundsfjord)周辺やトヴェダレン(Tvedalen)とサゴーセン(Sagåsen)のラルビカイト石切り場でも産する。

ユーダイアライトグループの鉱物は,現在のところ本格的に採掘されていないが,イリマウサック岩体の層状岩を,オーストラリアのタンブリーズ(Tanbreez)が採掘を計画している。品位は,ZrO21.75%Nb2O50.18%,希土類元素0.6%で,40億トンが見積もられている。重希土類元素とイットリウムが全希土類元素の35%を占める。

この岩体の主要な鉱石鉱物がユーダイアライトで,磁選選鉱される。長石やアルベゾン閃石精鉱も有用な資源である。開発当初の生産見込みは年間50万トンで,ユーダイアライトが10万トン,長石が20万トンを占める。将来的には年間300万トンを見込んでいる。希土類元素以外では,ジルコニウム,ニオビウム,タンタルが生産される。

Brooks (2022)によると,この鉱床の強みは,ウランやトリウムの濃度が低いことである。ほかで知られている鉱床は放射性元素の濃度が高く,グリーンランド政府の認可を得にくい。地理的強みとして,この地は,潮流があって凍結することがなく,年間を通して精鉱輸送ができる。

一般に,希土類元素,ジルコニウム,ニオビウム,タンタルは,クリーンエネルギーや運輸で用途がある。耐久性合金,永久磁石,触媒,照明やデジタルスクリーンの蛍光体,充電式バッテリーである。永久磁石は電気自動車や風力タービンで利用される。ユーダイアライトグループの鉱物には圧電効果特性があり,その用途もある。

ユーダイアライトグループの鉱物は,無色,黄色,鮮紅色と多彩で,宝石として魅力がある。ただ,硬度が5-5.5と高くなく,良好な結晶の産出がまれである。かなりまれな例として,イリマウサック岩体から数センチオーダーの結晶を産する(Brooks, 2022; Fig.6)

 

V 鉱物科学

1. 鉱物科学の今日的役割

米国では鉱物学が地球科学のカリキュラムから消滅しつつある(Bierman, 2021)。鉱物学は地球物質学などの科目に押し込まれるか,それら両者がともにカリキュラムから除かれる。このような危機的状況を踏まえ,Dutrow (2022) は,鉱物学の今日的役割を強調している。

文明当初から,地球物質が技術の発達と関わり続け,人類の時代は,石器時代,青銅時代,鉄の時代,テクノ時代と進んでいる。鉱物が,科学,工業,社会と切り離せない例として,Dutrow (2022) はリシア電気石をあげている。この鉱物には圧電の性質があるため,第二次世界大戦で水中での爆発を看視する圧力センサーに使われた。現代では,電子機器に必須の元素リチウムを含む鉱物として注目される。また,自動車に使われる鉱産物は,平均で,1トンを超える鉄と鋼,240ポンド(109kg)のアルミニウム,50ポンド(22.7kg)の炭素,42ポンド(19kg)の銅,22ポンド(10kg)の亜鉛,そのほか30の鉱産物である(USGS, 2009)

産業界と社会は,持続可能な未来と環境に配慮した社会実現に取り組むようになっている。このような中,鉱物学は,材料の基本情報を提供することからその重要性を増している。Dutrow (2022)は,人類の危機である気候変動の緩和に鉱物が貢献することを,(1)炭素固定と貯蔵,(2)エネルギー変換,再生可能エネルギー,電気自動車,(3)先端機能材料の構造から論じている。

炭素固定と長期貯蔵は,温室効果ガス減少に必要な技術である。そのような技術の一つがかんらん石や蛇紋石などマグネシウムに富む鉱物と二酸化炭素との反応である。2年かけて炭酸塩鉱物となり,二酸化炭素を永久貯蔵する。すなわち,蛇紋石+二酸化炭素=マグネサイト+石英+水である。すでに世界では,20ほどのプロジェクトが商業化し,30以上のプロジェクトが計画中である。

再生可能でクリーンなエネルギー技術開発に必要な元素として,IEA (2021)は,銅,ニッケル,クロム,亜鉛,希土類元素を上位にあげ,さらに蓄電池でコバルトとリチウム,送電ネットワークにアルミニウムをあげている。需要が増している新たな資源(元素)について,採掘,抽出(選鉱や製錬),製造業に至る流れの理解に鉱物学的背景を備えておく必要である。

上記の需要を支えるため,2040年までに鉱物資源は10から30倍必要となる。ことに石墨,銅,ニッケルの需要が増す。加えて,リチウムの需要は急速で現在の40倍以上になることが予想される。例えば,現在のリチウムイオンEVバッテリー一つあたり,リチウム8s,ニッケル35s,マンガン20s,コバルト14sを使っている(Castelvecchi, 2021)。今後15年間で世界の車両の50%が電動化する予想があり,そうなると数10億の車両がバッテリーを積み,大量の鉱物資源が必要となる。リシア輝石(LiAlSi2O6)がリチウムを豊富に含む鉱物である。これは,化学式からリチウムを3.7重量%含んでいる。そこで,1つの自動車用バッテリーのために,リシア輝石214sが必要となる。

再生可能エネルギーシステムの先進的物質の構造や組成に,鉱物をひな形とすることがある。例えば,地球科学者はペロブスカイトになじみがあるが,そのペロブスカイト構造をなすマグネシウム珪酸塩,ブリッジマナイト(bridgmanite, MgSiO3)は,地球の下部マントルの70%近くを,地球全体体積の38%近くを占めている。その結晶構造は化学的置換が容易であるため,太陽光電池やパネルにペロブスカイト構造が応用される。効率性から,現在主流のシリコン系パネルを置き換える可能性がある。

沸石も先端物質のひな形となる。沸石類は従来から分子レベルのふるい分けや触媒として利用されている。鎖状構造をもち,元素が容易に出入りする。沸石類の一つアナルサイトの構造は,超イオン特性をもつことなどから再生可能エネルギーの将来に期待されている。

以上のように,Dutow (2022)から鉱物を理解することが近未来社会に求められている。すなわち,結晶構造,元素置換,分析手法などの鉱物学の知識や技術は,地球科学とそのほかの工学や数学分野をつないで,クリーンな再生可能エネルギーの将来を担う。

 

2. 鉱物標本ラベルと化学表記の変遷

鉱物標本のラベルには,産出地,産状,化学組成などの情報が記されていることが多い。そこで鉱物標本ラベルに着目して18世紀から19世紀の化学組成表記を知ることができる。以下,錬金術から現代の鉱物学に至るまでの化学表記変遷をCooke and Jeffery (2022)より紹介する。

天然物に名称や記号をつけることは,錬金術時代にさかのぼる。そのなごりで,18世紀に使われた鉱物名には,エジプトの象形文字や古代の記号が用いられている。名称は,色,味覚,結晶形,溶解,香りなどにちなむ。例えば,鉛とすずは,ローマ語でそれぞれ白色鉛(white lead, plumbum candidum)と黒色鉛(black lead, plumbum nigrum)である。15世紀のアグリコラの記述では,ビスマスは,灰色鉛(ash-colored lead, plumbum cinereum)である。このほか,15世紀から18世紀には,奇異な名称があった。例えば,ひ素のバター(butter of arsenic)AsCl3,硫黄の肝臓(liver of sulphur)K2Sx,鉛の砂糖(sugar of lead)Pb(C2H3CO2)2などである。

チューダー朝ヘンリー8世やエリザベス1世は,貴金属,銅,水銀,鉛の探鉱のため,ドイツの鉱山技術者や製錬技術者を英国に招いた。そこで,ドイツの鉱山関係者が使っていた鉱物名が英国で広まった(Cooke and Jeffery2022)。例えば,方鉛鉱(Galena)16世紀につけられ,ラテン語で鉛と銀の混合物を意味する。蛍石(Fluorspar)はドイツ語のflusspathに由来し,フラックスとして機能することをさす。

化学記号は,当時の鉱物学や錬金術で使っていた略号や象形絵文字を用いた。前者の例は,銅が♀で,ギリシャ語のΦに由来する。後者の例は,一酸化鉛が↑である。それは岩石と銀の絵文字である。

修道院は自然史関連の標本を収集しており,多くの修道士は,医学,生物学,錬金術に興味があった。それらの標本ラベルに錬金術の記号が使われていることを博物館で今日知ることができる。

18世紀までにラヴォアジェ(Antoine Lavoisier)など著名な化学者や鉱物学者により名称の改良が繰り返され,1782年に化学命名法(Methode de nomenclature chimique)が刊行される。英訳本は1788年に刊行され,その際,フランス語のsulfursulphurとした。

Cooke and Jeffery (2022)は,英国(イングランド)のダルトン(John Dalton)の元素表記をまず紹介している。例えば,炭素記号は●である。そこで二酸化炭素は〇●〇となる。スコットランドのトンプソン(Thomas Thomson)は,1802年の著作で鉱物の化学組成を元素や分子の名称の頭文字を多い順に並べて表すことを提案した。例えば,ゼオライトはSAWLである。Sはシリカ(SiO2 53%)Aはアルミナ(Al2O3 27%)Wは水(H2O 10%)Lはライム(CaO 9.5%)である。

スウェーデンの化学者ベルセーリウス(Jons Jacob Berzelius)は,ダルトンとトンプソンの影響を受け,1810年代に新たな記号を提案する。元素の名称の頭文字を用い,同じ記号となる場合,次に出てくる子音を使うもので現代につながる。例えば,マグネシウム(magnesium)Mg,マンガン(manganese)Mnとなる。化合物は元素記号に+記号をつけて表す。さらに元素の前に下付きで数字をつけ,より複雑な化合物では元素記号に上付き数字をつける。水は2H+O,硫酸銅はCuO+SO3またはSO3+CuOとなる。

これらをさらに単純化し,元素記号の上に酸素原子の数を打点「・」するようになる。例えば,過硫酸第二銅 2SO3+CuO2は,S2Cuとして,Sの上に「…」,Cuの上に「‥」をつけて表す。硫黄との化合物には硫黄原子の数だけダッシュ「`」を元素の上に添える。このほか,ハイホン「-」や十字「+」なども使われるようになる。ベルセーリウスの表記法は,それ以前の錬金術のなごりを脱したものとして多くの化学者の支持を受けた。

Cooke and Jeffery (2022)は,この表記から現在の表記への変遷を知るため,18世紀半ばの出版物を検討した。欧州(大陸)側では1865年に現在の表記を採用し,英国ではもっと早く1843年には導入している。しかしながら英国側でも1858年のGreg and Lettsomのアイルランドと英国の鉱物学教本(Manual of the Mineralogy of Great Britain and Ireland)では,酸化物のOに打点,硫化物のSにダッシュ記号を用いている。当時の科学界でベルセーリウスの表記が浸透していたようである(Cooke and Jeffery2022)。紹介者(高橋)は,ドイツでは19世紀後半の出版物で依然ベルセーリウスの表記が使われていたことをFriedrich (1860)の鉱物化学教本(Handbuch der Mineralchemie)から確認した。

 

W 地域地質

1. 始生代-原生代境界付近の巨大火成岩岩石区

現在の地球表面の約30%は,大気と接する(subaerial)大陸地殻からなる。それに対して始生代では,大陸の平均海抜(free board)は低く大陸地殻はほとんどが水没していた。そこで始生代と古原生代では,大陸の洪水玄武岩は海面下(submarine)で噴出するのが普通だった。

 Liebmann et al. (2022) は,34億年前から20億年前 (3.4-2.0 Ga) の大陸の巨大火成岩岩石区 (Large Igneous Provinces; LIPs) が大気中にあったか海面下であったかを検討した。その結果に基づき,大気中の酸素の増大やそれにともなう寒冷化を議論している。なお,この総括は,共同研究者のデータ (Ernst et al., 2021) によるところが大きい。

大陸地殻のLIPs噴出が大気中であったか海面下であったかの判断は,主にKerr et al. (2000)の基準に基づく。枕状溶岩と水冷破砕岩(ハイアロクラスタイト)は,海面下に噴出した証拠となる。一方,岩石表面の杏仁状組織や柱状節理は,大気中の溶岩流であった判断基準である。そのほか,噴出岩に伴う堆積物も参考となる。河成,風成,湖成の堆積物や風化面の存在は大気中の特徴である。海成粘土,炭酸塩岩,チャートから,噴出が海面下であったと判断できる。

このような判断基準を用いてLiebmann et al. (2022) は,3.4-2.0Ga93の大陸性LIPsのうち,40LIPsについて噴出の場を同定している。それによると,3.4-2.8Ga では海面下噴出だけである。大気中噴出の例は,2.8-2.7Gaになってカープバール (Kaapvaal)やピルバラ (Pilbara)クラトンで見いだされる。一方,イルガーン (Yilgarn),スペリオル (Superior),ジンバブエ (Zimbabwe),スレーブ (Slave),アマゾン (Amazonian)クラトンのLIPsは海面下噴出である。2.5Gaに大気中の噴出がハーン (Hearne),コラ-カレリア(Kola-Karelia)クラトンで認められる。引き続くスペリオル,ピルバラ,コラ-カレリア,カープバールクラトンの噴出は海面下活動であった。

2.4-2.2Gaに大気中でのLIPs火山活動が広く認められる。スペリオル,コラ-カレリア,ダルワール(Dharwar),バスタル(Bastar),カープバール,ピルバラの6つのクラトンである。この時期,海面下の火山活動は見いだされていない。2.2-2.1Gaでは,2つのLIPsの生成場が決められただけであるが,ともに海面下である。2.1-2.0Gaには大気中の活動がダルワール,サルマティア(Sarmatian),コラ-カレリア,カープバールで認められる。海面下の活動は,スレーブとピルバラである。

これらをLIPsが大気中にあった割合で表すと,2.8Ga0%2.8-2.6Ga14%2.6-2.4Ga29%と年代が若くなるにつれ増加し,2.4-2.2Ga100%となる。2.2-2.1Ga0%となるが,2.1-2.0Gaで再び増加し67%となる。

Liebmann et al. (2022) は,大気下のLIPsが増加していくことを同位体や堆積物の研究結果に関連付けている。例えば,大気中のLIPsが広がる2.4-2.2Gaの時期と海成炭酸塩岩の87Sr/86Sr比が増加する2.5-2.2Gaの期間 (Chen et al., 2022) が重なることは,海水準が低下したことを示す。

Liebmann et al. (2022) は,2.4-2.2Gaに大陸が大気中に露出したことで,古原生代に酸素増加と氷河が広がったとしている。この時期の大陸地殻の上昇は,生物必須の栄養素(例えばりんや鉄)を海洋へ供給する。大気中のLIPsからのSO2は,成層圏の硫酸エアロゾルを増加し寒冷化を進めた。

 

2. スコットランドの巨大隕石衝突

ここ20年くらいの調査研究からスコットランドで巨大隕石衝突があったことが明らかになってきた。これについてSimms (2022)から紹介する。

英国は30億年にわたる地質の歴史が残っており,また2世紀あまりにわたり地質の研究が行われてきているにもかかわらず,長く巨大隕石衝突の証拠は見つかっていなかった。2001年にブリストル近傍でミリメートルスケールの薄いマイクロテクタイト層が見つかった。隕石衝突の際,飛び散った岩石の溶融物がガラス化したものと考えられ,現在はブリストルから1000q余り離れたカナダ東部のマニクアガンクレーター(Manicouagan Crater)に供給源を求めることができる。この発見の数年後,今度は英国内のスコットランド北西部に世界クラスの衝突堆積物が存在することが明らかとなる。

その場所には,ルイス片麻岩(Lewisan Gneiss),トーリドン砂岩(Torridon sandstone),モイン衝上断層(Moine Thrust Zone)があり,英国内の著名な地質学見学地である。この地域の一般地質についてはBentley (2017)が紹介している(高橋,2018)。その中で,それまで火山泥流堆積物と解釈されている地層が隕石衝突起源の堆積物とする見方もあるとふれている。それが今回のSimms (2022)につながる。

この地域の古い堆積岩であるストーアー層群は,層厚数百メートルの12億年前の赤色の砂岩と泥岩からなる。変成しておらず,旧赤色砂岩に酷似する。このストーアー層群の砂岩は網状河川で堆積し,泥岩は湖で堆積したものである。当時は陸地に植生はなかった。この地層は,南のポレウェ(Pollewe)から北のストーアー半島に至る50kmに露出している。その中でもアラプール(Ullapool)の北35kmのストーアー湾の露出が特筆できる(Simms2022)

この50qにわたるストーアー層群中に厚さ12mの特異な地層がはさまっている。スタック・ファダ部層(Stac Fada Member, 略してSFM)で,ルイス片麻岩の礫を含む。赤色の砂と泥を基質とし,径数cmの暗灰-緑色の岩石破片が含まれている。その破片は,溶融した後,冷却脱玻璃(はり)化したものと解されるが,それ以前の数十年間,SFMは火山性堆積物(ラハール)と考えられてきた。

Amor et al. (2008) SFMは巨大隕石の衝突に由来する放出物であることを提案した。すなわち,緑色-灰色の破片は隕石の衝突で溶けた岩石が急冷して脱玻璃化したものである。傍証として,SFMは結晶格子が変形した衝撃石英(Shocked quartz)を含むことをあげた。

ストーアーの砂岩は,衝撃により破壊的な力が加わり熱変成を受け変成けい岩となっている。地層の上部には不規則な孔隙やパイプが認められ,加熱した蒸気の抜け道と解される。灰色-緑色の破片はSFMの上位に向かい小さくなる。地層上面の風化面にはラピリ(Lapilli)が見いだされる。衝撃の勢いでできた塵が鉱物粒のまわりにとりまいたものであろう。

ストーアーの南13qのエナード湾(Enard Bay)SFMは,ストーアーのものとかなり異なる(Simms2022)。衝突堆積物の最下部に一見斑状の火成岩様の岩石がある。ここのSFMは,堆積直後に変成作用を受け高温の流体による交代作用があったと考えられ,エナード湾のSFMは,ほかの場所より衝突(隕石落下)地点に近かったと考えられる。

SFMはさらにエナード湾の南南西約27kmのセカンドコースト(Second Coast)まで分布する。層厚はわずか4mとなり,ラピリや砂岩片は含まれていない。このSFMの直下の河成砂岩はルイス片麻岩片を含む。隕石衝突後に高速で飛び散って網状河川に落下したと解釈できる(Simms2022)

セカンドコーストの北北東約6km,スタティックポイント(Stattic Point)では,堆積物頂部の割れ目が西へ凸状となっていて,西に向かう粘性流を示唆する。上記のエナード湾(Enard Bay)では東から西に向かう流れを斜交葉理が示している。これらから衝突(隕石落下)地点が東のどこかであろうと推定できる。実際,このSFMを記載している場所から約50q東のあたりに,重力異常が見いだされ (Simms, 2015),レアッグ(Lairg)の街の下に衝突孔があることを示唆している。

 

X. アントロポセン認定の課題つづき

20年前,Crutzen and Stormer (2000)は,人類の活動による新たな地質時代のアントロポセンを提案した。このアントロポセンは,経済学や社会科学でも興味が持たれるようになっている(例えば,斎藤,2020)。アントロポセンがいつから始まっているか,Broadgate et al. (2014)は,多くのデータを提供し,1950年から経済活動などが加速し,その頃が始まりだろうとしている。Nielsen (2021)は,このアントロポセンは魅力ある提案だが,根拠となるデータを受け入れるには無理があると反論した(高橋,2022)。

Broadgate et al. (2014) とは別に,新たにアカデミック研究機関の18名の研究者 (Syvitski et al., 2020) がアントロポセン1950年開始を裏付けるとするデータを公表した。連名の著者の多くは,IUGSの第四紀層序委員会アントロポセン作業部会に属している。Nielsen (2022) は,Nielsen (2021) の議論に引き続き,それらのデータからアントロポセンが1950年から始まることに疑問を投げかけている。以下,Nielsen (2022) の主張をSyvitski et al. (2020) のデータとともに紹介する。

Syvitski et al. (2020) は,エネルギー消費,人口増加,経済成長を最も重要な指標としている。エネルギー消費のグラフは,12000年前から現在までほとんど水平からほとんど垂直の単純な変化となるとした。しかしながらNielsen (2022) によれば1950年からの消費量加速は認めがたい。むしろ,変化は1300年前と読みとれる。エネルギー消費量を対数でとっても1950年で加速するとは言えない。人口の伸びについて,Nielsen (2022) 1000年から2020年でその増加は単調で,急激な変化がないとしている。

Syvitski et al. (2020) は,消費や生産の伸び(GDP)1950年付近から急に加速し,完新世から離れたとした。Nielsen (2022) は,加速ではなく,Nielsen (2021) で指摘したと同様にようにむしろ減速へと向かうとして,新しい地質時代アントロポセンを疑問視している。

このようにSyvitski et al. (2020) と同じデータを使いながらNielsen (2022) の見解は異なっている。実は,両者の図表の表し方に差異がある。エネルギー消費,人口増加,経済成長のグラフで,Nielsen (2022) は横軸に12000年前から現在(2020),または西暦1000年から2200年をとっており,いずれも等間隔である。縦軸にエネルギー消費,人口,GDP量を対数で表示している。Syvitski et al. (2020) では,縦軸表示に対数を使わず,横軸に12000年前から現在(2020)を使うが等間隔ではない。350年前から現在(2020)とそれ以前の12000年前から500年前の間隔が異なり,ここ350年間の間隔が広い。Syvitski et al. (2020) Table 2では,完新世とアントロポセンにわたる変化という表題で,1900年,1950年,2000年,2015年のエネルギー消費,人口増加,経済成長のデータを並べている。

そのほか,貯水量,ダムの数,大気中の二酸化炭素量,プラスティック生産,銅生産高のデータも同様で,Nielsen (2022)は,Syvitski et al.(2020)1950年ごろからアントロポセンに入ったとしているが,そのように読みとれないとしている。ただ人口増加変化について,Nielsen (2022)19500.8%から19552.2%と変化していることを認めている。

Syvitski et al. (2020) とのデータの変化読み取りに違いがあることはともかくとして,Nielsen (2022) は,アントロポセンに新しい地質時代(世)を適用できるか疑問を呈した。Murphy and Salvador (1999) にしたがえば,地質時代の新らな認定に必要なことがらは,地質境界を定義し,その地質ユニットを特徴づけるために地質学的な記録が残され保存されなければならない。すなわち堆積物の記録が必要である。Nielsen (2022) は,アントロポセンが人類の歴史の中の新しいユニークな時代であるかもしれないが,地質学的記録に基づく地質時代のユニットとはならないとむすんでいる。

 

謝 辞 USGSSchnebele博士から,よう素価格決定の疑問について教えていただいた。ケール大学のJeffery教授からチューダー朝における鉱物の名称確定時期について教えていただいた。Episodes編集委員長Jin-Yong Lee博士には論文引用に際して便宜を図っていただいた。さらに高澤栄一編集委員長の助言で本稿が改善されました。ここにお礼申し上げます。

 

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