岩石鉱物科学 (2024) 53, gkk240214
解説・資料
2023年の地質鉱物関連英文ニュース誌の話題
「鉱物資源,地域地質および花崗岩類」
Some topics in English newsmagazines in 2023, with special reference to
mineral resources, regional geology and granites.
高橋裕平 (Yuhei
TAKAHASHI)
Abstract: Information
collected from geological newsmagazines in 2023 is reviewed. First topic
is mineral resources such as mineral commodity summary in USA, identified
mineral resources in Australia, and metallogenic significance of rare elements
in Zambia. Geothermal
energy in the UK using borehole heat exchangers is also referred. Second
topic is regional geology, that is, the Wyoming Archean craton, the Costanaza
mine for sustainability education, and the Jeju Island Geopark activities. Third topic
is overview of granites and geological mapping program for next generation.
Keywords: USA, Australia, Zambia,
Minerals, UK, Geothermal energy, Archean craton, Geopark,
Granites, Mapping
Ⅰ.まえがき
地質鉱物学分野でどんなことが話題となっているのか,あるいは社会が何を地質鉱物学分野に求めているかの情報源の一助となるよう,2023年に入手した英文ニュース誌や学術誌の総論的な内容から野外系の鉱物科学分野に関する話題を紹介する。地質鉱物学分野を学び始めた学生諸氏を意識しているが,開発最前線の技術者が周辺動向を展望する一助になることも視野に入れている。
小論では,鉱物資源関連として,米国の2022年開発状況,オーストラリアの2021年開発状況,ザンビアの地球化学図と希少金属探査地域絞り込み,英国における地熱開発の話題を紹介する。地域地質として,米国ワイオミング州の始生代クラトン,持続可能な教育に活用するスペインのコスタナザ鉱山,ジオパーク活動が盛んな韓国の済州島活動を紹介する。最後は,地質学の教育を意識したもので,花崗岩類通観と野外調査体験プロジェクトである。
Ⅱ.鉱物資源とエネルギー資源
1. 米国の2022年鉱物資源動向
米国地質調査所(United
States Geological Survey, 以下USGS)では,毎年年頭に前年の鉱産物生産状況を報告している。2023年版鉱物資源生産報告(USGS,
2023)に基づき,2022年の米国の鉱物資源開発概況を紹介する。
鉱物資源分野は,粗鉱,選鉱,製錬,素材,製造業と段階をたどり米国経済に貢献している。鉱山段階の非燃料系鉱物資源(金属と非金属資源)原料生産額は,2022年に982億US$である。輸入額を差し引いた鉱物資源原料輸出額は,2021年の51億US$から2022年には49億US$と4%減少している。米国内リサイクル分は420億US$で,そのうち鉄鋼スクラップが180億US$を占める。鉱山からの出鉱分と米国内リサイクル回収分をあわせて製造業前の鉱物素材は8100億US$である。さらに製造分野段階で2022年に3兆6400億US$の価値を生み, 2021年のそれから9%増である。
鉱物資源原料と加工品(選鉱)をあわせた鉱産物のうち,2022年には51の鉱産物が米国内消費量の半分以上を輸入に頼っている。そのうち15の鉱産物が100%輸入である。国家経済や安全保障上確保すべきクリティカルミネラルはこれまでの35種から2022年に50種となった。ニッケルと亜鉛が加わり,これまでの希土類と一括されていたものが個々の元素となった。白金族はそれまでの白金とパラジウムから白金族6元素となった。一方,ヘリウム,カリウム,レニウム,ストロンチウム,ウランが除かれた。100%輸入に依存するクリティカルミネラルは12種である。50%以上を輸入に頼るクリティカルミネラルは31種である。
米国で50%以上輸入に頼る鉱産物の輸入先と数は,中国26種,カナダ20種,ドイツ14種,ブラジル11種,南アフリカ10種,メキシコ9種である。
前述したように,2022年に米国の鉱山から産出した非燃料系鉱物資源の生産額は982億US$であるが,これは前年2021年の946億US$から4%の増加である。金属資源生産額は前年に比べ6%減少し347億US$である。金属資源生産額内訳は,銅(33%),金(28%),鉄鉱(15%),亜鉛(9%),モリブデン(5%)である。非金属資源生産額は,2021年に比べ10%増加し635億US$である。内訳は,砕石(非金属資源全体の33%),セメント(18%),建設用砂礫(16%),工業用砂礫(9%)である。
2022年に米国国内生産額10億US$以上の鉱物資源は13種ある。額の大きな順から,砕石,セメント,銅,建設用砂礫,金,工業用砂礫,鉄鉱,亜鉛,塩,石灰,りん鉱,モリブデン,ソーダ灰である。2021年にはパラジウムがあったが,2022年では生産額が減り外れている。
2022年の州単位鉱物資源生産額は,9州が30億US$以上,15億US$以上ではさらに15州が加わる。生産額上位10州は,額の大きな順から,アリゾナ,ネバダ,テキサス,カリフォルニア,ミネソタ,アラスカ,フロリダ,ユタ,ミシガン,ミズーリである。
USGS (2023)では,96種の鉱産物それぞれについて2ページをあて,2022年の国内生産状況,用途,5年間の生産や価格の推移,リサイクル状況,輸出入先,代替物を記している。これらの中,例えば,砂れきは建設用と工業用,砕石は砕骨材(crushed
stone)と石材(dimension
stone) のように用途で別の鉱産物としているものがある。これら鉱産物のうち,ここではベースメタルの代表として銅,日本が主要産出国であるよう素,話題に事欠かない希土類元素を紹介する。
(1) 銅(Copper)
米国内開発と用途:米国鉱山の2022年銅生産量は,2021年のそれより6%増え,130万tと見込まれる。生産額では110億US$相当で,2021年の117億US$より6%減少している。アリゾナが国内生産の70%を占めている。そのほかの州は,ミシガン,ミズーリ,モンタナ,ネバダ,ニューメキシコ,ユタである。鉱山の数は25あり,そのうち17鉱山で生産量の99%を占める。銅と銅合金の用途と割合は,建設
46%,電気・電子製品
21%,交通インフラ
16%,一般消費材 10%,工業用機械 7%である。
市場動向:銅の国際価格(ロンドン金属取引所価格)年平均は,4
US$/lb (pound),すなわち8818 US$/tである。
リサイクル:スクラップのほか,化学産業や製造業の工程からも銅を回収している。これら回収銅総量は,米国内銅供給量の32%を占める。
輸入:米国は銅産出国であるが,国内分だけでは需要を満たさず銅を輸入している。2018年から2021年の輸入量全体に占める割合は,転炉処理後のブリスター銅や電解精錬用銅アノードの輸入国は,フィンランド90%,その他の国が10%占める。製錬過程の溶融硫化物のマットや灰の輸入国は,カナダ34%,ベルギー17%,日本15%,メキシコ11%,その他の国23%,鉱石や精鉱では,メキシコ82%,カナダ18%,その他の国1%未満,スクラップが,カナダ51%,メキシコ37%,その他の国12%,製錬銅では,チリ64%,カナダ20%,メキシコ11%,その他の国5%が占める。
国内動向:2022年に米国内で銅の生産量が最も増加したのは,ユタのビンガムキャニオン(Bingham
Canyon)鉱山である。鉱石品位と実収率が2021年より上がったことと新たなオープンピットの開発による。アリゾナのモレンシ(Morenci)とサフォード(Safford)の両鉱山でも銅生産が増した。採掘,粉砕,抽出速度が増したことによる。アリゾナのミッション(Mission)鉱山は,労働力不足と銅鉱石品位の低下で銅生産を著しく減らした。アリゾナのガニソン(Gunnison)鉱山とネバダのパンプキンホロウ(Pumpkin
Hollow)鉱山は,技術的課題が長びいている。
2022年の米国内製錬銅生産は,2021年に比べ3%増加した。ユタのガーフィールド(Garfield)製錬所での予定外の休業や労働力不足による生産減少をアリゾナのマイアミ(Miami)製錬所に多量の銅精鉱が持ち込まれたことで米国全体としては生産量増減を相殺している。このほかノースカロライナでスクラップから銅アノードを生産する製錬所が9月に操業を開始している。
世界の生産量と埋蔵量:
2022年世界の銅鉱山生産量は2200万tと見込まれる。そのうち主要な生産国とその生産量は,チリ520万t,ペルーとコンゴ民主共和国がそれぞれ220万t,中国190万t,米国130万tである。埋蔵量は,生産量同様にチリが突出している。世界の製錬銅生産量は2600万tである。そのうち,中国が1100万tで,チリ210万t,コンゴ民主共和国170万トン,日本160万t,ロシア110万トン,米国100万tと続く。
世界の資源量:USGSが行った試算で,既知資源量は21億t,今後発見される鉱床は35億tと見込まれている。
銅の代替物:自動車のラジエーター,冷却チューブ,電機,電線でアルミニウムが銅の代用となる。熱交換器でチタンや鋼が銅の代用となる。電気通信では光ファイバーが,排水管など各種パイプではプラスティックが,それぞれ銅を代替する。
(2) よう素(Iodine)
米国内開発と用途:2022年,米国ではオクラホマの3社がよう素を生産している。会社の情報秘匿等が絡み,米国の産出量は未公表であるが2021年より減少した模様である。米国輸入分のよう素平均価格は41US$/kgで,2021年から26%上昇している。よう素原料と無機よう素化合物が米国内消費の50%余りを占めている。中間化合物を経るので,米国内の最終製品を正確に見積もるのは困難である。世界的には,X線造影剤,薬品調合,液晶ディスプレースクリーン,よう素殺虫剤の順に用途がある。そのほか,動物飼料や殺生物剤にも使われる。
リサイクル:少量がリサイクルされている。
輸入先(2018-2021):米国のよう素輸入先は,チリ
89%,日本
10%,その他
1%である。
市場動向:2022年初めの9ヶ月の引き渡し価格平均は67US$/kgで,2021年平均37.83US$/kgの77%増である。
2022年後半,欧州のいくつかの国ではよう化カリウム錠剤の配布や備蓄を始めた。ロシアがウクライナで核兵器を使用する懸念が出てきたからである。よう化カリウム錠剤は,被爆による放射性よう素が甲状腺に蓄積することを防ぐ。
世界の生産と埋蔵量:生産国は,多い順からチリ,日本,米国で,これらに続いて量は少ないが,トルクメニスタン,イラン,アゼルバイジャン,インドネシア,ロシアが続く。米国の生産を除くと,チリが世界の生産量の3分の2を占めている。主要な生産国のうち,チリでは硝酸塩鉱山からよう素を産し,日本では石油やガス田から産し,オクラホマ北西部ではよう素に富むかん水井戸から産する。USGS
(2022)によると,世界の総埋蔵量は610万tで,日本の埋蔵量が490万t,チリのそれは61万tである。
(3) 希土類元素(酸化物,rare-earth
oxide)
米国内の開発と用途:カリフォルニア州のマウンテンパスでバストネス石を産出する。米国南東部では,モナズ石が重鉱物砂精鉱の副成分として産出する。希土類化合物が米国西部で産出する。2022年に米国が輸入した希土類元素(化合物と金属)は2億US$で,2021年の1億6000万US$から25%増加している。
希土類元素の用途の主たるものは触媒である。かなりの量の希土類元素が永久磁石として輸入されている。そのほかの用途は,セラミックスとガラス,金属への添加や合金,研磨である。リサイクルによる希土類元素回収は,バッテリー,永久磁石,蛍光ランプで行われている。
市場動向:2022年の平均価格は,テルビウム酸化物2000US$/kg,ジスプロシウム酸化物390US$/kg,ネオジム酸化物130US$/kg,ユウロピウム酸化物30US$/kg,などである。2018年から2021年の米国の希土類(化合物と金属)輸入先と割合は,中国74%,マレーシア8%,エストニアと日本がそれぞれともに5%,その他
8%である。マレーシア,エストニア,日本の希土類化合物と金属は,それらの国がオーストラリア,中国,そのほかの国々から輸入した精鉱や中間化合物を加工したものである。
世界の生産と埋蔵量:2022年の世界の産出量は,希土類元素酸化物相当30万tで,2021年に比して1万t増えている。世界市場では中国が相変わらず優勢で21万tである。世界の埋蔵量は1億3000万t,そのうち中国4400万t,ベトナム2200万t,ブラジルとロシアそれぞれ2100万tが目立つ。
2. オーストラリアの2021年鉱物資源動向
ジオサイエンスオーストラリア(Geoscience
Australia,以下GA)ではオーストラリアの鉱物資源概況を年間単位で報告している。2023年の報告(Hughes,
et al., 2023)は,2021年末で確定した2021年の資源統計である。前出のUSGS
(2023)は,年頭出版で見込みを含んだ2022年の統計である。GA
(Hughes, et al., 2023) は,先行するUSGSの鉱物統計情報を世界ランキングなどの記述に活用している。
GA (Hughes, et al., 2023) では,現代がかかえる気候変動やネットゼロ経済の方向の資源戦略を前面に打ち出している。例えば,目次直後にバッテリー用鉱物2021としてリチウムの開発や経済効果を図解している。
GA (Hughes, et al., 2023) から,オーストラリアの鉱産物生産状況,諸鉱産物の世界ランキング,探鉱活動を紹介する。
(1) 鉱産物の生産状況
オーストラリアの鉱業は世界を牽引している。詳しくは後述するが,2021年,オーストラリアは,18の鉱産物生産で世界上位5ヶ国に入る。例えば,リチウムは世界の53%を生産している。
現代のテクノロジーに必須なクリティカルミネラルの生産額は,2020年から2021年にかけ,リチウムは38%,白金族元素は131%,それぞれ増加している。スカンジウム,バナジウム,コバルト,アンチモニー,タンタルではそれぞれ5%以上の増加である。
新規の開発として,西オーストラリアなどでリチウム鉱山が増えている。世界規模のニッケル-銅-白金鉱床が2021年11月西オーストラリアでチャリス・マイニング(Chalice
Mining Ltd)から発表されたことも特筆できる。
鉱産物のオーストラリア経済への貢献例として,鉄鉱,石炭,銅を紹介する。オーストラリアは,世界で最大の鉄鉱石を産出し世界の生産の36%を占める。2020年の1170億A$から2021年には1550億A$の輸出額となった。これは,鉱産物輸出全体の52%を占める。
GA (Hughes, et al., 2023)では,石炭をブラックコール(Black
Coal)とブラウンコール(Brown
Coal)に分けて記述している。前者は亜瀝青炭,
瀝青炭,無煙炭,後者は褐炭である。輸出に貢献するのはブラックコールで,2020年の430億A$から2021年には630億A$と輸出額が増え,鉱産物輸出全体の22%を占める。
銅価格は,世界経済の回復とともに2020年8902A$/tから2021年12413A$/tとなった。銅はオーストラリア輸出鉱産物の4%を占め,2021年120億A$余の輸出額であった。電気自動車や蓄電インフラに用いられ,さらに風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー施設建設や導線に用途がある。
(2) 資源量と生産量の世界ランキング
GAでは資源量として経済的実証資源(Economic
Demonstrated Resources; EDR)を重視している。それは,経済性が合理的長期的に見込まれる資源のことで,商業ベースの採算品位に照らした埋蔵量と異なる。
オーストラリアの資源量(EDR)は,金,鉄鉱,鉛,ニッケル,ルチル,ウラン,亜鉛,ジルコンが世界一である。そのほか多くの鉱産物は,その資源量が世界5番目以内に入る。ボーキサイト,ブラックコール,ブラウンコール,コバルト,銅,チタン鉄鉱,リチウム,マグネサイト,マンガン鉱,銀,すず,タングステン,バナジウムである。このうち,銀は,2020年にオーストラリアが世界一であったが,2021年に銀資源の品質が向上したペルーが世界一となった。ボーキサイトはベトナムの台頭で,オーストラリアの順位が二番目から三番目となった。ダイヤモンドの資源量はこれまで五番目であったが,アーガイル(Argyle)鉱山が閉山して世界に占める割合はわずかとなった。
生産量では,オーストラリアは,ボーキサイト,鉄鉱,ルチル,ジルコン,リチウムが世界一である。金と鉛は二番目,ブラックコール,コバルト,マンガン鉱,亜鉛は三番目,アンチモニー,希土類元素,ウランは四番目,マグネサイト,ニッケル,銀,タンタルは五番目である。
(3) 探鉱活動
2021年は金や鉄鉱の価格が上昇したため,オーストラリアの探鉱活動は活発であった。探鉱額は,2020年の28億900万A$から2021年には35億9600万A$と28%増えた。
グリーンフィールド(本格的な開発が行われていない地域)で,2020年の9億5700万A$から2021年には12億800万A$と26%増えた。試錐延長は,2020年3736500mから2021年4120500mと10%増である。ブラウンフィールド(開発が行われているか,かつて開発が行われた地域)では,探鉱額が2020年18億5200万A$から2021年23億8800万A$と29%増えた。試錐延長は,2020年6996500mから2021年9090100mと30%増えた。
州単位では,西オーストラリア州(34%増の23億5100万A$)とビクトリア州(43%増の2億1900万A$)がこれまでで最高の探鉱活動額を記録した。オーストラリア国内上位2州の割合は,西オーストラリア州が65%,クィーンズランド州が12%(4億4500万A$)である。伸びでは,タスマニア州が著しく,ほぼ倍の94%増の2100万A$であった。
以上の解説にひきつづき,GA
(Hughes, et al., 2023)では,鉱種ごとに稼行鉱山数,生産量,輸出額,世界ランキング,主要な用途を簡潔に記している。鉱床位置は,オーストラリア全土の地質概略図上に規模の違いもわかるよう記されている。
3. ザンビアの地球化学図と鉱床有望地
ザンビア経済は銅生産に依存しているが,銅以外の資源を開発することも期待されている。そこで中国ザンビア共同でザンビアの地球化学図作成が行われた(Sun
et al., 2024)。ここでSun et al. (2024)から,成果物である5元素(Li,
Be, Nb, Rb, Sr)の地球化学図に基づく探査地域提案を紹介する。
ザンビアは内陸国で,北がコンゴ民主共和国,北東がタンザニア,東がマラウイ,南東がモザンビーク,南がジンバブエ,南西がナミビアとボツワナ,西がアンゴラと接している。ザンビア北部からコンゴ民主共和国にかけては,銅鉱山が密集したカッパーベルトである。
地質学的にザンビアは以下の10の地質ユニットからなる(Sun
et al., 2024)。
(1) キバラン帯(Kibaran
Belt)は,コンゴ民主共和国から連続しザンビア北部に分布する。ロディニア大陸形成時メソ原生代(1.4-1.0
Ga)の地質帯で,堆積岩類とそれに貫入する花崗岩類からなる。堆積岩類は弱い変成作用を被っている。
(2) バングウェウルブロック(Bangweulu
Block)は,ザンビア北部から北東部のコンゴ民主共和国とタンザニア国境にかけて分布する。パレオ原生代の結晶片岩,花崗岩類,火山岩類からなる。それらにメソ原生代の河成,風成,湖成の堆積物が不整合に重なる。
(3) イルミデ帯(Irumide
Belt)は,ザンビア東部から南東部へ分布する。クォーツァイトと泥質岩類が主要な地質で,パレオ原生代の花崗岩質基盤岩類に不整合で重なる。これらにはさまる凝灰岩から1.9
Gaの年代値が得られている。さらに1.6
Ga前後と1
Ga前後の花崗岩類が貫入している。
(4) カルーグラーベン(Karoo
Graven)は,イルミデ帯の中央に北東―南西方向にのびて分布する。中生代から新生代の堆積岩類と第四紀礫層からなる。
(5) ルフィリアン帯(Lufilian
Arc Belt)は,ザンビア北西部に分布する。ザンビアカッパーベルト(Zambian
Copperbelt)からコンゴ(民主共和国)カッパーベルト(Congolese
Copperbelt)に広がる。ネオ原生代の堆積岩類からなる。銅とコバルト資源に富み,エメラルドも産する。
(6) ドーム地域(Domes
Region)は,ルフィリアン帯中に散在している。ミグマタイト,片麻岩類,変形花崗岩類からなる。
(7) フック深成岩類(Hook
Granite Complex)は,ザンビア内のやや西寄りに分布する。ゴンドワナ超大陸形成時期のクラトン衝突で形成された550
Ma深成岩類である。苦鉄質火成岩類と大量のけい長質火成岩類からなる。
(8) ザンベジ帯(Zambezi
Belt)は,イルミデ帯の延長方向のザンビア南西部に分布する。厚い変成した堆積岩類からなる(550-520
Ma)。後期メソ原生代(890-880
Ma)の片麻岩類や花崗岩類と不整合か断層で接する。
(9) チョマ・カロモブロック(Choma-Kalomo
Block)は,ザンベジ帯の南にあり,ザンビア南部に分布する。パレオ原生代の堆積岩類起源片麻岩類と片岩類からなり,メソ原生代の花崗岩類が貫入する。
(10) カラハリ砂漠(Kalahari
Desert)は,ザンビア西部の第三紀から第四紀の堆積物である。砂岩とクォーツァイトからなる。ザンビア西端では未固結の砂である。
Sun et al. (2024) では,地形から流系を明らかにして乾季に河川堆積物を採取した。対象面積に幅があるが,平均して1000km2あたり1試料,総計735試料を化学分析した。BeとLiをICP-MS,Nb,Rb,SrをXRFで分析した。Sun
et al. (2024) は堆積物のそれぞれの元素濃度分布を地球化学図で示し,複数の元素が高濃度となる地域を鉱床有望地とした。高濃度とは,Liで9.3ppm,Beで1.49ppm,Nbで21.4ppm,Rbで85.6ppm,Srで113.8ppm以上である。
ザンビア南東側のジンバブエ,モザンビーク,マラウイとの国境沿い,南から東にかけ順に,Ⅰ地域,Ⅱ地域,Ⅲ地域,Ⅳ地域,ザンビア北部のⅤ地域が鉱床有望地である。
Ⅰは,ザンビア南部でジンバブエと接する地域である。地質区分ではチョマ・カロモブロックにあたる。上で記したように片麻岩類と片岩類ならびにメソ原生代の花崗岩類からなる。Li,Be,Rbが高濃度である。
Ⅱは,Ⅰ地域の北東で,地質区分ではザンベジ帯にあたる。大量の花崗岩類が鉱化作用をもたらしていると考えられる。Li,Sr,Rbが高濃度である。
Ⅲは,Ⅱの北東で,地質区分ではイルミデ帯にあたる。片麻岩類,変成した堆積岩類,花崗岩類からなる。Li,Be,Sr,Rbが高濃度である。
Ⅳは,Ⅲの北東で,ザンビア南東部になる。モザンビークとマラウイに接する。イルミデ帯にあたり,花崗岩類が広く分布する。鉱化作用が顕著に認められ,Be,
Nb, Rb, Srが高濃度である。
Ⅴは,ザンビア北部で地質はバングウェウルブロックにあたる。Be,Nb,Rbが高濃度である。コンゴ民主共和国との国境の塩湖に希少金属鉱床が分布する。ⅠからⅣ地域では花崗岩類に関連する鉱床が有望視されるが,Ⅴ地域では塩湖の希少金属鉱床に期待がある。
4. ボアホール熱交換による英国での深部地熱エネルギー利用
地熱は化石燃料に代わるエネルギーの一つである。1973年の石油危機が引き金となり,英国では深部地熱エネルギー探査が始まった。ペルム紀-三畳紀の堆積岩類と花崗岩類を対象とした。花崗岩類利用では人工的な割れ目を作り透水性を高める技術が開発された。その後,1980年代に北海油田が開発され石油輸出国となったことと十分な熱源利用に至らないことで,地熱開発は実用化しなかった。
脱炭素経済の機運が起こり深部地熱エネルギーが再び注目され,英国では2004年から2011年に探査が行われ商業ベースで開発が進められた。その一つ,イングランド南西端のコーンウォール(Cornwall)では,ジュビリー(Jubilee)屋外プールの水を地熱エネルギーで加熱している。
このような背景の中,英国で進められている新たな地熱開発技術をBrown
and Howel (2023)から紹介する。それはボアホール熱交換(Borehole Heat
Exchangers; BHEs)である。ボアホール熱交換は,掘削孔を使って流体を循環して熱交換器内を通して地中から熱を取り出すもので,新しい考えではないが,これまで地下300m未満の浅部が対象であった。英国ではより深部をめざしている。
ここでのBHEsは一軸システムを使う。パイプを二重にしたもので,環状空間,つまり外側のパイプと内側のパイプの間に冷たい水を注入する。水が下降して地温勾配にしたがい温まる。底まで来ると内側のパイプを通って地表へ上昇し循環する。
従来型は底まで閉じているが,コーンウォールでは,パイプの底近くではパイプの壁に穴があり,帯水層からの流体が開放的に接して熱交換が行われる。現在はBHEs周囲の3D温度分布などのモデル化の段階である。対象はイングランド北西部のチェシャー堆積盆(Cheshire
Basin)のペルム紀‐三畳紀の砂岩泥岩で,特にヘルスビー(Helsby)砂岩が有望視されている。
英国の強みとして,かつての石油・天然ガス生産井が残っていることをBrown
and Howel (2023)はあげている。かつての井戸を再利用することで経費を抑えることができる。
Ⅲ 地域地質とジオパーク
1
ワイオミングクラトン
地球の前半20億年の記録を残す地殻が,断片的ながら全ての大陸に存在している。しかしながらその多くは遠隔地にある。ワイオミングクラトンは,山岳地域であるが米国内にあるためアクセスが比較的容易である。Frost
et al. (2023) は,このクラトンを紹介し始生代の大陸形成を語った。
クラトンの位置と地質概略をFrost
et al. (2023)からふれる。ワイオミングクラトンは,後期白亜紀から古第三紀の地質体で隠れている部分を含めワイオミング州のほぼ全域を占め,延長がモンタナ州,アイダホ州,ユタ州,サウスダコタ州の一部にかかる。クラトン中央部をベアトゥース-ビックホーン火成岩帯(Beartooth-Bighorn
magmatic zone: BBMZ)が占める。3.5-2.6Gaの花崗岩類や片麻岩類からなる。このBBMZの北西がモンタナ変成堆積岩テレン(Montana
metasedimentary terrane: MMT)で3.5-2.7Gaの斜長石に富む石英長石質片麻岩類からなり,ネオ始生代変成岩類に取り込まれている。BBMZの南側が南部付加テレン(Southern
accreted terranes; SAT)で,2.7-2.6Gaのグレーワッケ,苦鉄質岩類,けい長質貫入岩類からなる。
世界のほかの始生代大陸地殻では古い方から順に,苦鉄質地殻,トロニエム岩-トーナル岩-花崗閃緑岩(trondhjemite-tonalite-granodiorite:
TTG),プレートテクトニクスにより形成された地質体という3ステージが共通である。これはワイオミングクラトンでも同様である。ただ,古い苦鉄質地殻の岩石は見出されておらず,砕屑性ジルコンからその存在を推定できる。以下,それぞれのステージごとにワイオミングクラトンの発達史をFrost
et al. (2023)から紹介する。
形成史の最初の古い苦鉄質地殻は,イルガルン(Yilgarn)など世界のいくつかの地域で岩石が残っている。ワイオミングでは,4.0-3.2
Gaの年代値をもつ砕屑性ジルコンがクラトン北部で知られている。BBMZ南側でSATとの境界近くのグラニット(Granite)山脈とウィンドリバー(Wind
River)山脈ではエオ始生代のジルコン(3.8
Ga)がゼノクリストとして報告されている。鉛同位体組成から冥王代苦鉄質地殻の存在が示唆される(Frost
et al., 2023)。
次はTTGステージである。2.9
Gaより古い大陸地殻にはTTGが卓越する。わずかにパーアルミナスでカリ長石に乏しい岩石(石英長石質片麻岩類)からなる。3.5-3.45
Gaのトロニエム岩質片麻岩類が北のベアトゥースと南のグラニット山脈に産し,3.3-3.2
GaのTTGがBBMZとMMTに産する。
プレートテクトニクスが本格化して,ネオ始生代の地質体が形成された。ワイオミングクラトン中央のBBMZでは,海洋リソスフェアが大陸地殻に沈み込み,関連したカルクアルカリ質火成活動があり,バソリスがビックホーン(Bighorn)山脈(2.86-2.84
Ga)とベアトゥース(Beartooth)山脈(2.83-2.79
Ga)に産する。BBMZ西部のティトン山脈(Teton
Range)には大陸-大陸の衝突テクトニクスによるグラニュライト相に達する変成作用(2.68
Ga)が認められる。
海洋性火成岩や未成熟の砂岩の異地性岩塊がBBMZの南縁に産する。2.65-2.63Gaに付加した(SAT)。この付加体形成より少し遅れてコリジョンの特徴を示す強パーアルミナス花崗岩類が2.64-2.60Gaに貫入した。
これらからFrost
et al. (2023)は,ワイオミングクラトンの始生代地殻形成史をまとめた。初期にはマントルプルームで苦鉄質地殻が厚くなった。部分溶融でわずかにジルコンを含むけい長質メルトが生じた。次にTTG地殻が形成された。サブダクションが始まり,苦鉄質地殻は深部へと運ばれた。マグマ弧,大陸のコリジョン,付加作用が続く。
2
持続可能教育モデルのコスタナザ鉱山
社会が持続可能な未来をめざすようになり,ジオパークはジオツーリズムを通じて持続可能な教育を実現するものと位置づけられるようになってきた。ジオツーリズムや地学教育で野外活動から地球を学び,景観の背後の意味するところを理解して,地質ヘリテージを保護する意識を高める。
このような観点で,Martínez-Martín and Mariñoso (2023)は,「鉱物が地球科学教育の鍵である」としてコスタナザ (Costanaza) 鉱山を紹介している。コスタナザ鉱山から,社会の過去,現在,未来を学ぶのである。
コスタナザ鉱山は,スペイン西部,エストレマドゥーラ(Extremadura)州のログロサン(Logrosán)という小さな町にある。ヴィルエルカス-イボレス-ハラ(Villuercas-Ibores-Jara)ジオパークの重要なジオサイトである。2009年のログロサン博物館開館を機に,見学施設が整備された。この鉱山見学では,かつてリン酸塩鉱物資源が探鉱開発されていたことを知り,地域の生活や社会の慣習が時代とともにどう変化したかを追うことができる。
鉱山の坑道は,14レベルに展開し深度210mに達する。そのうちの2レベルが公開されている。
鉱床と開発史をMartínez-Martín and Mariñoso (2023)から記す。花崗岩体(350Ma)が貫入し,頁岩中の断層に鉱化作用をもたらし,5層のりん酸塩シームが形成された。このうちのコスタナザシーム(Costanaza seam)が1863年から1946年に開発された。用途は肥料である。
採掘された粗鉱は選鉱され精鉱となる。それは,サラマンカ(Salamanca)の工場へ運ばれ製品化された。鉱山の近くにも工場があったが,そこは低品位鉱を対象にしていた。
1926年にビジャヌエバ・デ・ラ・セレナ(Villanueva de la
Serena),ログロサン,タラベラ・デ・ラ・レイナ(Talavera de la Reina)をつなぐ運搬ルート建設が始まったが,1939年のスペイン市民戦争のため,完成に至らなかった。加えて北米からの輸入が増え肥料の価格が下がり開発を続けることが困難となり,1946年に鉱山は閉山した。
現在,鉱山見学ツァーでは,博物館,ビジターセンター,鉱山坑内をめぐる。この過程で,鉱山開発の工程,地質構造,作業用具,小さな鉄道を見ることができ,当時の坑夫の仕事をしのぶことができる。
ツァーの目玉は岩石鉱物である。鉱山の火薬庫跡には300以上の蛍光鉱物が陳列されている。それらは,部屋を暗黒にして紫外線をあてると輝く。ツァーでは鉱山内外をめぐり,地域の地質や社会,そして歴史を学ぶことができる。すなわち,りん酸塩がログロサンの経済の基礎であったことを発見できる。
このようにコスタナザ鉱山では,鉱業を通して社会が地球(ジオ)からの恵みを得てきたことを知ることができる。結論として,Martínez-Martín and Mariñoso (2023)は,地質ヘリテージの理解を深めるジオツーリズムが地学教育を促進するとしている。
3 チェジュ島(済州島)ジオパーク
チェジュ島は,朝鮮半島の南西に位置し,日本海,東シナ海,黄海の間にある火山島である。島の中心は海抜1950mのハルラサン(Mt. Hallasan,漢拏山)でアルカリ玄武岩からなる楯状火山である。その周囲には370の単成火山が分布している。島の周囲は,波浪で浸食された凝灰岩が独特の地形を呈している。
チェジュ島は,周辺の島々とともに2010年にグローバルジオパークと認定され,2015年にユネスコグローバルジオパーク(UNESCO Global
Geopark, UGGp)となった。Jeon et al.(2023) によると,チェジュ島ジオパークは地域経済や地質の価値の認識向上に貢献している。ことにジオトレイル(Geotrails)とジオブランド(Geobranded)からこのジオパークの特色を知ることができる。
Jeon et al. (2023)の写真(Figure 2)で以下の13のジオサイトを知ることができる。なお,Jeon et al.(2023)では記していないが,以下では観光ガイドで使用されている漢字地名を併記する。ハルラサン(Mt. Hallasan, 漢拏山)楯状火山,マンジャングル(Manjanggul,萬丈窟)の溶岩チューブ,ソンサンイルチュルボン(Seongsan
Ilchulbong,城山日出峰)のタフコーン,ソギポ(Seogwipo,西帰浦)層の貝化石,チェンヂョン(Cheonjiyeon,天地淵)瀑布,チュンムンデアポ(Jungmun Daepo,中文大浦)の柱状節理,ヨンモリ(Yongmeori,竜頭)のタフリング,サンバンサン(Mt. Sanbangsan,山房山)の古い火山構造,スウォルボン(Suwolbong,水月峰)のタフリング,ウド(Udo Island,牛島)のタフコーンとロードリス(紅藻団塊)海岸,ピヤンド(Biyangdo Island,飛楊島)のスコリアコーン,ソンフル・ゴッジャワル(Seonheul Gotjawal)のラムサール条約指定湿地,ギョラエサムダスー村(Gyorae Samdasoo Village)の沼沢地と森林。
チェジュ島ジオパークでは,地域経済と地元の活動を盛り上げるため,ジオブランド概念を導入した。内容は,ジオサイトである地質ヘリテージをめぐるトレイル,宿泊,食,教育,土産,活動,フェスティバルの企画や開発である。ジオブランドの一例として,食(ジオフード)と教育を紹介する。
食は,ソンサンイルチュルボンのタフコーンを模したマフィン,火山の成層断面に似せたパン,溶岩ドーム状のパスタなどがジオフードの例である。直観的にジオサイトの特徴や形成プロセスを理解できる。
教育はジオアカデミーとジオスクールからなる。ジオアカデミーは対象が一般向けで,地質ヘリテージへの理解を深めてもらいジオサイトでジオガイド活動ができるまでになることをめざしている。ジオスクールは小学生を対象として,年に8-9回開催される。専門家やジオガイドが生徒に地質ヘリテージを紹介する。Jeon et al. (2023) の写真 (Figure 5) を見ると,凝灰岩の成層構造観察や貝化石の産状のスケッチをする生徒たちの真剣なようすが伝わる。
チェジュ島ジオパークには4つのジオトレイルが用意されている。島の西のスウォルボン(Suwolbong,水月峰)ジオトレイル,島の南西のサンバンサン(Mt. Sanbangsan,山房山)-ヨンモリ(Yongmeori,竜頭)ジオトレイル,島の東のキムニョン(Gimnyeong,金寧)-ウォルジョン(Woljeong,月亭)ジオトレイル,島の東側の内陸に入ったギョラエ(Gyorae)ジオトレイルである。Jeon et al. (2023) は,最初に整備されたジオトレイルであるスウォルボンジオトレイルとごく最近ジオトレイルになったギョラエジオトレイルを紹介している。
スウォルボンは,農業と漁業を生業とする村で,ジオパーク認定前には釣り人が訪れる程度であった。歴史,文化,地質,生態に多くの地域資源があることから,2010年のチェジュ島ジオパーク認定に伴い,スウォルボンジオトレイルが整備された。内容は次の通りである。
スウォルボンの主たる地質の見どころは,火砕サージにより形成されたタフリングの堆積構造である。歴史面では,新石器時代の埋蔵物が1990年に発見された。住居跡,矢じり,土器が見つかり,チェジュ島定住が1万年前までさかのぼるとされた。日本軍による太平洋戦争末期のトンネルは,20世紀の重要な歴史遺産である。貴重な生態も残され,ナベヅル,水牛,タカが海岸沿いに広く生息している。文化面では,毎年行われる地域の伝統的祭りが注目できる。次の3コースに分けられる。
Aコース;スウォルボンの南北に伸びた海岸沿いのコースである。溶岩流,黒い海岸,タフリングの崖,柱状節理,滝が見どころである。生態系の見どころもあり,さらに先史遺跡や日本軍のトンネルがある。
Bコース;ダンサンボン(Dansanbong,唐山峰)を周回するコースである。タフコーン内のスコリアコーンや溶岩流を観察できる。鳥の営巣地や海岸の神社を訪ねることができる。
Cコース;本島そばの無人島チャグィド(Chagwido,遮帰島)を周回するコースである。タフコーン,スコリアコーン,溶岩流,岩脈,海食柱(sea stack)がある。生態系の見どころもある。
ギョラエジオトレイルは,ギョラエサムダスー村のピットクレーター北西の緩斜面にあり,溶岩台地の上に広がる森の中を通る。深さ100mほどのくぼみとなっているサングムブリ(Sangumburi)ピットクレーター,チェジュストーン文化パーク,多種多様な植生のエコランドなどからなる。
このトレイルには3コースが用意され,いずれもさまざまな溶岩流の産状を観察できる。アア溶岩のクリンカー,パホイホイ溶岩,縄状溶岩である。Jeon et al. (2023) のコース図には,カエデ,バイケイソウ,アニスの生育サイトも記されている。
Jeon et al. (2023) は,チェジュ島ジオパーク来訪者数変遷やアンケート結果から今後のジオパーク活動の展開を論じている。その中で,ジオトレイルの将来を危惧する文がある。そのあらましは次の通りである。
ジオトレイルは,教育や地元経済に貢献しているが,訪問者数増加が地質ヘリテージの維持や保護の面の脅威となる懸念がある。訪問者が十分に管理されていないと自然や文化ヘリテージに打撃を与えるリスクが増す。繁忙期には,ジオトレイルルートのごみ散乱やヘリテージ浸食の恐れがある。現在は,訪問者増加に対応して,ギョラエやスウォルボンではジオサイトのガイドブックを出版し,トイレ,インフォーメーションブース,標識の充実を進めている。将来的には,訪問予約制度導入や一日の訪問者数の制限まで視野に入れている。
Ⅳ.地学教育
1.
岩石入門:花崗岩類
ロンドン地質学会(The
Geological Society of London)と英国地質協会(The
Geologists’ Association)が発行するGeology Todayでは年に1-2回岩石や鉱物の解説を行っている。2023年にはBrooks
(2023)が花崗岩類を解説している。その内容の多くは日本語の教科書で参照できるが,日本語より英語の方が理解しやすい初学者に有効である。ここでは,Brooks
(2023)の中から花崗岩類形成と貫入様式の節を主に紹介し,ほかは項目の羅列にとどめる。
花崗岩類は,粗粒の貫入岩で大陸性地殻を特徴づける。名称(granite)は,粒(grain)の意のラテン語granumにちなむ。
花崗岩類分類はスイスの地質研究者Alfred
Streckeisenの提案が原形で,アルカリ長石,石英,斜長石の量比に基づく (例えば,Le
Maitre, 1989)。この分類は,日本語の教科書(例えば,榎並,2013)で参照できる。これに従うと狭義の花崗岩は,20-60%の石英,35-90%のアルカリ長石,10-65%の斜長石である。花崗閃緑岩やトーナル岩など狭義の花崗岩周辺の岩石をグラニトイドあるいは花崗岩類(granitoids,granitic
rocks,granites)と括ることが多い。
Brooks (2023)の花崗岩類の産出例の節では,北米西部のバソリスの分布図が示され本文に解説がある。さらにアンデス,ヒマラヤ,アイルランド,スーダンの花崗岩類を記述している。さらにPearce
et al. (1984) の花崗岩類のテクトニック識別図 (Y+NbとRb)での各テクトニクス場の代表的な花崗岩類が記されている。
花崗岩類タイプの節では,Chappell
and White (2001)によるIタイプ,Sタイプ,Aタイプ花崗岩類の化学的性質を述べている。パーアルミナス,メタアルミナス,パーアルカリ領域をAl2O3,Na2O+K2O,CaOの三角図で示している。このタイプ分けも日本語教科書で参照できる。
Brooks (2023)の花崗岩類形成の節では,最近の日本語の教科書であまりふれていない花崗岩化作用などの歴史的内容から始まる。
花崗岩類の起源は,長く議論の対象であった。すなわち,火成岩(マグマ)起源なのか,花崗岩化作用の産物かである。花崗岩化作用とは,既存の岩石が流体の関与する交代作用で花崗岩類に変化するというものである。この決着に野外の観察からは限界があり,Tuttle
and Bowen (1958)による実験で解決できた。石英-アルバイト-正長石系の溶融最低温度点付近が天然の花崗岩類の化学組成の集中する範囲で花崗岩類がマグマ起源と結論できる。しかしながら玄武岩マグマからの分化作用の産物なのか,既存岩石の部分溶融によるのか,課題が残った。
玄武岩マグマが結晶化を起こす際,はじめに生じたかんらん石が液と反応せずとり除かれると,最終的に2%の石英を生じる。花崗岩類8%相当である。この分別が酸化条件下で起こるとかんらん石と輝石はMg端成分となり,鉄が磁鉄鉱形成に使われ,8%の石英が生じる。20%の花崗岩類である。玄武岩マグマの分化の典型例であるグリーンランドのスカエルガード岩体は示唆的で,この岩体で岩脈やシルとして産する花崗岩類(グラノファイアー)は少量である。
したがって,大量の花崗岩質マグマ形成では玄武岩マグマの分化は主要な役割をせず,既存岩石の部分溶融を考えることになる。このためには,熱源と溶融温度を引き下げる水やそのほかの揮発成分が必要となる。熱はアンダープレートの玄武岩マグマを考え,水は沈み込むスラブ中の堆積物の脱水作用を考える。
既存岩石の部分溶融を考えるのに,先に述べた花崗岩類のタイプ分けが花崗岩質マグマの性質を知る指標となる。Sタイプ花崗岩類は堆積岩の部分溶融で生じたマグマと考えられる。高いAl2O3,堆積岩ゼノリスの存在,高い87Sr/86Srを特徴とする。Iタイプは,火成岩の部分溶融により生じる。Aタイプは必ずしも明快でないが,玄武岩マグマの分化作用でしばしば生じ,アルカリ苦鉄質岩,閃長岩,ネフェリン閃長岩を伴う。珪質岩石を同化した閃長岩由来のマグマであることもある。
花崗岩類定置の空間を説明する問題がある。ことに底なしの大きな体積のバソリスを想定する場合に説明が必要である。この説明として,既存の岩石が流体の関与で花崗岩類となる花崗岩化作用を主張するグループがあった。
マグマに起源をとる立場では,花崗岩化作用を考えない定置機構として,ダイアピルやストーピングを提案した。ダイアピルでは,マグマが風船状で周囲の岩石を押しのけ上昇する。ストーピングでは,マグマの天井部の岩石をブロックに破壊しながら上昇する。そのブロックはマグマ内を沈んでいく。花崗岩質マグマの密度は2.4Mg/m3(g/cm3)で,周囲の岩石の密度2.8Mg/m3(g/cm3)より小さいので,地殻内でマグマは上昇しやすい。
Brooks (2023)が地質図とともに紹介したアイルランドのドニゴール(Donegal)では,部分溶融,ダイアピル,ストーピングを示す花崗岩類の産状を観察できる。トール(Thorr)岩体は,岩石が部分溶融した産状を示し,優白質のリューコゾームと苦鉄質のメラノゾームに分離したミグマタイトからなる。リューコゾームは初期の花崗岩質メルトでそれらが合体してダイアピルで上昇していく。その際,メラノゾームは苦鉄質レスタイトとして深部に残る。その例は,アルダラ(Ardara)岩体である。浅部に至ると,ストーピングで上昇する。その例はロス(Rosses)岩体である。
Brooks (2023)は,バソリスについてPetford
and Clemens (2000)を一読することを勧めている。その内容を簡単に記す。バソリスは,ギリシャ語の深い(bathus)と岩石(lithos)に由来する。花崗岩類は,地殻深くまで続くと考えられてきた。地質学黎明期の水成論では,花崗岩類は始原海洋で最初に沈積した最下位層と考えられたことが背景にあるらしい(Brooks,
2023)。精度のよい地震調査が行われるようになり,バソリスとされてきた岩体の底は浅いことが明らかになってきた。北米や南米の西海岸沿いの岩体は,平均して5kmの厚さで平面的な広がりの20分の1である。Petford
and Clemens (2000)によれば,バソリスがこのように薄い板状であれば,マグマが貫入する際に必要な空間は大幅に減ることになる。
さらに,Brooks
(2023)では花崗岩類を使った記念碑,放射線,ペグマタイトと節が続く。
2.
地質図作成プログラム
詳細な地質図は多くの地球科学研究の基礎となり,また,それは防災,資源探査,インフラ整備に利用される。EDMAPプロジェクトは,USGSと大学が連携して地球科学系学生にインターンシップを兼ね,地質図作成トレーニングの機会を与えるものである。Shelton
et al. (2023) からこのプロジェクトの概要を紹介する。
このプロジェクトでは,学生が地質調査を経験し地球科学データ解析技術を習得する。プロジェクトは,学生に技術的な支援のみならず,資金的サポートも行う。
受講対象は,学部上級の学生と大学院生である。プロジェクト開始前に,全員地球科学概論を受講する。野外調査特化プロジェクト(Field-Focused
Projects)とデータ解析総合化プロジェクト(Data Synthesis
Projects)の二つの選択コースがある。野外調査特化プロジェクトでは,野外調査を優先的に行い地質図作成が必須である。データ解析総合化プロジェクトでは,コンピューターを駆使してリモートセンシング,機械アルゴリズム,スマートフォンへの応用を行う。このコースでも最小限の地質図作成経験をつむ。
西ワシントン大学で実施された事例を紹介する。地質調査が2021年に実施された。主題は「西セイディークリーク断層系(Western
Sadie Creek Fault System)の地質」で,2022年に地質図が公表された(Duckworth
et al., 2022)。
調査はバンクーバーとシアトルの間の地域で行われ,地質図(Duckworth
et al., 2022)は10000分の1縮尺でまとめられた。地質学位置づけは,ファンデフカプレートがカスカディアサブダクション帯で北アメリカプレートに沈み込むところである。地質図の範囲は,北アメリカプレート側のオリンピック山地である。
西セイディークリーク断層系は,オリンピック半島において航空機搭載型ライダーで見つかった。この研究では,ライダーデータと地表地質調査結果を組合せ,第四紀の氷期と後氷期の地形に残されている地震のすべりの運動像を求め,地震の規模や頻度を明らかにした。この成果は,インフラストラクチャーの地震災害リスクの理解を進め,地域の減災へ貢献する。
謝 辞 ジオサイエンスオーストラリアのCallum Kucka氏から石炭の区分について教えていただいた。Sun Hongwei氏にはザンビアの地質に関する質問に答えていただいた。Episodes編集幹事Youngsook
Huh氏から論文引用に便宜を図っていただいた。さらに高澤栄一編集委員長からご助言をいただいた。ここにお礼申し上げます。
引用文献
Brooks, K. (2023): Rocks Explained 3,
Granites. Geology Today, 39, 196-202.
Brown, C. S. and Howel, L. (2023): Unlocking
deep geothermal energy in the UK using borehole
heat exchangers. Geology Today, 39,
67-71.
Chappell, B.W. and White, A.J.R.
(2001): The contrasting granite type: 25 years later. Australian Journal of Earth Sciences, 48,
489-499.
Duckworth, W.C., Perez, Y.E., Amos,
C.C., Schermer, E.R. and Polenz, M. (2022): Surficial geologic map of the Sadie
Creek fault, Clallam County, Washington. Washington Geological Survey Open File
Report 2022-01, 1 sheet, scale 1:10,000.
榎並正樹(2013): 岩石学(現代地球科学入門シリーズ16).pp.
254,共立出版.
Frost, C.D., Mueller, P.A., Mogk, D.W.,
Frost, B.R. and Henry, D.J. (2023): Creating continents: Archean cratons tell
the story. GSA Today, 33,
4-10. Hughes, A., Britt, A., Pheeney, J., Summerfield, D., Senior, A. Hitchman,
A., Cross, A., Sexton, M., Colclough, H. and Hill, J. (2023): Australia's identified
mineral resources 2022. pp.60, Geoscience
Australia.
Jeon, Y., Koh, J. and Southcott, D. (2023):
A case study of Geopark activation through Geobranding and Geotrails at the
Jeju Island UNESCO Global Geopark, Republic of Korea. Episodes 46, 211-227.
Le Maitre, R.W. (1989): A classification
of igneous rocks and glossary of terms: recommendations of the International Union
of Geological Sciences. Subcommission on the Systematics of Igneous Rocks. pp.
193, Blackwell Scientific Publications, Oxford.
Martínez-Martín,
J.E. and Mariñoso,
P.E. (2023): Minerals as key factors for sustainability education: the Costanaza
mine model. Episodes, 46, 63-68.
Pearce, J.A., Harris, N.B.W. and
Tindle, A.G. (1984): Trace element discrimination diagrams for the tectonic
interpretation of granitic rocks.
J. Petrology, 25, 956-983.
Petford, N. and Clemens, J.D. (2000):
Granites are not diapiric! Geology
Today, 16, 180-184.
Shelton, J.L., Swezey, C.S. and Marketti,
M. (2023): EDMAP, Training the next generation of geologic mappers. USGS Fact Sheet 2023-300, 1-4.
Sun, H., Ren, J., Wang, J., Zuo, L.,
Gu, A., Wu, X., Xu, K., Mukofu, C., Dokowe, A.P., Cao, S. and Cheng. X. (2024): Enrichment characteristics and metallogenic significance
of rare elements in Zambia: Based on 1:1,000,000 geochemical mapping. Geological J., 59, 934-950. (Download
date: Nov. 19, 2023)
Tuttle, O.F. and Bowen, N.L. (1958):
Origin of granite in the light of the experimental studies in the system NaAlSi3O8-KAlSi3O8-H2O. Geol. Soc. America Memoir 74. pp. 153.
USGS (2023): Mineral commodity summaries
2023. pp.210, USGS.