付録:マンガン鉱床

広見線沿線ではかつてマンガンを採掘していた。この機会に,マンガン鉱床を通観し,資源経済の一端にふれてみる。

 

1.鉱床の形成(野崎ほか,2018

海洋の酸化や還元は氷床の発達と関係している。

現世と後期ジュラ紀では氷床のあるなしで,深層流が発生するか否かの違いとなり,海底が酸化的か還元的かの違いを生じる。すなわち,現世(0 Ma)は,氷床があり,底層流があり低いCO2濃度。酸化海洋。これに対して,後期ジュラ紀(150 Ma)では,氷床がなく,海洋は成層し,海底近くは無酸素で還元的。また,この頃は熱水作用が盛んで金属の供給があった。

現世のような比較的寒冷な気候では,極域に氷床が発達して海洋大循環により海洋深層まで酸素がゆきわたる。マンガン団塊,マンガンノジュール,レアアース泥の生成や保存に有利。後期ジュラ紀海洋無酸素事変では海洋深層に還元的環境が広がって硫化鉱物の保存に寄与した。

層状マンガン鉱床は,ジュラ紀付加体である美濃―丹波帯やその地質延長に最も多く分布している。このうち,緑色岩(火山岩)を伴わない鉱床を考える。下位より層状チャート,黒色頁岩,塊状チャート,層状マンガン鉱床,頁岩を伴う層状チャート,珪質泥岩,砂岩という地質である。

美濃帯の鉱床では,元々は酸化環境で鉄マンガン酸化物や水酸化物が沈殿し,その後,黒色頁岩から支持される還元環境となる。その環境でマンガンの溶解と再移動がおこり濃集した。このような還元的でよどんだ深海底に,表層から富酸素・貧シリカの酸化的海水が流れ込み,濃集したマンガンが酸化物となり固定,マンガン鉱床が形成した。

 

2.日本のマンガン鉱山の変遷(広渡,1980

19世紀中ごろ,マンガン鉱注目,染料,薬品,ガラス着色,乾電池に利用。

19世紀末から20世紀初期,製鉄や製鋼に用いられるようなる。

1次大戦勃発,急速に鉄鋼業の発展を促進。

1920-1924年,苦難の時代

1931年満州事変から1944年第2次大戦頃はマンガン鉱業の黄金時代。

19431944年に年産34-35万トン。

1945-1948年,低調。

1950年,朝鮮動乱で鉄鋼業需要がありマンガン鉱業活気をとりもどす。

1958-1959年,再び年産35万トン,第2次黄金時代。

1960年代,貿易自由化で国内圧迫,生産伸び悩む。鉄鋼業界増産でかろうじて支えられる。

1973年オイルショック,鉱山の閉山あいつぐ。

現在見学できるマンガン鉱山:

・岩手県の野田玉川鉱山は観光鉱山として公開(マリンローズパーク野田玉川)。

・京都,新大谷鉱山は,丹波マンガン記念館として坑道も見学できる。

 

3.最近のマンガン事情JOGMEC 2018)

マンガン用途

需要の97% は,マンガン鋼の原料やフェロマンガンとして 鋼材の脱酸・脱硫に用いられる。 

その他は,マンガン電池やリチウム電池の正極,アルミ飲料缶,合金にしてフェライト磁石に使われる。過マンガン酸カリウムは,分析試薬,有機合成,殺菌,火薬,医薬品に用いられる。

生産国(2017年)単位マテリアル千トン

中国                     25,000

南アフリカ             14,358

ガボン                4,163

オーストラリア       4,065

ガーナ                2,662

合計                     61,163

わが国の鉱石輸入相手国 単位純分千トン

南アフリカ             250.9

オーストラリア       89.9

ガボン                75.1

合計                     416.2

 

参考文献

・野崎建生・藤永公一郎・加藤泰浩(2018): 日本列島付加体中に胚胎する古海洋底で生成した鉱床.地質学雑誌,124巻,12号,995-1020

JOGMEC (2018):鉱物資源マテリアルフロー201816.マンガン(Mn)1-18.

・広渡文利(1980):日本の層状マンガン鉱床の研究および調査の現状。岩石鉱物鉱床学会誌 特別号,2号,151-164