広見線沿線地質ガイド (広見線のジオ鉄)
犬山市および周辺地域には,美濃帯中古生界,後期白亜紀の花こう岩,上部新生界が分布している。これらの地質体からなる山塊の裾を名鉄広見線が通っている。広見線は犬山と御嵩をむすぶ線であるため,名古屋や岐阜などから至便である。
そこで,名鉄広見線を利用した地質見学ルートを紹介して,地質の基礎を習得するとともに東海地方や日本列島の地質を理解できるよう準備した。
地質概説
第2-1図 地域案内図 (国土地理院地図に加筆)
第2-2図 地質概略図 (産総研シームレス地質図に加筆)
第2-1表 地質総括表
地質時代 |
地質区分 |
略号 RGB no. |
岩相 |
地史 |
第四紀 完新世 更新世 |
沖積層 緩斜面堆積物 段丘堆積物 |
(a) (s) (t) |
礫,砂,泥 礫,砂,泥 礫,砂 |
沖積面形成 台地面形成 |
新第三紀 鮮新世 中新世 |
東海層群土岐砂礫層 瑞浪層群 中村層 蜂屋層 |
(N3cg)
255,255,170 (N1ss)
255,255,0 (N1v)
255,170,170 |
礫,砂 砂岩,泥岩 火砕岩,凝灰質砂岩 |
陸成層 陸成層 陸成火山活動 |
古第三紀 |
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白亜紀 |
安楽寺花崗閃緑岩等 |
(gK2) 255,170,255 |
花崗岩類 |
珪長質岩貫入 |
ジュラ紀 三畳紀 二畳紀 |
美濃帯 上麻生ユニット |
(Jms) 119,119,119 (Jss) 255,170,0 (Jsi) 255,85,255 (Jch) 255,85,0 |
泥岩,異質岩塊を含む 塊状砂岩,砂岩泥岩互層 珪質泥岩 チャート |
ユニット形成 メランジ形成 砂岩泥岩堆積 珪質泥岩堆積 チャート堆積 |
地質区分と地史は,吉田・脇田(1999)に準拠し,一部簡略化
RGB no.は各ルートにて掲載の詳細地質図配色
概説
まえがき
本地域に分布する地質系統は,美濃帯中古生界,後期白亜紀の花こう岩,上部新生界の地層に大きく区分できる.美濃帯中古生界およびこれに相当する地質体は西南日本内帯に広く分布しており,外帯の秩父帯などと共に日本列島の骨格をなしている。
以下,吉田・脇田(1999)の地質区分に準拠し,地形と地質を説明する。
地形
本地域は地形的に,美濃山地南端部と濃尾平野北縁部にあたる。さらに北側では木曽川が北東から南西に流れている。
山地は独立化が進み,低起伏な丘陵である。主に美濃帯の中古生層からなる。所々で中新統の瑞浪層群や鮮新統の東海層群が中古生層を被覆する。平野部の台地は中新統の瑞浪層群,鮮新統の東海層群,段丘からなる。解析された低地は沖積層である。
地質
美濃帯中・古生界
本地域では美濃帯上麻生ユニットのチャート,砂岩,泥岩が分布する。チャートの下底に後期二畳紀から前期三畳紀の年代を示す珪質粘土岩がわずかに露出するとされている。三畳紀からジュラ紀のチャートとジュラ紀の砂岩や泥岩互層の間には珪質泥岩が整合に挟在する.
美濃帯堆積岩コンプレックスは,海洋プレートが海嶺で形成されてから海溝に沈み込み,海溝充填堆積物と混じり合い形成された付加体と解釈されている(Wakita, 1988 ほか)。上麻生ユニットに特徴的に観察される復元層序は,“海洋プレート層序”と呼ばれている。木曽川河岸の露頭は国際的に有名で各国の研究者が注目している(例えば,Adachi et al., 1992)。
白亜紀花こう岩
名鉄広見線御嵩付近,同小牧線羽黒と田県神社付近に花こう岩が露出している。吉田・脇田(1999)によると,羽黒付近の花こう岩は,長石類の量比による記載岩石学区分では花こう閃緑岩となる。
上部新生界
上部新生界は,新第三系の瑞浪層群と東海層群,第四系の段丘と沖積層に分けられる.
本地域の瑞浪層群は,下位から,蜂屋層,中村層に区分されている.陸成堆積物であり,瑞浪層群全層序の下部に当たる(糸魚川,1983).本地域の蜂屋層は,主に安山岩火砕岩類からなる。中村層は砂岩泥岩からなる。蜂屋層最下部から22.38±0.17MaのジルコンU-Pb年代が得られている(新正ほか,2018)。
東海層群は中新世末- 更新世に堆積したもので,本地域には土岐砂礫層の西端部に当たる地層が分布し,礫- 砂礫からなる.東濃地域の本層群中にはさまるテフラからジルコンU-Pb年代3.94±0.07Ma,FT年代3.97±0.39Maが得られている(植木ほか,2019)。
第四系は,段丘堆積物と完新統に区分できる。本地域では,段丘堆積物は,善師野,小牧・犬山に分布する。砕屑性の礫・砂からなる。本地域の完新統は,谷底堆積物で,礫・砂・泥からなる。
2-3資源
金属資源:昭和初めから30年代にかけ,本地域ではマンガン鉱を採掘していた。チャートに胚胎する。
燃料資源:戦時中と戦後直後,燃料として亜炭を採掘していた。瑞浪層群や東海層群に胚胎する。
参考文献
Adachi, M., Kojima, S., Wakita, K.,
Suzuki, K. and Tanaka, T., 1992, Transect of central Japan: From Hida to Shimanto. 29th IGC Field Trip Guide Book, 1, 143-178.
糸魚川淳二,1983,U表層地質.5万分の1愛知県土地分類基本調査「岐阜・美濃加茂・瀬戸」,愛知県,44-61.
新正裕尚・古川邦之・折橋裕二・外西奈津美・和田穣隆,2018,岐阜県可児盆地に分布する蜂屋層最下部栃洞溶結凝灰岩部層のジルコンU-Pb年代.地質雑,124, 533-538.
植木忠正・丹羽正和・岩野英樹・檀原 徹・平田岳史,2019,中部日本,鮮新世東海層群中の大田テフラのジルコンU-Pbおよびフィッション・トラック年代.地質雑,125,227-336.
Wakita, K., 1988, Origin of chaotically mixed rock
bodies in the Early Jurassic to Early Cretaceous sedimentary complex of the
Mino terrane, central Japan. Bull.
Geol. Surv. Japan, 39, 675-757.
吉田史郎・脇田浩二,1999,岐阜地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,71p.