環境との共生 気候と放射線量
・気候は大気,海洋,陸上とのやりとりで決まり,地球の運動や宇宙から飛来物も影響する。
・放射線量の単位Sv(シーベルト)は,受ける側にどれだけの影響があるかを示す。
・大学周辺の自然放射線量は0.05未満から0.15µSv/h,測定値の地質を反映している。
1気候はどのようにして決まるか
気候変動の基本を整理しておく。気候変動は,大気,海洋,陸上とのやりとりで決まる。
www.funabashi-kantele.jp/study/earthwarm/mechanism.html
気候のしくみの模式図(船橋市大気環境情報より)
・(暖寒)太陽自身の活動や地球の軌道変化。例;太陽活動(黒点の増減,11年周期)活発で温暖化,地球の自転軸傾き大きくなると夏暑く,冬寒い。
・(寒)火山が噴火で硫酸ガスなどが放出され太陽光を反射。例;1815年インドネシアのタンボラ火山,1991年フィリピンのピナツボ火山。
・(寒)森林火災,工場,火力発電所によりエーロゾルが大気に増加する。
・(暖寒)森林破壊で二酸化炭素吸収できなくなる(温暖化ガス増加)が,地表面の反射量増えて温暖化を抑制する。
・(暖)工業化で大気中の二酸化炭素が増え温室効果を強める。産業革命以降の工業化社会。
・(暖)温暖化で海水の蒸発が進み水蒸気が増える。温暖化ガスの役割を果たす。
・(寒)水蒸気が増えると,雲が増えて太陽のエネルギーを反射する。
・(暖寒)太陽風と宇宙線のエネルギーは大きく電離層に影響を与え,気候を左右する。
解説:
太陽風:地球周辺には太陽から飛来する荷電粒子の集まりの流れがある。それを太陽風という。太陽の活動が活発になると太陽風は強くなる。強いエネルギーをもつが,地球付近には磁場があり,地球の周りを避ける。
宇宙線:太陽からの荷電粒子のほか,太陽系外から地球へ降ってくる荷電粒子を特に銀河宇宙線といい,太陽活動で飛来する太陽宇宙線より高エネルギーである。
太陽風と銀河宇宙線のせめぎあい:太陽風が強くなると宇宙線流入は妨げられる。すると雲の量が減り,地球の気温が上がる。太陽風が弱くなると地球に注ぐ宇宙線が多くなる。この宇宙線(銀河宇宙線)が大気中に飛来すると大気中の原子にぶつかり核反応を起こす。上層の雲が帯電し,雲の中の氷核(氷の粒)が落下し,下層の雲では水滴となり雨が降りやすくなり,気温は下がる。
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/80199
宇宙線で気候変動(沖縄タイムス)
近世の例:マウンダー極小期 17世紀の気温低下は黒点が少ないか現れない期間(マウンダー極小期)に対応する。
2 線量計で放射線量測定
・足元の地質の違いで変化することを確かめる。
・将来の原発事故に備え平常時の線量を測っておく。
・定期的に測定してみると宇宙線からの放射線の強弱もわかるかもしれない。
3 放射線の基礎
3.1 放射線量の単位
放射線の種類
ウラン232(232U)などは放射能をもち放射性核種という。自発的に放射能を出して別の核種に変わりその際放射線を出す。放射線はアルファ線,ベータ線,ガンマ線に分けられる。
アルファ線を出す壊変(アルファ壊変):原子核が1個のアルファ粒子を出す。各種の原子番号は2,質量数は4減少する。
例,ラジウム226(原子番号88)→ラドン222(原子番号86)+ヘリウム(質量数4,原子番号2)
ベータ線を出す壊変(ベータ壊変):原子核が1個の電子e(-1)を出す。各種の原子番号は1増加し,質量数は不変である。
例,アクチニウム(原子番号89)→トリウム(原子番号90)+電子
アルファ壊変やベータ壊変により生じた原子核のエネルギーの高いと続いてガンマ線を放射する。
放射線の透過力は次の通りである。
アルファ(α)線:ヘリウムの原子核,紙1枚でさえぎられる
ベータ(β)線:電子,薄いアルミ板やプラスチック板でさえぎられる
ガンマ(γ)線:電磁波,物質を透過する力が強い。鉛や鉄でさえぎる。
透過する力が強いガンマ線が人体に影響があり,通常の放射線量測定ではこの量が計られる。
放射線を出す側の単位(Source
side)
放射能(Radioactivity): ベクレル(Bq) ,1秒間に原子核が壊変する数。
放射線を受ける側の単位(Receiver
side) 放射線量 (Radiation dose)
吸収線量 (Absorbed dose):グレイ(Gy) どれだけのエネルギーが吸収されるかを表す。
1Gyは,吸収されたエネルギーの単位で1ジュール(J)/kg。
実効線量(等価線量,Dose equivalent):シーベルト(Sv)
吸収線量だけではどれだけの影響(体へのダメージ)があったかわからない。
受ける側がどれだけの影響があるかを表す単位。
β線とγ線は1,α線は20という荷重係数をかけて求める。
線量率(Dose rate) 一定時間あたりの線量。Sv/h(シーベルト毎時)。
ミリシーベルト(mSv, 1/1000Sv)やマイクロシーベルト(μSv=1/1000000Sv)を使う。
参考:そのほかの単位
放射線固有の単位記号Gy(グレイ), Sv(シーベルト), Bq(ベクレル)が与えられている。放射線の単位は歴史的に変遷があり,R(レントゲン), rad(ラド),
rem(レム), Ci(キュリー)は,以前使われていた(産総研放射線標準研究グループ)。
照射線量:C・kg-1(1R=2.58×10-4 C・kg-1),光子によって単位質量あたりの空気中に生成される正または負の電荷量
吸収線量:Gy = J・kg-1(1 rad
= 0.01 Gy),放射線の照射によって物質の単位質量あたりに吸収されるエネルギー量
線量当量:Sv = J・kg-1(1 rem
= 0.01 Sv),吸収線量に線質係数(生体への照射効果を示す因子)を乗じたもの
放射能:Bq = s-1(1 Ci = 3.7×1010 Bq),放射性同位元素が単位時間当たりに壊変する数
3.2自然界から受ける放射線
外部被ばく 体の外側から被ばくする。外部被ばく量0.87mSv/年
宇宙線などの自然放射線 0.39mSv/年,大地からの放射線 0.48mSv/年
内部被ばく 体の内部に放射性物質が入り,体内から被ばくする。内部被ばく量0.8mSv/年
食物から 0.29mSV/年,吸入により(主にラドン)1.26mSv/年
食物中のカリウム40の放射能量(Bq/kg),干ししいたけ700,牛乳50,食パン30,米30
3.3地質と放射線量 岩石の性質などは単位時間あたりの量μSv/hを使うのが便利。
花こう岩(Granite) 0.05-0.08 μSv/h,はんれい岩(Gabbro) 0.02-0.04 μSv/h
流紋岩(Rhyolite) 0.04-0.07 μSv/h,安山岩や玄武岩(Andesite, Basalt) 0.02-0.03 μSv/h
西日本:0.05-0.10 μSv/h 花崗岩や変成岩が多いことを反映
東日本:0.01-0.05 μSv/h 火山岩や凝灰岩が卓越することを反映
https://gbank.gsj.jp/geochemmap/setumei/radiation/Radiation-m.jpg
1グレイ(Gy)=1シーベルト(Sv)なので、この図で使われているμGy/hは、μSv/hと読みかえてよい(産総研GSJより)。
3.4 放射線量と生活(mSv)
ブラジル・ガラパリでの自然界からの放射線(年間)10
全身CTスキャン(1回)6.9
自然界から受ける放射線量(年間,世界平均)2.4
自然界から受ける放射線量(年間,日本の全国平均)1.5
胃のX線集団検診(1回)0.6
東京-ニューヨークのフライト(往復)0.2
胸のX線集団検診(1回)0.05
3.5 身近な放射線測定事例
地質調査や水質調査のついでに放射線量をはかっている。背景の地質とあわせて結果を記す。
今井付近 れき層 <0.05,軟砂岩0.05,鳩吹山チャート<0.05,0.09
犬山八曽自然林 チャート0.05,つがお山 チャート<0.05
大谷山 砂岩 0.06,弥勒山 チャート<0.05,
定光寺 池0.09,花こう岩小露出0.12,0.10,水野余床川 花こう岩0.15
権現山 流紋岩 0.14
おおむね,れき層,チャート,軟砂岩,砂岩,花こう岩・流紋岩の順に,0.05未満から0.15と線量が大きくなる。
3.6 原発事故と放射線量
福島原発事故(ウィキペディアより)
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生当時,福島第一原子力発電所(以下「原発」と略す)では1
- 3号機が運転中で,4 - 6号機は定期検査中だった。
地震の約50分後,遡上高14m-15 m の津波が発電所を襲い,非常用ディーゼル発電機が津波の海水により故障した。さらに非常用バッテリーなど多数の設備が損傷または,流出で失われ,全電源喪失(ステーション・ブラックアウト,略称:SBO)に陥った。このため,原子炉内部や使用済み核燃料プールへの注水が不可能となったことで,核燃料の冷却ができなくなった。
事故により,大気中に放出された放射性物質の量は,東京電力の推計によるとヨウ素換算値にして90京ベクレル(Bq)で,チェルノブイリ原子力発電所事故での放出量520京Bqの約6分の1に当たる。東京電力は,2011年8月時点で,半月分の平均放出量は2億Bq(0.0002 TBq =
0.2GBq)程度と発表している。また空間放射線量が年間5ミリシーベルト(mSv)以上の地域は約1800km2,年間20mSv以上の地域は約500km2の範囲に及んだ。
3.7 原子力発電所(原発)の基礎
核燃料
ウランUは、238U(99.3%)と235U(0.7%)がある。そのほかにも数種ウランの同位体がある。
核燃料にするため、235Uを数%に濃縮する。原子爆弾には70-80%濃縮する。
六価フッ化ウランUF6に転換(イエローケーキ)。遠心分離で濃縮する。
中央に濃縮ウラン、周囲に劣化ウラン。劣化ウランは比重が大きいので弾丸に利用する。
原子炉
減速材 核分裂で発生した中性子の速度を落とし熱中性子にする。
熱媒体 原子炉で発生した熱を発電機に伝える。
冷却材 熱くなった原子炉を冷やす。
これらの減速材、熱媒体、冷却材は、経済性を加味して軽水を使うことが多い(軽水炉)。
燃料棒 二酸化ウランをペレットにして詰めた棒。これを束ねて燃料体とする。
制御棒 中性子吸収材で中性子の数を制御する。カドニウム、ハフニウムなどを使う。
「 蒸気 →|==「タービン」 ― 発電機
|
---↑沸騰 ----| ↓
|燃料棒 制御棒 | 「
(冷却材)|
| 水 」==|← 水 」
沸騰水型原子炉 炉心(圧力容器)内の冷却水が沸騰し、その水蒸気でタービンを回す。水はタービンに回るのでタービンも汚染される。
加圧水型原子炉
原子炉から熱交換だけを行い、蒸気発生器、タービン、復水器を清浄水が循環する。
参考文献
齋藤勝裕(2011)知っておきたい放射能の基礎知識。ソフトバンク
クリエイティブ株式会社,pp.221。
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関連参考資料
中日社説24/02/22
核のごみ 地層処分は安全なのか
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場用地選定に向けた初めての「文献調査」の報告書案がまとまった。
北海道の寿都(すっつ)町の全域と神恵内(かもえない)村の一部で,候補地として次段階の調査を進めることが可能だとしているが,海底活断層のリスクなど能登半島地震の知見は反映されておらず,不安が募る。
使用済み核燃料からリサイクル可能なプルトニウムなどを抽出した後の廃液が「核のごみ」。ガラス状に固めてステンレス製の容器に収め,地下300メートルより深い岩盤層に閉じ込める「地層処分」が法律で定められている。放射能が衰えるまでには,数万年単位の厳重な管理が必要とされる。
候補地選定に向けた調査は,論文やデータに基づく文献調査▽地面を掘って地層を調べる「概要調査」▽地下に施設を造って行う「精密調査」−の3段階。
事業主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は2002年から巨額の交付金と引き換えに調査を受け入れる自治体の公募を続けるが,20年になって初めて寿都町と神恵内村が名乗りを上げた。
NUMOは地震や噴火,隆起,浸食などの評価項目に基づいて約1500点の論文などを分析し,概要調査が可能との結論に至ったとする。しかし,両自治体が同意するかどうかは未知数だ。
例えば神恵内沖には,南北約70キロの海底活断層が存在するとの指摘がある。しかし,NUMOは「候補地からの除外基準に当たるかどうかは,文献からは判断できない」と調査の進行を急ぐ。
活断層は複雑に連動して動く。能登半島地震の教訓だ。日本活断層学会の鈴木康弘会長は地震災害全般に関して「活断層リスクの考え方を見直した方がいい」と警鐘を鳴らす。
昨年10月,地球科学の専門家有志約300人が処分地の選定を巡り「(国内で)地震の影響を受けない安定した場所を選ぶのは不可能」との声明を出した。
調査を次に進めることに固執せず,地中深くに埋める最終処分の在り方自体を根本的に見直すことも考えるべきではないか。
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問題
1一般に火山が大きな噴火を起こすと地球の気候にどんな影響を与えるか。
2概して西日本は東日本より放射線量が大きい。それはどんな岩石が多いからか。
3西日本の放射線量を0.10µSv/hとすると、年間の線量はどの程度か。
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