環境と水質
・地球に生命が存在できるのは,太陽との距離,地球の大きさ,温暖化ガスによる。
・水質調査の基本はpH値で,中性が7,酸性はこれより低く,アルカリ性は高い。
・大学周辺の調査で,一日の中でpH変化があり,生育中の稲の光合成がわかる。
1地球になぜ海があり,生命に満ちあふれているのか。
水質各論に入る前に,環境共生の前提である地球の環境がどのように形成されたかを考える。
地球が生命生息可能な範囲(ハビタルゾーン)にある。太陽からの距離と地球の大きさによる。
・太陽からの距離は,液体の水(海洋)が存在できる温度を保つのに適している。
・地球は,大気や液体の水が地表に引き付ける大きさと質量をもっている。
・大気による温室効果で地球の気温が生物に都合のよく保たれている。
太陽から地球に1370w/m2(約1kw)のエネルギーが来る。その4分の1の340wが地球に届く。100wが反射され,240wを吸収する。同じ240wを放射して差し引き0になる。このままだと-18℃になる。温暖化ガスがあり,15℃の適度な温度になっている。
私たちはこの奇跡に近い条件の地球で生活している。生命にとって重要な水を身近に調べてみる。
参考:差し引きで-18℃になることは,もっと単純に地球軌道上で受ける太陽エネルギーと地球の大きさから計算で求めることができる。
式で書くと,
太陽エネルギー(反射分除く)×地球の断面積=地球の面積×物理定数×温度
S0πr2(1-a)=4πr2σTe4,S0は太陽定数,aは反射分,σは物理定数(注)
Te4=S0(1-a)/4σ,これよりTe=-18℃
注:シュテファン・ボルツマンの法則から熱輻射により黒体から放出されるエネルギーは熱利器温度の4乗に比例する。放射発散度をI,熱力学温度をTとすると
I=σT4,比例係数σはシュテファン・ボルツマン定数と呼ばれる。
値は5.670・・×10-8Wm-2K-4
これは,プランクの法則によりほかの普遍定数と理論的に関係つけられる。
なお,黒体とは完全放射体の意で,外部から入射する電磁波を完全に吸収し,熱放射できる理想的な物体のことで実在しない。実際には黒体ではないので放射発散度を求めるには係数をかけるなどの操作をする。
2水質(pH)
水質調査の例を見ると多くの成分を分析している。例えば,静岡県の茶畑からの湧水・池水・河川水の水質調査では16の要素を解析,その解析手法はイオンクロマトグラフィー,ICP発光分光分析,吸光光度法,質量分析計である。姫路市近郊のため池水質調査では試料を冷蔵持帰りとろ過,下処理等の手間をかけ,6項目を吸光度式水質測定器などで測定した。北海道では河川の酸性化が進行しているため系統的な調査を行った。
いずれもpHが水質調査の基本である。測定の手軽さを活かし,これまでと異なる観点からpHに着目してみた。上記の先行事例では,茶畑の場合1ヶ月以上の間隔の分析値からpHの経時変化として示している。ため池の場合,5月から7月の期間で,pHの季節的な影響を論じている。北海道の例では,年平均の経年変化図では各年の最大値と最小値それに平均値を用いて10年以上の変化をとらえている。また日を選んで2時間おきの測定を行っている。
2.1 pHとは
ピーエッチまたはペーハーと読む。酸性あるいはアルカリ性の程度をあらわす。中性はpH7,これより低い方を酸性,高い方をアルカリ性と呼ぶ。
pH値のいろいろ
水:水道水6.5,井戸水7.0-8.0,海水8.0-8.5
飲物:スポーツドリンク3.0-4.0,日本茶4.5-6.0,牛乳6.7
食べ物:レモン2.5,ヨーグルト4.4,こんにゃく12.2
生活用品:石けん液7.0-10.0
2.2 pHの定義(原理)
水溶液の酸性とアルカリ性は水素イオンの濃度で決まる。
水はH2O,水溶液ではイオン化して[H+],[OH-]となっている。[H+][OH-]=10-14=一定である。
純水や中性溶液では,[H+]=[OH-]=ルート10-14=10-7
pHの定義は,pH=-log10[H+]である。中性の溶液では[H+]=10-7なのでpH=7となる。
(補足:常用対数の復習。10=101はlog10101=1,100=102はlog10102=2,0.1=10-1はlog1010-1=-1
2.3理論的なpHの定義
水素イオンがいくつもあるとそれぞれが衝突することがあり,動きに制限が出る。
そこで水素イオン濃度に係数をかけpHを定義するが,理論計算は困難である。
実用上のpHは,pHが一定の水溶液を基準に,これと比較して,pH測定を行う。
2.4日本工業規格(JIS)
水溶液XとSのそれぞれのpHをpH(X)とpH(S)であらわすと,pHの差は
pH(X)-pH(S)=(Ex-Es)/(2.3026RT/F)
Ex: X中での起電力, Es: S中での起電力, R:ガス定数, T:絶対温度,F:ファラデー定数
2.3026RT/Fの値の例 10℃で56.18, 20℃で58.17, 30℃で60.15
ある1種類の水溶液のpHを定めればほかの水溶液のpHが定まる。
3身近な調査事例
3.1場所,方法
体験型:犬山学「大地をさぐる」,大学周辺に数ヶ所を定点として調査している。
犬山学研究センターの定常業務:尾張富士,入鹿池,本宮山について定期調査。
3.2 pHの季節変化,日変化,稲の光合成をとらえる
数年にわたり定点を数ヶ月おきに調査してきた。年間の変化とすれば,pHが大きいこともある。
しかしながら,数ヶ月のたまたまある日のある時間の値に過ぎないかもしれない。
夏に田のpHがいつもより高いことを知り,一日の中で変化するのではないかと調査した。
「2023年6月26日 稲が生育中の田のpH」
葭原の田 0805:6.9,1005:7.3,1150:7.6,1400:7.8,1555:8.0
神社そばの田 0810:6.8,1010:7.0,1155:7.7,1405:8.3,1600:8.4
日中,田のpHが上がる。光合成で二酸化炭素を使い水中の酸素が増えpHが大きくなる。
CO2 + H2O + 光エネルギー → 有機物 + O2
次のように水中の無機炭酸の平衡式からpHが左右されることがわかる(谷ほか,1992)。
CO2+H2O ⇆ H2CO3 ⇆ HCO3-+H+
⇆ CO32-+2H+
定性的に簡単にすると,酸素が加わることで水中の[H+]の一部は[OH-]となり,pHが大きくなる。
3.3今後
田の水のpHは翌日朝には低くなっていると予想できる。
日をあらためて調査する気持ちはあったが,暑くなり断念した。副専攻のテーマではどうか。
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毎日社説24/3/9
生態系保全の認定制度 民間の取り組み支えたい
豊かな生態系を保全する民間主導の取り組みを,さらに後押しする必要がある。
企業やNPO,自治体の活動によって生物多様性が守られている場所を,環境省が「自然共生サイト」として認定する制度が,2023年度に始まった。
国際社会は,30年までに陸域,海域の各30%を保護する目標を掲げる。日本では,公的規制がかかる国立公園などを中心に,陸域約20%,海域約13%にとどまる。
新しい制度の狙いは,規制によらない方法で保護域を広げることだ。里地里山や公園,社寺林などが対象となる。
昨年10月に第1弾の122カ所が選ばれ,先月発表の63カ所が加わって計185カ所となった。当初目標の100カ所を上回る順調な滑り出しだ。
東京都の面積の約4割に相当する計8・5万ヘクタールが認定された。札幌市の大学キャンパス,東京・大手町のビル敷地の緑地,長野県のワイナリー,和歌山県の工場などサイトの様態はさまざまだ。
申請者の約6割を企業が占め,関心の高さがうかがえる。
創薬や食料品などには動植物が利用され,生物多様性が社会・経済活動を支えている。人間活動が種の絶滅を加速させており,生態系に配慮したビジネスが欠かせなくなっている。
企業活動の影響について,情報開示を促す国際的な制度が導入されたことも背景にある。新たな投資基準となる可能性が高い。
ただし,自主的な活動のため,企業業績が悪化したり,トップの考えが変わったりすれば継続されなくなる恐れがある。資金や人手が不足しているところも多い。
実体を伴わない「見せかけ」で終わらせないよう,保全状態をチェックする体制を構築することも重要だ。
政府は,民間の取り組みを支援する新しい法案を閣議決定した。活動計画を大臣が認定し,助言体制を整える。活動に対する企業などの貢献を証明する仕組みの導入や税制上の優遇措置も検討する。
自然共生サイトは,地域住民や子どもの学びの場にもなる。生物多様性の損失に歯止めをかけ,豊かさを取り戻す流れを,官民を挙げて作らなければならない。
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問題
1地球に海があり生命がみちあふれている。それはどんな条件によるか。
2生育中の稲が二酸化炭素をとりこんで酸素を出す光合成を行うと田んぼの水のpHはどうなるか。 (小さくなる,変わらない,大きくなる)から選ぶ。
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