環境と水質

 

・地球に生命が存在できるのは,太陽との距離,地球の大きさ,温暖化ガスによる。

・水質調査の基本はpH値で,中性が7,酸性はこれより低く,アルカリ性は高い。

・電気伝導度ECは電極間の抵抗率の逆数,イオン量を表す。

・大学周辺の調査で,一日の中でpH変化があり,生育中の稲の光合成がわかる。

 

水序説

木星の衛星エウロパに向けて202410月に打ち上げられた。エウロパは表面を厚い氷におおわれており,その内部には地球の海よりも豊富な水が存在すると言われている。エウロパにも生命が存在する可能性がある。

生命にとって必要不可欠なものは何か。太陽光は地球上の多くの生命にとって重要なエネルギー源であるが,深海にはほかのエネルギー源を利用する生命が存在する。一方,生命にとって水が必須ではないという証拠は今のところ見つかっていない。エウロパで生命が発見されれば,生命にとって水が不可欠であることを裏付ける証拠の一つとなるだろう(板東,2025)。

 

1地球になぜ海があり,生命に満ちあふれているのか。

水質各論に入る前に,環境共生の前提である地球の環境がどのように形成されたかを考える。

地球がハビタルゾーン(生命生息可能領域)にある。太陽からの距離と地球の大きさによる。

・太陽からの距離は,液体の水(海洋)が存在できる温度を保つのに適している。

・地球は,大気や液体の水が地表に引き付ける大きさと質量をもっている。

・大気による温室効果で地球の気温が生物に都合のよく保たれている。

太陽から地球に1370w/m2(1kw)のエネルギーが来る。その4分の1340wが地球に届く。100wが反射され,240wを吸収する。同じ240wを放射して差し引き0になる。このままだと-18℃になる。温暖化ガスがあり,15℃の適度な温度になっている。

私たちはこの奇跡に近い条件の地球で生活している。生命にとって重要な水を身近に調べてみる。

参考:差し引きで-18℃になることは,もっと単純に地球軌道上で受ける太陽エネルギーと地球の大きさから計算で求めることができる。

式で書くと,

太陽エネルギー(反射分除く)×地球の断面積=地球の面積×物理定数×温度

S0πr2(1-a)=4πr2σTe4S0は太陽定数,aは反射分,σは物理定数()

Te4=S0(1-a)/4σ,これよりTe=-18

注:シュテファン・ボルツマンの法則から熱輻射により黒体から放出されるエネルギーは熱利器温度の4乗に比例する。放射発散度をI,熱力学温度をTとすると

 I=σT4,比例係数σはシュテファン・ボルツマン定数と呼ばれる。

値は5.670・・×10-8Wm-2K-4 

これは,プランクの法則によりほかの普遍定数と理論的に関係つけられる。

なお,黒体とは完全放射体の意で,外部から入射する電磁波を完全に吸収し,熱放射できる理想的な物体のことで実在しない。実際には黒体ではないので放射発散度を求めるには係数をかけるなどの操作をする。

 

2水質

採水時に測定が容易な項目

pH(ピーエッチ) 酸性とアルカリ性の指標。

EC(電気伝導度) 水に溶けているイオン量をおおまかに理解できる。

DO(溶存酸素量) 水中生物の活動に重要な指標。好気的か嫌気的かの環境を知る。

副専攻(環境)ではpHECを測定する。

水質汚濁の種類

有機物(食物残渣),富栄養化(肥料からの窒素やりん),有害物質(重金属,農薬)

微生物(サルモネラ菌),油(重油流出),熱(発電所からの排水),

自然温鉱泉からの酸性水,沿海地域での地下水の塩水化

 

水質調査事例

・静岡県の茶畑

湧水・池水・河川水の水質調査では16の要素を解析。

イオンクロマトグラフィー,ICP発光分光分析,吸光光度法,質量分析計を使う。

・姫路市近郊のため池水質調査

試料を冷蔵持帰りとろ過,下処理等の手間をかけ,6項目を測定。

吸光度式水質測定器などで測定した。

・北海道の河川

酸性化が進行しているため系統的な調査を行った。

いずれもpHが水質調査の基本である。

上記の茶畑の場合1ヶ月以上の間隔の分析値からpHの経時変化として示している。

ため池の場合,5月から7月の期間で,pHの季節的な影響を論じている。

北海道の例では,各年の最大値,最小値,平均値の10年以上の変化をとらえる。日を選んで2時間おきの測定を行っている。

2.1 pHとは

ピーエッチまたはペーハーと読む。酸性あるいはアルカリ性の程度をあらわす。中性はpH7,これより低い方を酸性,高い方をアルカリ性と呼ぶ。

pH値のいろいろ 

水:水道水6.5,井戸水7.0-8.0,海水8.0-8.5

飲物:スポーツドリンク3.0-4.0,日本茶4.5-6.0,牛乳6.7

食べ物:レモン2.5,ヨーグルト4.4,こんにゃく12.2

生活用品:石けん液7.0-10.0

2.2 pHの定義(原理)

水溶液の酸性とアルカリ性は水素イオンの濃度で決まる。

水はH2O,水溶液ではイオン化して[H+][OH-]となる。[H+][OH-]=10-14=一定である。

純水や中性溶液では,[H+]=[OH-]=ルート10-14=10-7

pHの定義は,pH=-log10[H+]である。中性の溶液では[H+]=10-7なのでpH=7となる。

補足:常用対数の復習

10=101log10101=1100=102log10102=20.1=10-1log1010-1=-1

2.3理論的なpHの定義

水素イオンがいくつもあるとそれぞれが衝突することがあり,動きに制限が出る。

そこで水素イオン濃度に係数をかけpHを定義するが,理論計算は困難である。

実用上のpHは,pHが一定の水溶液を基準に,これと比較して,pH測定を行う。

2.4日本工業規格(JIS)

水溶液XSのそれぞれのpHpH(X)pH(S)であらわすと,pHの差は

pH(X)-pH(S)=(Ex-Es)/(2.3026RT/F)

Ex: Xでの起電力, Es: Sでの起電力, R:ガス定数, T:絶対温度,F:ファラデー定数

2.3026RT/Fの値の例 10℃で56.18, 20℃で58.17, 30℃で60.15

ある1種類の水溶液のpHを定めればほかの水溶液のpHが定まる。

2.5雨のpH

CO2が溶けた雨のpHを求めてみる。CO2は水に溶けると炭酸H2CO3になる。

CO2 + H2O H2CO3

この反応の平衡定数K1は,

K1 = [H2CO3] / p (CO2) ・・ (1)

ここでp (CO2)は二酸化炭素の圧力(分圧)

炭酸は解離してH+と炭酸水素イオンHCO3-になる。

H2CO3 H+ + HCO3-

この反応の平衡定数K2は,K2 = [H+][HCO3-] / [H2CO3]

H+HCO3-の濃度は同じなので

K2 = [H+]2 / [H2CO3] ・・ (2)

(1)(2)から[H+]2 = K1 K2 p(CO2),すなわち,

[H+] = {K1 K2 p(CO2)}1/2 ・・ (3)

大気中の二酸化濃度は約360 ppm = 3.6 × 10-4 atm

K1 = 4 × 10-2 mol L-1atm-1K2 = 4 × 10-7 mol L-1atm-1

これらから

pH = -log10[H+] = -log10(2.4 × 10-6) = 5.6

2.6酸性雨

雨は大気中の二酸化炭素が炭酸となって溶け込んでいるため,弱酸性を示す。二酸化炭素に飽和した場合には,上記のようにpH5.6になる。硫黄酸化物SOxや窒素酸化物NOxが雨に溶け込むとさらに酸性が強くなり,pH5.6以下になり,酸性雨とよんでいる。

酸性雨の被害

水系:湖沼や河川の水が酸性化されると,プランクトンなどの微生物に影響を与える。

土壌:土壌が酸化されると,微生物による有機物質の分解が抑えられる。

植物:土壌の影響のため植物の生育が悪くなる。

構造物:銅像などは腐食される。大理石,石灰岩,セメントなどの炭酸カルシウムを多く含む建造物は溶解する。

わが国の酸性雨 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h17/21950.html

環境白書より;各地の雨のpHが記されている。

 

3 EC 電気伝導度

1cm離れた断面積1cm2の電極間の電気抵抗率の逆数。

単位はS(ジーメンス)/cmなど。

水に溶けているイオン量をおおまかに理解できる。

有機物質のようなイオン電荷をもたないものはECに影響しない。

 

4名経大の調査事例

4.1場所,方法

体験型:犬山学「大地をさぐる」,大学周辺に数ヶ所を定点として調査している。

犬山学研究センター業務:尾張富士,入鹿池,本宮山について定期調査。

4.2 pHの日変化から稲の光合成をとらえる

夏に田のpHがいつもより高いことを知り,一日の中で変化するのではないかと調査した。

2023626日 稲が生育中の田のpH

葭原の田    08056.910057.311507.614007.815558.0

神社そばの田 08106.810107.011557.714058.316008.4

日中,田のpHが上がる。光合成で二酸化炭素を使い水中の酸素が増えpHが大きくなる。

CO2 + H2O + 光エネルギー → 有機物 + O2

次のように水中の無機炭酸の平衡式からpHが左右されることがわかる(谷ほか,1992)

CO2+H2O H2CO3 HCO3-+H+ CO32-+2H+

定性的に簡単にすると,酸素が加わることで水中の[H+]の一部は[OH-]となり,pHが大きくなる。

4.3尾張富士と本宮山付近の調査事例

五条川(羽黒駅の東),尾張富士(銀名水,金明水),入鹿池(百軒亭乗り場),本宮山(N点,宮池) 

pHは地域間の違いが少なく,調査日ごとの違いが認められる。

ECは,五条川と入鹿池で概して値が大きく,調査日での違いがある。

・他の地点では値が小さく調査日ごとの違いが少ない。 

 

参考文献

鎌田浩毅(2022)知っておきたい地球科学 ビッグバンから大地変動まで.岩波新書,239p.

齋藤勝裕・山崎鈴子(2007) わかる化学シリーズ6 環境化学.東京化学同人,p.150.

 

武田育郎(2024)よくわかる水環境と水質(改訂2版).オーム社,236p.

板東晃徳(2025)特集の語り かけがえのない水.高分子,74(4)p.127.

山内 恭(2020)南極と北極:地球温暖化の視点から.サイエンス・パレット37,丸善,p190.

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毎日社説24/3/9

生態系保全の認定制度 民間の取り組み支えたい

 豊かな生態系を保全する民間主導の取り組みを,さらに後押しする必要がある。

 企業やNPO,自治体の活動によって生物多様性が守られている場所を,環境省が「自然共生サイト」として認定する制度が,2023年度に始まった。

 国際社会は,30年までに陸域,海域の各30%を保護する目標を掲げる。日本では,公的規制がかかる国立公園などを中心に,陸域約20%,海域約13%にとどまる。

 新しい制度の狙いは,規制によらない方法で保護域を広げることだ。里地里山や公園,社寺林などが対象となる。

 昨年10月に第1弾の122カ所が選ばれ,先月発表の63カ所が加わって計185カ所となった。当初目標の100カ所を上回る順調な滑り出しだ。

 東京都の面積の約4割に相当する計85万ヘクタールが認定された。札幌市の大学キャンパス,東京・大手町のビル敷地の緑地,長野県のワイナリー,和歌山県の工場などサイトの様態はさまざまだ。

 申請者の約6割を企業が占め,関心の高さがうかがえる。

 創薬や食料品などには動植物が利用され,生物多様性が社会・経済活動を支えている。人間活動が種の絶滅を加速させており,生態系に配慮したビジネスが欠かせなくなっている。

 企業活動の影響について,情報開示を促す国際的な制度が導入されたことも背景にある。新たな投資基準となる可能性が高い。

 ただし,自主的な活動のため,企業業績が悪化したり,トップの考えが変わったりすれば継続されなくなる恐れがある。資金や人手が不足しているところも多い。

 実体を伴わない「見せかけ」で終わらせないよう,保全状態をチェックする体制を構築することも重要だ。

 政府は,民間の取り組みを支援する新しい法案を閣議決定した。活動計画を大臣が認定し,助言体制を整える。活動に対する企業などの貢献を証明する仕組みの導入や税制上の優遇措置も検討する。

 自然共生サイトは,地域住民や子どもの学びの場にもなる。生物多様性の損失に歯止めをかけ,豊かさを取り戻す流れを,官民を挙げて作らなければならない。

 

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問題

1地球に海があり生命がみちあふれている。それはどんな条件によるか。

2生育中の稲が二酸化炭素をとりこんで酸素を出す光合成を行うと田んぼの水のpHはどうなるか。 (小さくなる,変わらない,大きくなる)から選ぶ。

 

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