体験授業「犬山の地質図を作る」
序論:
この体験がめざすもの
・地形や地質の見方を学び、地球の営みを知る。
・地球環境の調べ方を体験し、身の回りの環境に関心を持つ。
体験する内容
・地図を作る基礎を学ぶ(測量入門、航空写真地形判読)。
・地質の基礎として、鉱物や岩石を観察する。
・地質調査を行い、地質図を作成する。
・地質断面を作成し、地下のようすを推定する。
・河川水についてpH、導電率、Ca、NO3を測定して環境を考える。
・放射線量を測定し、地質との関係を考える。
キーワード:地質、地形、環境
上位目標:自らの地質調査に基づき地質図を作成し、犬山の地質を語れるようになる。
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1.測量と地図の基礎
1.1歩測測量
目標とする地点までの長さ(距離)を測るには、巻き尺などのものさしで測る。レーザーでも測れる。
道具を使わず、歩測(ほそく)といって、歩幅(ほはば)で距離を測ることができる。
いつも同じ歩幅で歩くためには、何度か繰り返して慣れてくれば一定する。
なお、ついでに地面から目までの高さを求めておくと良い。
自分の歩幅を知る。
ある長さ(距離)を何歩になるか、実際に調べてみる。
巻き尺を伸ばしたところを歩いて、20歩が何mになるか、それを何度か行い、平均を求めておく。
実習
・歩幅を求める。
・最寄りの建物(木)までの距離を、歩測から求める。
・巻き尺で実際の長さを求め、歩測との比較をしてみる。
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1.2角度を測る
地質調査では地層がどちらの方向に延長でき傾きがどのくらいかを知る必要がある。延長の方向を走向、傾きを傾斜という。それらを測る道具がクリノメーターである。地質調査以外でも測量に必要な方位を求めることができる。
・走向 Strike:地層面と水平面と交わる直線の方向。
・傾斜 Dip:走向に直角で水平面となす角度。
(走向・傾斜については地質調査の章であらためて解説する。)
走向傾斜(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/c/cd/%E8%B5%B0%E5%90%91.gif
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/ja/9/96/%E5%82%BE%E6%96%9C.gif
三角関数
ここで三角関数を復習してみる。測量の計算で必要となる。
直角三角形で、1つの鋭角の大きさが決まれば三角形の内角の和は180°なので他の鋭角の大きさが決まり、3辺の比も決まる。この辺の比を求めるものが三角関数である。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7e/Trigonometry_triangle.svg
この図(ウィキペディアより)のように、∠Aを直角とする直角三角形ABCにおいて、辺の長さをAB=h、BC=a、AC=bと表す。∠A=θに対して三角形の辺の比 h:a:b が決まる。
sinθ= a/h (a÷h)、cosθ= b/h (b÷h)、tanθ= a/b (a÷b)
三角関数表(PUKIWIKIより、なおスマフォで調べることもできる)
例:θ=30°のとき
sin 30=0.5、cos 30=0.8660、tan 30=0.5774
実習:高さを求める
直接測ることができない柱(木)の高さを求める。
自分のいるところから柱までの距離(D)と柱の頭までの角度(α)を測る。
高さ Height (H)、距離 Distance (D)、角度 Angle (α)
すると、H = D x tan α
Dは歩測で求める、αはクリノメーターの傾斜計を使って求める。
なお、このHは目の高さからのもの。地面から目の高さを測っておいて加える。
動画:木の高さを求める(5分)
https://www.youtube.com/watch?v=KXmWsVTKFzw
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1.3測量の基礎
海岸から沖の船までの距離を求める
次のような値が求められているとする(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/80/Distance_by_triangulation.svg
Iの長さをℓとするなら
ℓ = d/tanα + d/tanβ
ゆえに
d = ℓ/ (1/tanα + 1/tanβ)
応用
上の図に加えて、船のマストの上に柱が立っているとする。
α=45, β=45, l=100mとすると、
d=100 x (1/tan45+1/tan45) = 50m
αの角度をもとめた点をA点として、そこからから船のマストの先の柱の上までの角度を10°として高さ(h)を求める。
A点から船までの距離を a とする。
d= a x sin 45,
a= d/sin45=50/0.7071=70.7m
すると、
h=a x tan10 = 70.7 x 0.1763 = 12.5
m
※この原理で平地から山の頂上の高さを知ることができる。さらに12.5mに目の高さを加えた方が良い。
実習
大学内で距離がわかっている2点から角度を測って建物または木の高さを求める。
・2点の距離は歩測または巻き尺で求める。
・もう一つの点と目的の建物(または木)との角度は、もう一つの点にクリノメーターの長辺(N)に向け、次に目的の建物(または木)の方向にNを向けて、磁針がさす角度の差が求める角度である。
・どちらかの点から建物(または木)の上までの角度を測る。
・以上の角度をと距離を使って船の柱の高さを求めた例題にならって計算をする。
動画:建物の高さを求める(12分)
https://www.youtube.com/watch?v=OroCa6S17yc
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1.4空中写真判読
実体視(立体視)
地図作成用に撮影された空中写真の隣り合う写真の画像の互いに重複する部分を使うと、画像が立体的に見える。実体視又は立体視と言う。
地理的な調査では実体視が有力な手法
地形・地質、土地利用、植生(土地被覆)、地辷り・崩壊・高潮・洪水等に係わる災害地形等の調査の際は空中写真の実体視が必要な技法になる。
実体視の原理
左の眼が左に置いた画像だけを、右の眼が右に置いた画像だけを見ると、画像の歪みが左の画像と右の画像で違っているため、視差の差(視差差)と位置の違いを視神経が感じて、立体感を生じる。
実体視の実際
「肉眼実体視」の場合は、人間の眼基線間隔(左の眼と右の眼の間隔)が、成人で5.5〜7.0cm程度なので、二つの画像の間隔をこれと同じ程度以下とすると、実体視が比較的容易。実体視を初めて行う場合、二つの画像の間に板紙等を立てて練習すると、画像が容易に一つの立体像になる。
実体視の練習(日本地図センターより)
https://www.jmc.or.jp/photopr/3d.html
実体視空中写真サンプル(日本地図センターより)
※注意:人によっては山がへこんで見えることがある。実体視の方法に違いがある。
実体視の手法
平行法:右眼で右の画像を、左眼で左の画像を見る方法。
交差法:左眼で右の画像を、右眼で左の画像を見る、つまり視線が画像の前で交差するように見る方法である。
実体視を平行法か交差法のどちらでするよう画像をならべてある。そこで地図画像を誤った方法で見れば、山が谷に見えてしまう。その場合、写真の左右をとりかえて見る。
実習
・実体視用のサンプルで地形に親しむ。
・実体視サンプル「段々畑」を見て畑の何段あるか調べる。
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1.5地形図とその読み方
練習用の地形図
金華山(岐阜)を用意する
地理院地図を開き、岐阜あたりが中心になるよう地図を動かし、少しずつ大きくしていく。岐阜駅周辺とその北の金華山が入る程度の地形図を使う。
地理院地図
https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
はじめの日本列島全体の図になっていないときは、メニューバーの「初期表示」で日本列島全体を見る。そこから中心(+印)を目的の地域に動かし、「+・・・−」のバーで求める大きさにする。
金華山の地形図
https://maps.gsi.go.jp/#15/35.426295/136.784643/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
等高線でわかること
地形図では、等高線によって起伏が表現される。基本は次の3つ。
・等高線の間隔がせまいところは傾斜が急で、間隔が広いところはなだらかな傾斜となる。
・ピーク(山頂)は等高線が丸くなっているところ。
・山頂から凸型になっているところが尾根、凹型が沢(谷)。
金華山の地形図で、上の基本3つを見てみる。
・等高線の間隔から傾斜の違いを区別する。例えば、岐阜城の北斜面と東の達目洞付近では等高線の間隔が明らかに違う。前者が急で後者がなだらか。
・金華山で山頂はどこか。すぐわかるのは、岐阜城の三角点(△)。そのほかの山頂は、例えば洞山の三角点付近。
(注:三角点は地図作成の基準となるもの。四角柱の岩石で上面に+印がついている。)
・金華山で尾根と谷を区別する。等高線が山頂からの凸凹で区別してみる。
尾根の例 クレタ島イディ山(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c4/Psiloritis%2C_east_ridge.jpg
谷の例 ヨセミテ国立公園ヨセミテバレー(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/81/Yosemite_Valley.JPG
地形図の立体視で確認
例 金華山(岐阜)
地理院地図中の「ツール/3D」を選ぶ
高さ方向の倍率を2くらいにすると強調されて見やすい。
図を動かしてみて山頂、尾根、谷を確認する。
地形断面図
練習用地形図で断面図を作図
原理を知るため、はじめは等高線から高さを読んでグラフ用紙に断面図を描く。
地理院地図中の「ツール/断面図」を選ぶ。地図上をクリップして経路指定、ダブルクリックで断面図方法を決定し、断面図を得る。
実習
金華山と同様のことを大学周辺の地図(尾張富士など)で確認する。
地形図
https://maps.gsi.go.jp/#15/35.340628/136.983908/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
・山頂、尾根、谷の確認
・地形断面図を作る
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1.6緯度経度
緯度とは、赤道を0°とし、南北へそれぞれ90°まで表す。北緯90°,南緯90°はそれぞれ北極,南極となる。この角度は、その点に接する線と北極と南極を結ぶ地軸との成す角を表す。
経度とは、旧グリニッジ天文台跡(ロンドン)を通る南北の線(茶色の線)を0°とし、東西へそれぞれ180°まで表す。東経180°と西経180°は同じ場所を示す。
(南北に通る線を子午線といい、旧グリニッジ天文台跡を通る基準となる子午線を本初子午線という。) この角度は、その点を通る子午線と本初子午線との角度を表す。
(パスコサイト:https://www.pasco.co.jp/recommend/word/word026/ より)
経緯度概念(ウィキペディアより)
緯度経度の求め方
地球が完全な球でない、地球が回転していて鉛直線に影響を与える、等々、地理学や測地学の発展で緯度経度の求め方は高等数学的素養が必要となっている。ここでは原理原則だけを説明する。
緯度 地球の回転軸が南北軸、北半球なら南北軸の北極方向に北極星がある。そこで、北極星の地平からの角度が緯度になる。ただし北極星も北極の周りを回っているので北極星の回転の中心方向で緯度を求めるのがより正確。
経度 太陽の南中時刻の差で経度の差を求める。大航海時代には、一つの方法として月距法が用いられた。ある恒星と月との位置関係の時間のずれで経度を求める。
現在は複数のGPS衛星から放射される電波を受取り、その到着時間とGPS衛星の位置を元に正確な位置がわかる。スマフォからも知ることができる。
実習
北極星の角度を測る。スマフォで得られた緯度と比較する。
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自宅待機になったときの実習案
(1)測量基礎 近くの建物あるいは立ち木などの高さを求める。
角度:腕を伸ばしてグーにするとだいたい10°。目的物までの距離を歩測で求める。歩幅がわからなければ右左1歩を70cmとする。目的物の下に行けなければ、グーグルマップなどで目的物までの距離を求める。1.2の実習の要領で腕を使った角度と距離を利用して目的物の高さを求める。目までの高さがわからければ160cmにする。
調査場所:(例、家、大学、公園等)
対象:(例、電信柱の上、木の上、等)
距離:〜m、角度:〜°
(2)地形図基礎
地形図を与える。
慣れる 地形図で田、畑、果樹の記号がわかるか。郵便局、学校、工場の記号がわかるか。田畑が多いのは地形図のどこか(例、北西などと記す)。
Q1三角点がいくつかある。標高のたかいものから順にその高さを記す。
Q2郵便局(あるいは学校)がある。そこの高さはいくらか。
Q3郵便局(学校)から標高の最も高い三角点までの距離はいくらか。だいたいで良い。高さの差はいくらか。
Q4郵便局と標高の高い三角点は角度でどのくらいか。三角関数表を使ってよい。
(3)実体視
慣れる 立体視ができるか。山が高く見えたか。
「段々畑」の写真を与える。畑が山の高いところから山の低いところに分布する。
Q1 立体視ができたか。
1、段々になっているのがわかった。
2.立体に見えない。
Q2 段々が見えた人に質問、畑の段はいくつあるか。
参考:地形図説明動画
www.youtube.com/watch?v=6Bs4KQWQQVM
地形図の読み方 中学社会地理 4分40秒
地形図とはどんなものかをわかりやすく解説している。ときどき出てくる「おぼえておいてください」のところは、無視してよい。
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