体験型:ジオパーク、地質で地域振興
従来の資源や土木などを対象とした開発型地質学から,地域振興や文化事業にも地質が役割をはたすようになっている。
ジオパーク Geopark
ジオパークとは,「地球・大地(ジオ:Geo)」と「公園(パーク:Park)」とを組み合わせた言葉で,「大地の公園」を意味し,地球(ジオ)を学び,丸ごと楽しむことができる場所をいいます。
大地(ジオ)の上に広がる,動植物や生態系(エコ)の中で,私たち人(ヒト)は生活し,文化や産業などを築き,歴史を育んでいる。ジオパークでは,「ジオ」「エコ」「ヒト」の3つの要素をつなげる。
ジオパークの見どころとなる個々の場所を「ジオサイト」という。それは地域の魅力を伝えるもので,教育やジオツアーなどに活かし,地域の素晴らしさを知ってもらう。
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ジオパークから地域振興への概念
ジオパークの対象
歴史,伝統,文化,産業 |
動物,植物,生態,・・・ |
岩石,化石,地層,地形,・・・ |
↓
ジオパークの活動
ジオツーリズム,持続可能な開発 |
教育活動 |
保護活動 |
↓
地域振興へ |
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日本ジオパーク
現在日本には,日本ジオパーク委員会が認定した「日本ジオパーク」が43地域ある(2020年4月現在)。その内,9地域がユネスコ世界ジオパークに認定されている。
日本のジオパーク
ユネスコ世界ジオパーク
ユネスコの定める基準に基づいて認定された高品質のジオパーク。2015年11月に,第38回ユネスコ総会においてユネスコの正式プログラムとなった。
2019年4月現在,世界41カ国,147地域にユネスコ世界ジオパークがあり,そのうち9地域が日本にある。
日本のユネスコ世界ジオパーク
洞爺湖有珠山(北海道),糸魚川(新潟県),山陰海岸(鳥取,兵庫,京都),室戸(高知県),島原半島(長崎県),隠岐(島根県),阿蘇(熊本県),アポイ岳(北海道),伊豆半島(静岡県)。
このうちのアポイ岳を例として紹介します。
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ジオパーク事例紹介
アポイ岳ジオパーク
HP: https://www.apoi-geopark.jp/geopark/
アポイ岳ジオパークの要点:
北海道日高東部のまち「様似町」には,世界でも類を見ない新鮮で多彩な“かんらん岩”から成る山々や渓谷,特殊な土壌条件などによって育まれた固有の“高山植物群落”,そして,海岸の特殊な地形が天然の良港となり“古くから交易の拠点”として栄えてきた歴史と文化がある。
あらためて場所はどこか。
様似町(さまにちょう)
北海道の中心南端の襟裳岬(えりもみさき)のそば
様似町の概要(地図参照)
この中の「終着駅」(様似)の項は修正が必要。
日高本線の鵡川から様似間は2021年4月に廃線となった。
様似駅に停車中の列車(ウィキペディアより)
様似町とアポイ岳(ウィキペディアより)
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アポイ岳ジオパークのテーマ
メインテーマ:
「地球深部からの贈りもの(かんらん岩)がつなぐ大地と自然と人々の物語」
サブテーマA:
「かんらん岩から大地の変動を知る」
1300万年前,大陸プレートの衝突で地殻の下のマントルの一部が突き上げられ,かんらん岩が現れた(アポイ岳)。
かんらん岩の復習をしてみる。
超苦鉄質岩,つまりマグネシウム(苦土)や鉄が多い岩石で,かんらん石や輝石からなる。地下深くのマントル物質と考えられる。石英や長石を通常は含まない。斜長石を含むことはあるが,その場合でも量は少ない。
参考:火成岩の分類
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超苦鉄質岩 |
苦鉄質岩 |
中間質岩 |
けい長質岩 |
SiO2重量% |
40 〜 45 |
45 〜 52 |
52 〜 63 |
63 〜 75 |
火山岩 |
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玄武岩 |
安山岩 |
りゅうもん岩 |
深成岩 |
かんらん岩 |
はんれい岩 |
せん緑岩 |
花こう岩 |
かんらん岩はSiO2が少なく,その分マグネシウムや鉄が多い。
かんらん岩(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/58/Lherzolite_eifel.jpg
サブテーマB:
「アポイ岳の高山植物から自然環境を知る」
アポイ岳の特殊な土壌・気象・地理的環境からヒダカソウなどここにしかない固有植物が生育する。かんらん岩特有の超苦鉄質という化学組成が重要な要素である。
ヒダカソウ(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8b/Callianthemum_miyabeanum_%2833851104238%29.jpg
サブテーマC:
「歴史から自然と人間社会の共生を知る」
奇岩類にまつわる先住民族アイヌの多くの言い伝えが残る。地形から天然の良港として江戸時代から北前船流通の要衝として発展してきた。
北前船(ウィキペディアより)
明治末から大正期に撮影した北前船
北前船(きたまえぶね)とは,江戸時代から明治時代にかけて大阪と北国との商いを行った船。
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ジオツーリズム アポイ岳に登る
アポイ岳は日高山脈の南端付近に位置し,約1,300万年前のプレート同士の衝突によって日高山脈が形成された際に,地下数10kmにあった上部マントルが上昇露出したとされる「幌満かんらん岩体」からなる山。
この特異な地質条件と過酷な気象条件などが重なり,標高810mと低標高ながら,アポイ岳のみに生育するヒダカソウやエゾコウゾリナの固有植物など,多彩な高山植物が生育している。
立体地図(アポイ岳ジオパークウェブサイトより)
実習
日本のジオパークの中から一つ選び、その特長をまとめ、説明する。
1.場所はどこか。
2.地質の特徴は。地質時代、岩石の種類、化石など。
3.地質以外の自然の特徴は。山岳、河川、植物など。
4.人とのかかわりは。伝統文化、食、茶、酒など。
5.ここを選んだ理由と行ったことがあれば感想を述べる。
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