鉱物資源各論 花こう岩と鉱床 Granites and Metal deposits

(2024.9.2)

1 花こう岩とはそして花こう岩にかかわる問題

2 花こう岩の分類

3 花こう岩系列と鉱床

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要点

・花こう岩の成因をめぐって何度も論争があった。

・磁鉄鉱の有無で磁鉄鉱系とチタン鉄鉱系花こう岩に分けられる。

・磁鉄鉱系にモリブデン鉱床が,チタン鉄鉱系にタングステン鉱床がともなう。

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自習の効率をたかめるため,本文中の問いをまとめる。

問い1

地質学の進展でしばしば花こう岩についての議論があった。

主な論点をいくつか簡単に記す。

(回答例を1のまとめの下に記す)

 

問い2

花こう岩はどんな鉱物からなるか。

多く含まれる鉱物を3つあげる。

(回答例を2のまとめの下に記す)

 

問い3

花こう岩の標準試料JG1JG3について,磁鉄鉱系かチタン鉄鉱系か,次の化学分析値から区別する。

 

JG1 群馬県沢入(そうり)の花こう岩

SiO2: 72.3, TiO2: 0.26, Al2O3: 14.24, Fe2O3: 0.38, FeO: 1.61, MnO: 0.063

MgO: 0.74, CaO: 2.2, Na2O: 3.38, K2O: 3.98, P2O5: 0.099

JG3 島根県三刀屋(みとや)の花こう岩

SiO2: 67.29, TiO2: 0.48, Al2O3: 15.48, Fe2O3: 1.62, FeO: 1.83, MnO: 0.071

MgO: 1.79, CaO: 3.69, Na2O: 3.96, K2O: 2.67, P2O5: 0.122

(産総研地球化学標準試料から)

全岩化学組成でFe2O3/FeO (wt. %)が0.5より大きければ磁鉄鉱系,小さければチタン鉄鉱系である。

(回答例を3のまとめの下に記す)

 

問い4

タングステンの特徴は何か。その性質を使って何に用いられているか?

(回答例を3まとめに下に記す)

 

 

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1 花こう岩とはそして花こう岩にかかわる問題 What is granite?  Controversy on origin of granites

 

花こう岩は,白っぽい粗粒で石英や長石を多く含む岩石(深成岩),花こう岩は建物や墓石によく使われている。

花こう岩がどのようにしてできたか,そしてどうして広い空間をしめることができたのか,という花こう岩論争があった。

 

花こう岩とは,1.フェルシックで石英を含む深成岩類(岩石学U,都城・久城),2.珪長質粗粒完晶質火成岩(地学辞典,平凡社)などと説明されている。これらを平易に記せば「白っぽい粗粒で石英を含む岩石」である。

 

石材としての花こう岩

建物や墓石などに花こう岩が使われている。

花こう岩を使った建物の例(ウィキペディアより)の代表は国会議事堂である。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/12/Diet_of_Japan_Kokkai_2009.jpg

日本の石材産業がもっとも興隆した時期は1980年より以前で,採掘業は昭和30年代,加工業は昭和40年代がピークだった (乾・大畑,2014,国士館大理工紀要)

 

花こう岩石材の例(茨城県石材業協同組合)

稲田石 https://www.ibarakiken.or.jp/inada/

羽黒石 https://www.ibarakiken.or.jp/haguro

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花こう岩をめぐる論争1 

「水か,火か」

地質学の近代化の中で,花こう岩をめぐる論争, 「水か,火か」という議論があった。

・1775 ウエルナーの「水成論(すいせいろん)」。花こう岩と玄武岩も水成とする。

・1778, 95 ハットンの「火成論(かせいろん)」,花こう岩と玄武岩はマグマから固結したとする。

このときの論争の主張は次の通りである。

・水成論者:地球上の岩石は,砂岩でも花こう岩でも玄武岩でも,海の水から沈殿した水成岩(堆積岩)と考えた。

・火成論者:地球上には海底や湖底に堆積してできた水成岩もたくさんあるが,玄武岩や花こう岩は,高温の融解(ゆうかい)した物質(マグマ)が冷却・固結してできた火成岩と考えた。

水成論者を水の神ネプチューンにちなみネプチュニストとよぶ。それに対して,火成論者をプルトニストとよぶ。それはギリシャ神話の地下の神プルトンにちなむ。地球内部が高温でそれが地質現象の原因と考えたからである。そこで火成論の代わりに深成論を使うこともある。

 

プルトンの彫像(ウィキペディア)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/9/97/Pluton_by_Henri_Chapu.png

 

・火山岩は火山の火口からマグマが流出することを見ることができ,火成岩であることを理解しやすい。

・花こう岩がマグマから生成することを直接見ることができない。

そこで水成論者は,一歩譲って火山岩はマグマができたとしても花こう岩はマグマからできたものでないとした。

これに対して,ハットンは,丹念な野外調査を重ねて次のような観察結果を得た。これから火成論が優勢となった。

・ハットンは,スコットランド高地で花こう岩の脈が他の岩石を貫いているところを見つけた。

・花こう岩のまわりにある岩石は,花こう岩の熱によって変化していることにも気がついた。

 

岩脈の例(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a7/Intersecting_Dikes_in_Black_Canyon_of_the_Gunnison.jpg

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ボーエンの反応原理

ボーエン(Norman Levi Bowen, 1887-1956)は,けい酸塩鉱物の融解実験を行い,1920年代に反応原理を提唱した。マグマから鉱物が結晶化する順番は,晶出温度が高い方から低い方へと次の通りである。

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けい長質鉱物 Caに富む斜長石→Naに富む斜長石

                                -→カリ長石,石英

苦鉄質鉱物  かんらん石→輝石→角閃石→黒雲母

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ボーエンの反応原理(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7a/Bowen%27s_Reaction_Series.png

 

鉱物の結晶化にともない,液の組成が変化する。その結果として玄武岩マグマから安山岩質マグマやりゅうもん岩(花こう岩)質マグマが形成される。このようにして花こう岩マグマを説明できるとされた。しかしながら,この反応原理では,りゅうもん岩(花こう岩)質マグマはわずかしかできない。自然界では花こう岩の量は圧倒的で,はんれい岩は少ない。

そこで花こう岩の量的な問題や定置空間の問題を議論するようになった。

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花こう岩をめぐる論争2 

「空間問題」

花こう岩が火成岩であると定着したが,時代が進んでくると新たな疑問が生じた。空間問題である。つまり,

・花こう岩体の多くは非常に巨大である。

・巨大な量のマグマが地殻の中に入り込むとすると,現在花こう岩が占めている空間はどのようにして確保されたか?

 

巨大な花こう岩体(米国ヨセミテ,写真はウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/13/Tunnel_View%2C_Yosemite_Valley%2C_Yosemite_NP_-_Diliff.jpg

花こう岩が底なしに広がっているというモデル(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/66/Intrusion_types.svg

 

このように大規模な花こう岩がどのようにしてできたか,特にその空間をどのように占めたが,が議論となった。

20世紀中ごろ,この空間問題を理解するのに「花こう岩化作用」が提案され,新たな花こう岩論争が起きた。今度は「火成岩か,変成岩か」という議論である。

花こう岩化作用とは,

・花こう岩体はその岩体の位置に,前にあった堆積岩あるいは変成岩が変成・交代作用をうけてできるという考えである。

・この変成作用によって花こう岩を生じると考えることで花こう岩が大きな空間を占めていることが説明できるとした。

花こう岩体がマグマからできたか,変成・交代作用によるのかの論争の後,以下の理由で再び火成岩説が有力となった。

・野外観察で花こう岩は火山岩を伴うことがよくある。

・岩石溶融実験で花こう岩組成の液体が生じる。

・同位体的に花こう岩が堆積岩から固体で変化したと考えられない。

これらから花こう岩はマグマから生じたことに落ち着く。花こう岩マグマが地下の空間をしめるためにストーピングという仕組みで説明した。

ストーピングで,マグマが地下を上昇していくことを次のように説明した。

・マグマは天井やまわりの岩石を機械的に破壊しながら上昇する。

・破壊された岩石は沈み込み,沈んだ分だけマグマは上昇。

・これをくりかえすことで徐々にマグマは上昇して広がっていき,空間問題を説明できる。

 

ストーピング(ウィキペディア)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a0/White_granite_intruding_black_basalt.jpg花こう岩マグマに玄武岩が取り込まれたようす。

この現象が続けば花こう岩マグマはその上にある岩石を取り込んでその岩石があった空間分を上昇できる。

 

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花こう岩をめぐる論争3 

「再び,空間問題」

1980年代,空間問題が再び持ち上がる。ストーピングでは大きな空間獲得を説明できないのではという疑問である。

・ストーピングの原理でマグマが上昇できるが,マグマが早くに冷却して大きな空間を獲得する前に固結してしまうだろう。

そこでストーピングに代わる説明として,広く分布する花こう岩は,岩脈やシルの積み重なりであるという考えが提案された。つまり,薄い板状のマグマが連続的に貫入して積み重なった結果,大きな花こう岩体となる。

・最初の貫入岩はまわりの岩石との温度が違うので境界が残る。

・続いて貫入してくると,そのまわりの岩石はまだマグマの温度に近いので境界は消失する。

・このようにして,大きな花こう岩体は,単一の花こう岩マグマではなく,岩脈やシルといった薄いマグマが貫入して積み重なることで説明できる。冷える前に次々と貫入するので境界が消失して,単一の巨大なマグマが貫入したかのようになっている。

 

これまでに発行されている地質図中の花こう岩を見直してみる。

広島県西部の産総研地質図「津田」では,赤色,桃色,橙色が花こう岩で,粒度の違いなどで細分してある。

 

地質断面図を見ると花こう岩のいくつかが層状に重なっている。

 

岩脈やシートが積み重なったと考えることが可能である。野外で識別できないが,もっと多くの層状の花こう岩の貫入があったが,連続して貫入したので多くの境界が見えなくなっていると考えられる。

 

問い1

地質学の進展でしばしば花こう岩についての議論があった。

主な論点をいくつか簡単に記す。

回答はまとめの後

 

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1のまとめ(花こう岩論争のまとめ)

18世紀後半,火成論と水成論(火か,水か)の議論があった。

野外観察で岩脈などから火成論が有力となる。

・20世紀半ば,大規模な体積の花こう岩がどのようにその空間を確保したかの議論があった。

マグマ貫入ではなく,堆積岩などが元素の移動で花こう岩になる考え(花こう岩化作用)が提案された。

岩石溶融実験,丁寧な野外の観察からこの考えは否定された。

空間問題は,マグマがまわりの岩石を取り込んだ分だけ広がるストーピングで説明された。

・20世紀末に,空間問題に再び疑問が起こり,空間占有をもっと合理的に説明できないかと議論が起こる。

大規模な花こう岩は単一のマグマではなく,岩脈,岩床が連続貫入した積み重なりであるという考えが出てきた。

 

問い1の回答例

火成論と水成論,火成岩か変成岩か,空間問題

 

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2 花こう岩の分類 Classification

火成岩は,火山岩と深成岩に分けられる。深成岩の中で石英や長石に富む(けい長質)岩石が花こう岩。花こう岩は,さらに含まれている鉱物の比率や化学組成から細分される。

 

火成岩:

火成岩は,マグマが固まってできた岩石で,火山岩(かざんがん)と深成岩(しんせいがん)に区別される。火山岩は概して細粒,深成岩は粗粒である。

 

化学組成で,けい酸(SiO2重量%)が少ないものから多いものの順に,超苦鉄質(ちょうくてつしつ),苦鉄質(くてつしつ),中間質,けい長質。この順に黒っぽいから白っぽいと色調が変わる。

・深成岩の分類:超苦鉄質は,かんらん岩,苦鉄質は,はんれい岩,中間質は,せん緑岩,けい長質は,花こう岩である。

・火山岩の分類:苦鉄質は,玄武岩(げんぶがん),中間質は,安山岩,けい長質は,りゅうもん岩である。

                                            

色調:左から右へ,黒っぽいから白っぽいに             

組成

超苦鉄質

苦鉄質

中間質

けい長質

火山岩

 

玄武岩

安山岩

りゅうもん岩

深成岩

かんらん岩

はんれい岩

せん緑岩

花こう岩

 

組成の説明

・苦鉄質:鉄やマグネシウム成分が多く,けい酸成分が少ない。

・けい長質:鉄やマグネシウム成分が少なく,けい酸成分が多い。

・中間質:苦鉄質とけい長質の中間。

・超苦鉄質:苦鉄質よりもさらに苦鉄質成分が多い。

以上は火成岩の分類,ここから花こう岩について詳しくみてみる。

花こう岩の構成鉱物は次の通り。

・主な鉱物:石英,長石(アルカリ長石と斜長石),黒雲母(くろうんも)

・主な鉱物だが含まれないこともある鉱物:角閃石(かくせんせき),白雲母(しろうんも)

・微量鉱物:ジルコン,アパタイト,スフェーン,ざくろ石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱

主な鉱物の量比によって花こう岩を細かく分けることができる。

・斜長石がアルカリ長石より多い岩石を「花こうせん緑岩」という。

・アルカリ長石を含まないかわずかしか含まない場合,「トーナル岩」とか「石英せん緑岩」という。

この区分は長石の種類の違いだが,対応して黒雲母や角閃石の量が変わるので,黒っぽい,白っぽいなど,肉眼からのみかけでもわかる。

 

花こう岩中の斜長石とアルカリ長石は普通区別がしにくい(次の写真の左)。岡山県の万成地方の花こう岩ではアルカリ長石が桃色で斜長石と区別がつく(写真の右)。

http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/igneousrock/granite.html

日本の花こう岩の2つの例(倉敷自然史博物館)

 

この講義では,煩雑(はんざつ)になるので,細分は避け,広い意味で「花こう岩(あるいは花こう岩類)」を使う。

 

問い2

花こう岩はどんな鉱物からなるか。

多く含まれる鉱物を3つあげる。

 

回答例を2のまとめの下に記す。

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鉱物の量比による分類は,個々の岩石を詳しく区分する。それとは違う観点で地質体全体の特性を化学組成から分類する方法がある。花こう岩の起源を探るものである。

オーストラリア学派のアルファベットタイプ分類

オーストラリアのチャペルとホワイト(Chappell & White)が提唱したもので,花こう岩の化学組成に基づき,アルファベットで分類している。(I, S, M, A, -type)
I
タイプとSタイプ分類の基本である。

・Iタイプ:Caに富む,角閃石を含む。

・Sタイプ:AlとKに富み,CaとNaに乏しく,しばしば,白雲母,きんせい石,ざくろ石,紅柱石,珪線石を含む。

IタイプのIは火成岩(Igneous rocks)の頭文字Sタイプは堆積岩(Sedimentary rocks)の頭文字にちなむ。Iタイプ花こう岩はマグマ形成過程で火成岩が関与,Sタイプ花こう岩は泥質堆積岩が関与したと考えられる。調査研究を進めていくと,I/S分類に入りきれない特殊な花こう岩があり,Aタイプ,Mタイプを設けた。

・Aタイプ:アルカリに富みAlに乏しい,アルカリに富む火成岩が関与していると考えられる。

・Mタイプ:Caに富み,Kに乏しい,マントル起源の岩石に関連があると考えた。

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2のまとめ

花こう岩は,けい長質の深成岩。その構成鉱物の量比から花こうせん緑岩,トーナル岩,石英せん緑岩に細分できる。化学組成に基づき花こう岩の起源を探る分類法(IタイプとSタイプ)がオーストラリアの研究者から提唱された。

 

問い2の回答例

石英,長石,黒雲母

または,石英,斜長石,カリ長石,黒雲母

(長石は,長石とひとくくりにすることもあるし,斜長石とカリ長石にわけることもある。)

 

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3 花こう岩系列と鉱床 Granitoids series and mineralization

 

鉱物の量比化学組成による区分とは違う観点で鉱床区と対応させる分類がある。

日本発の分類法で磁鉄鉱の有無(磁性の有無)による花こう岩系列の考えである。これにより中国地方のタングステンやモリブデンの鉱床の分布を説明できる。

磁鉄鉱の有無による分類

1980年頃,日本の石原舜三が中国地方の鉱床の分布と花こう岩の性質とが関連していることに気づき,花こう岩系列という考えを提唱した。前節のオーストラリア学派の化学組成による分類と似ているが,石原は鉱床との関連を強調した。野外ですぐに区分できることもあり,鉱床探査(こうしょうたんさ;鉱床をさがすこと) で盛んに使われている。この分類では,花こう岩を磁鉄鉱系とチタン鉄鉱系の二つに分ける。

磁鉄鉱系花こう岩の特徴

・磁鉄鉱を含み,3価鉄と2価鉄の比が大きい全岩組成を示す。

・酸化的条件下で結晶化した。

チタン鉄鉱系花こう岩の特徴

・磁鉄鉱を含まず3価鉄と2価鉄の比が小さな全岩組成を示す。

・還元的条件下で結晶化した。

 

花こう岩系列の分布

 

西南日本内帯には白亜紀から古第三紀の花こう岩が広く分布している。このうち,瀬戸内側の領家帯と山陽帯の花こう岩ではチタン鉄鉱系,日本海側の山陰帯花こう岩類では磁鉄鉱系の花こう岩が卓越する。

 

花こう岩系列を識別するにはいくつかがある。これは磁鉄鉱の有無を間接的に表している。

.モード組成(花こう岩中の鉱物の量比)で不透明鉱物量が0.1 vol.%より多ければ磁鉄鉱系,少なければチタン鉄鉱系。

・岩石帯磁率(たいじりつ)が,0.5 x 10-3 SIUより大きければ磁鉄鉱系,小さければチタン鉄鉱系。

・全岩: Fe2O3/FeO (wt. %)が0.5より多ければ磁鉄鉱系,少なければチタン鉄鉱系。

・身軽には磁石を携帯して花こう岩に付着するかどうかで花こう岩系列を識別できる。磁石がつけば磁鉄鉱系,つかなければチタン鉄鉱系としてよい。

 

名古屋経済大学の校舎の階段などに花こう岩が使われている。多くは磁石がつかないチタン鉄鉱系だが,ごくわずかの花こう岩は磁石がつく磁鉄鉱系である。磁石を持って試してみるとよい。磁石は強い磁石がよい。

 

帯磁率計(レアックスの商品カタログ)

http://www.raax.co.jp/publics/index/153/

デジタル式帯磁率測定器。鉱物資源調査でよく使われている。

 

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3

花こう岩の標準試料になっているものについて,磁鉄鉱系かチタン鉄鉱系かを化学分析値から区別する。

全岩化学組成でFe2O3/FeO (wt. %)が0.5より大きければ磁鉄鉱系,小さければチタン鉄鉱系である。

 

(産総研地球化学標準試料から)

JG1 群馬県沢入(そうり)の花こう岩

SiO2: 72.3, TiO2: 0.26, Al2O3: 14.24, Fe2O3: 0.38, FeO: 1.61, MnO: 0.063

MgO: 0.74, CaO: 2.2, Na2O: 3.38, K2O: 3.98, P2O5: 0.099

JG3 島根県三刀屋(みとや)の花こう岩

SiO2: 67.29, TiO2: 0.48, Al2O3: 15.48, Fe2O3: 1.62, FeO: 1.83, MnO: 0.071

MgO: 1.79, CaO: 3.69, Na2O: 3.96, K2O: 2.67, P2O5: 0.122

 

回答例は3のまとめの下に記す。

 

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花こう岩系列と鉱床

花こう岩系列は鉱床の種類と関係が深い。

-モリブデン鉱床とすず-タングステン鉱床でこのことをみてみる。

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-モリブデン鉱床の特徴は次の通り。    

 ・花こう岩系列の種類:磁鉄鉱系花こう岩     

 ・花こう岩の種類(細分した区分): トーナル岩-花こう岩(狭義,きょうぎ)

 ・角れきパイプ :普通

 ・ペグマタイトキャップ:無い      

 ・鉱体の大きさ:大きい (1-3 km))

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すず-タングステン鉱床の特徴は次の通り。

 ・花こう岩系列の種類:チタン鉄鉱系花こう岩

 ・花こう岩の種類(細分した区分):花こう岩(狭義,きょうぎ)

 ・角れきパイプ:まれ

 ・ペグマタイトキャップ:普通

 ・鉱体の大きさ:小さい (100-300 m)

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このように磁鉄鉱系花こう岩は銅-モリブデン鉱床を伴い,チタン鉄鉱系花こう岩はすず-タングステン鉱床を伴う。世界の銅鉱床の大半を占める斑岩鉱床の多くは磁鉄鉱系花こう岩が鉱床形成に関係している。

石原が最初に注目した西南日本内帯では,花こう岩系列の違いに対応して,モリブデン鉱床は山陰地方に,タングステンは山陽地方に分布している。

 

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なぜ磁鉄鉱系花こう岩にモリブデンを伴い,チタン鉄鉱系花こう岩にタングステン鉱床を伴うか?

(この項は化学の込み入った内容でやや難解,省略可)

 

モリブデン鉱物は輝水鉛鉱(きすいえんこう,Molybdenite)MoS2(化学組成では硫化モリブデン,Molybdenum sulfide)が代表的なもの。

タングステン鉱物は灰重石(かいじゅうせき,Scheelite)CaWO4(化学組成でいえばタングステン酸カルシウム,Calcium tungstate)や鉄マンガン重石(てつマンガンじゅうせき,Wolframite)(Fe, Mn)WO4が代表的なもの。

 

水溶液から鉱物が溶出する条件に基づいて,花こう岩系列の違いでモリブデン鉱床かタングステン鉱床のどちらが卓越するかを定性的に説明できる。

陽イオン濃度と陰イオン濃度の積(かけあわせたもの)は溶解度積(Solubility product)で,その値はイオンの種類によって定まっている。

例えば,

CuS, [Cu] [S] = 10-40

CaSO4, [Ca] [SO4] = 6x10-5

溶解度積の小さなイオンはpHの低い溶液から沈殿するが,大きなイオンは溶液のpHが高くないと沈殿しない。(飯山敏道「地球鉱物資源入門」,東京大学出版会,pp.1951998)

概して硫化物の溶解度積は非常に小さく(10-50から10-20),炭酸塩,硫酸塩,タングステン酸塩の溶解度積はそれらより大きい(10-10から10-3)

 

磁鉄鉱系花こう岩からチタン鉄鉱系花こう岩にかけ,Fe3+/Fe2+の値が小さくなる,つまり酸化の程度が小さくなる。

モリブデン鉱石は硫化物が主で,タングステン鉱石はタングステン酸塩が主である。酸化的すなわち磁鉄鉱系花こう岩には溶解度積が小さなモリブデン鉱が卓越し,還元的なチタン鉄鉱系花こう岩には溶解度積が大きなタングステン鉱が卓越する。

(注:MoS2の溶解度積を参照するに至っていない。CaWO4の溶解度積は0.0024)

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タングステンとモリブデンの特性と用途

銅などのように大量に使う金属はベースメタルという。タングステンとモリブデンなどは,大量に必要とはしないが欠くことができない金属で,レアメタルという。食物にたとえ,金属のビタミンという。

タングステンもモリブデンも現在の製造業に欠くことができないものとなっている。以下特性と用途を記す。

 

タングステン Tungsten

・特性:最も硬く,最も融点の高い金属。   

・用途:超硬工具の原料。

      超硬工具は自動車の部品製造などで使用。

・生産:世界の年間生産量は78000トン(純分),このうち,中国が63000トン,ベトナム3500トン,ロシア2000トン。生産量は2023年の統計(USGS, 2024)

タングステン鉱石 灰重石(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c6/Scheelite_MHNT.MIN.2004.0.88_%28p%29.jpg

 

モリブデン Molybdenum

・特性:機械的強度が大きく,剛性が強い。

・用途:特殊鋼,ステンレス鋼の添加剤,触媒に利用。

・生産:生産量は260,000トン(純分),内訳は中国110,000トン,チリ46,000トン,ペルー37,000トン,米国34000トン。生産量は2023年の統計(USGS, 2024)

 

モリブデン鉱石 輝水鉛鉱(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/32/Molybdenum_crystaline_fragment_and_1cm3_cube.jpg

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タングステン鉱石から素材(タングステン地金) 西山(2022)を簡略化

タングステン鉱石→採鉱→選鉱→製錬→素材(タングステン地金)

 

モリブデン鉱石から素材(モリブデン地金) 西山(2022)を簡略化

・モリブデン鉱石→採鉱→選鉱→製錬→素材(三酸化モリブデン,フェロモリブデン,金属モリブデン)

・硫化物鉱石  →採鉱 →選鉱 ↑                     

 (亜鉛・鉛)

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問4

タングステンの特徴は何か。その性質を使って何に用いられているか?

回答例を3まとめに下に記す。

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日本のタングステン鉱山の例:現在は観光鉱山になり入坑可能

玖珂鉱山(タングステン) Kuga Mine (Tungsten)

玖珂鉱山の歴史は古く,銀・すず・銅・タングステンを採掘する鉱山として400年の歴史を持つ。天正年間(1573〜1591)には銀が発見され,慶長年間(1596〜1614)にはすずが,嘉永年間(1847〜1853)には毛利藩により銅が稼行され,その後,稼行と休山が繰り返された。

タングステン鉱山として日本一の産出量を誇った。平成5年(1993)3月閉山。

現在,旧玖珂鉱山の坑道の一部を利用したテーマパーク「美川ムーバレー」として観光客を集めている。かつての坑道や選鉱施設を見ることができる。

 

美川ムーバレー

https://www.muvalley.com/

タングステン鉱山の跡地を”地底の王国”としてテーマ化している。

地底観光のほか,砂金取りコーナー,バーベキューハウス,センターハウスなどの施設を整備。

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3のまとめ

花こう岩について,磁鉄鉱を含むかどうかの分類(花こう岩系列)で関連する鉱床の種類を知ることができる。

西南日本では山陽地方に磁鉄鉱を含まない花こう岩(チタン鉄鉱系花こう岩)が分布しタングステン鉱床を伴う。山陰地方では磁鉄鉱を含む花こう岩(磁鉄鉱系花こう岩)が分布しモリブデン鉱床を伴う。

 

問い3 回答例

JG1はFe2O3/FeO=0.236, 0.5より小さいのでチタン鉄鉱系花こう岩

JG3はFe2O3/FeO=0.885, 0.5より大きいので磁鉄鉱系花こう岩

 

問い4 回答例

硬い。

そこで超硬工具に用途がある。細かな切削ができるので製造業に欠かせない。自動車の部品つくりで貢献している。

コバルトとの合金ステライトを用いて,摩耗性や耐食性に優れた製品を生み出す。

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以上

 

付録

青空文庫:小島烏水「山を讃する文」

短編作品の山岳記で花こう岩からなる山のことを記している。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000027/files/2365_13468.html

動画:昇仙峡,花こう岩がおりなす渓谷美(NHK,2000年),2分23秒

https://www2.nhk.or.jp/archives/michi/cgi/detail.cgi?dasID=D0004500077_00000

動画:ステライト製品の紹介(ステライト:コバルトを主成分とするタングステンなどとの合金),1分7秒

https://www.youtube.com/watch?v=IA5s7x3KG7E&feature=emb_logo

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遠隔授業の場合の課題

花こう岩の成因については古くから論争がある。

(1) 18世紀の論争でウエルナーは地球上の岩石は,砂岩でも花崗岩でも玄武岩でも,海の水から沈殿した水成岩(堆積岩)と考えた。この考えを何と言うか。

(2) ハットンは地球上には海底や湖底に堆積してできた水成岩もたくさんあるが,玄武岩や花こう岩は,高温の融解した物質(マグマ)が冷却・固結したと考えた。この考えを何と言うか。

(3) 花こう岩にはタングステン鉱床がともなう。タングステンはどんなことに使われているか。

(4) 質問や感想があれば記す。

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