科学と人間社会U(地質・資源・環境と社会) Geology, Mineral Resources and Environment in our society

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この「科学と人間社会U」では,地質・鉱物資源・自然環境と私たちの社会との関わりを論じる。

そこから,わたしたちの生活が地球から恩恵を受けていることを知ることができる。

深めたい方のために丸善のE-Bookと関連動画を紹介する。

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序論:資源の分布,元素の基礎,地質の基礎  (2024.08.30 Version)

0 はじめに

1 鉱物資源のかたより

2 元素と周期表

3 地質入門

参考 e-Bookや動画の紹介

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要点

資源の分布にはかたよりがあり,それは地質の違いに関係する

資源の基本は元素,元素の性質は周期表のならびでわかる

岩石は堆積岩,火成岩,変成岩に分けられる

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小問一覧(自習効率をあげるため,本文中の問いをここにもまとめて記す)

1:斑岩銅鉱床の図を見て鉱床はどこに多いか, (回答例:1まとめの後) 

→ 回答へリンク

2:次の元素の記号は何か。

(きん),銅(どう),鉛(なまり),亜鉛(あえん),ニッケル (回答例:2のまとめの後)

→ 回答へリンク

3:次のうち,どれが岩石名か。

長石,玄武岩,花こう岩,黒雲母 (回答例:3のまとめの後)

→ 回答へリンク

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0 はじめに

15回の講義で何を論じるか:

地球46億年の歴史でどんな営みがあったか(地球史),その営みの結果が人間社会にどう貢献しているか(鉱物資源),それはどうやって調べるか(地質の調査)を論じる。地球を理解するために,宇宙にも対象を広げる(惑星科学)。現在地球が危機に瀕しているが具体的にはどんなことが起こっているか(地球環境学),そしてその解決に向けてどんな対策がなされているか,なされようとしているか(地球工学)を論じる。

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1 鉱物資源のかたより Regional distribution of mineral resources

鉱物資源の分布にはかたよりがある。その理由は,資源の種類の違いが地質の違いと関係があるから。

 

1.1資源のかたより

例:銅鉱床

鉱物資源が集まっているところ鉱床(こうしょう)と言う。

鉱物資源に富む国がある一方乏しい国がある。

このように資源の分布にはかたよりがある。

世界の銅の多くは,斑岩型(はんがんがた)鉱床から産出する。

ここで,資源のかたよりの例として,斑岩型銅鉱床の分布を見る。

 

世界の銅鉱床(斑岩型鉱床)

斑岩銅鉱床の分布 USGS (2005)より

原典: https://pubs.usgs.gov/of/2005/1060/

 

1:この図を見てこのタイプの鉱床はどこに多いか,答える。

(回答例:1まとめの後)

 

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1.2プレートテクトニクス

どうして資源にかたよりがあるのか? それは地質の違いを反映しているからである。

そこでまず地球表面全体を理解してみる。地球の表面はどうなっているかを理解するためにプレートテクトニクスを紹介する。

地球上のプレートの分布は次の図である。

地球上のプレート (ウィキペディアより,原典はUSGSのフリー利用可能な図)

 

プレートテクトニクスの要点

地球表面の変動は,変形しにくい板であるプレートの動きで説明できる。すなわち,プレートの相互作用で地震や火山活動を説明できる。世界のプレートの分布で,日本列島付近に注目すると4つのプレートが接している。このため日本列島では火山や地震活動が活発である。

 

プレートの動きを横から見ると次の通りとなる。(ウィキペディアより)

Tectonic_plate_boundaries.png (775×429) (wikimedia.org)

この図で,プレートが沈み込んでいるところでは火山活動が盛んである。

この火山活動に関連して金属元素が地下から上がってきて鉱床ができる。そこで上でふれた斑岩銅鉱床は,プレートの沈み込み帯に産出する。

 

1.3 世界の鉱物資源分布

鉱物資源は銅のほか,多くの種類がある。その世界での分布はUSGSの次のサイトで見ることができる(英文)

http://mrdata.usgs.gov/general/map-global.html

1.1で紹介した斑岩銅鉱床は,この図左にある選択から“Global Cu Assessment”の“Porphyry Cu deposits”を選ぶと分布がわかる。緑色四角記号が現在生産している鉱山である。

 

1.4 鉱石から素材へ

鉱石から資源(金属)をとりだし,人間社会に実際に使われるようになるまでの工程を略記する。

参考文献:西山 孝(2022)元素のふるさと図鑑.化学同人,pp. 162

 

鉱石とは,現在の技術で金属を取り出して利益が出る岩石のこと。この鉱石を探すことから始まる。

探査(鉱石をさがす)

→採鉱(火薬などで鉱石を破砕して運搬)

→粉砕・選鉱(鉱石を細かくくだいて鉱石鉱物を分離濃縮して「精鉱」にする)

→製錬・加工(精鉱から金属をとりだし加工)

→素材(ものづくりの材料としてさまざまな形に加工)

→製品

坑内掘り(尾去沢鉱山の坑内展示車)

http://c5557.photoland-aris.com/osarizawa2.htm

 

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1のまとめ

鉱物資源の種類は地質と関係している。地質の違いはプレートテクトニクスによって説明できる。プレートの沈み込みによりマグマの上昇が起こり,それによって金属元素が集まり鉱床を形成する。

 

(問1の回答例)

銅鉱床は北米から南米の西海岸に多いのがすぐわかる。

ここは西から東(大陸)に向けてプレートが沈み込むところである。鉱物各論の章であらためてふれるが,プレート沈み込みに伴う大規模な銅鉱床は「斑岩型鉱床」と呼ばれるものである。

大陸内部の鉱床はかつてプレートが沈み込むところだったと考えられる。

 

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2 元素と周期表  Elements and Periodic table

鉱物資源は有用な元素の集まり。そこで元素を復習し,周期表で鉱物資源を整理する。

 

2.1元素と原子

元素はそれ以上分解できない物質の基本単位で,物質の概念的な名称である。元素と混乱を起こすのに原子がある。原子は物質の化学的性質を表す質量や構造をもった最小単位の粒子である。例えば,水素という元素(という概念)は水素原子という粒子から成り立っている。

 

原子の相対的な質量を表すために原子量を使う。炭素(厳密には質量数12の炭素同位体) の原子量を12と定義してそれを基準に原子量を定める。多くの元素は質量数の異なる同位体からなるので,実際の原子量は同位体比の平均となる。

 

資源としての元素

資源や有害物質を表すために元素を用いて表わす。社会との関りを元素から考える。例として,金属元素である鉄や銅は資源としてどのように利用されているかを考えてみる。 

「鉄(元素記号:Fe)は産業の基盤として,線路,橋,建物の骨組み,家庭の金属製品等々,広く利用されている。

「銅(元素記号:Cu)も生活の基盤として利用している。電気を通しやすいので電線や電機製品に利用されている。そのほか食器や十円玉は身近な例である。

 

鉄や銅のほかの金属も広く利用されている。ルネッサンスの頃は7種類,20世紀半ばで10くらい,1970年には20くらい,そして現在は周期表にある86の全金属を利用している。それは急速な産業の高度化で情報産業や再生可能エネルギーなどの進展でそれまで使われていなかった元素の需要が増加したことによる。とくにレアメタルの需要が増えている。

参考:レアメタルとは,地殻ではまれな金属の総称。それに対して鉄や銅など従来の産業で大量に使っている金属はベースメタルという。

 

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2.2元素発見の歴史

ここで古代から利用されていた元素について,発見の歴史を説明する。

参考文献:D.N.トリフォノフ・V.D.トリフォノフ 阪上正信・日吉芳朗訳 1994:化学元素発見のみち。内田老鶴圃,p.267

古代に知られていた元素

炭素 C

人類は自力で火をつくり,炭は人間の仲間であった。それよりも前に,雷で燃えた木の形の炭を見ていただろう。

数千年後,18世紀末になり,単体で(元素として)炭素を確認する。サンスクリットの「cra]は「沸騰する」の意。1824年に「carbon」が提唱された。

 

硫黄 S

古代ギリシャ人は家を消毒するのに硫黄を燃やした。花火製造に使われ,「ギリシャの火」として知られている。

19世紀初頭になって元素として認められる。「sulphur」の語源は不明。

 

次の7つの金属は文明の発展と自然哲学の形成に大きな役割を果たした「荘厳な七つの金属」と言われるものである。

Au

古代エジプト王朝,紀元前10世紀の中国,インド,メソポタミアで金が使われていた。4-16世紀,ほかの金属を金に変換する錬金術が盛んだったが,すべて不成功だった。大航海時代にスペインの征服者が中南米に向かい,インカ帝国の莫大な金を略奪した。

金のラテン名「aurum」は「夜明け(Aurora)」に由来する。極光の意もある。

金製品(日本マテリアル)

http://www.material.co.jp/product_menu.php

 

Ag

古代エジプトでは,銀が金より価値があった。金は貨幣や宝石に,銀は水容器をつくるのに利用。

紀元前4世紀,アレクサンダー大王の軍隊がペルシャやフェニキアを征服。胃腸病の発生に悩まされ,戦士は帰郷を余儀なくされた。一方指揮官はその病気になることはずっと少なかった。戦士たちはすずのコップで,上官は銀のコップで水を飲んでいた。銀の容器に殺菌力があったことによる。

「銀」は,アッシリア語の「serpu」あるいはゴート語の「silbur」に由来する。ラテン語のargentumは,「光,白」を意味するサンスクリットのargantaに由来する。

銀製品(フローレンス)

http://www.flawless-corp.jp/silver/

 

Cu

5000年以上前から利用。自然銅を利用,その後銅鉱石を製錬して銅を得る。

銅とすずの合金の青銅は広く利用され,石器文明をおきかえた。銅と亜鉛の合金の真鍮(しんちゅう)も古くから知られている。古代のエジプト人,インド人,アッシリア人,ローマ人,ギリシャ人は,よく知っていた。

(copper)の起源は,古代の銅鉱山で有名なキプロス島に由来する。ラテン語のcuprumである。

 

Fe

豊富な金属だが,自然鉄はまれ。人類がはじめて使った鉄は隕石(隕鉄)起源だったかもしれない。

金,銀,銅については,すべての大陸(文明発祥の地)の人々がほぼ同時に知るが,つぎのように鉄を知る時期は異なる。

紀元前2000年,エジプトやメソポタミアでは鉱石から鉄を取り出す。

紀元前1000年代終わり,小アジア,古代ギリシャで。

紀元前はじめの1000年中ごろ,中国で。

紀元1000年代,新世界の国々で。ヨーロッパ人の渡来とともに。

 

15世紀,鋳鉄をつくる溶鉱炉ができる。

1855年,鋼をつくる転炉があらわれ今に至る。1865年にはスラグを含まない鋼が得られる(マルチン法)

元素記号Feはラテン語のferrumに由来。

 

Pb

自然状態では,非常にまれだが,鉱石からは容易に製錬される。古代エジプトでは知られていた。

紀元前1000年代,インドや中国でつくられていた。

紀元前6世紀,ヨーロッパで鉛の記述がある。ギリシャ人とフェニキア人はスペインで鉛鉱山をおこす。ローマ人に接収された。

古代ローマ,鉛が広く使われる。容器,尖筆,ローマ水道の管など。

長く鉛はすずと混同,中世になりそれぞれ別の金属と認められる。ギリシャ人は鉛をmolibdosと名づける。化学記号Pbは,ラテン語のplumbumにちなむ。

 

すず Sn

自然界で鉱物すず石で産出する。6000-6500年前,銅と同じ時代にすずを発見した。

地中海の国々,ペルシャ,インドで広く知られる。エジプト人は青銅をつくるのにすずをペルシャから輸入した。

ラテン語のすずstannumはサンスクリットのstanからきて,「個体」を意味する。化学記号Snはラテン名に由来する。

 

水銀 Hg

スペインの山岳地帯で水銀が井戸の底に見いだされる。

古代,中国とインドで水銀が知られていた。

紀元前1000年代中ごろ,エジプトの墓の発掘物中に見いだされる。

ローマ帝国時代,アルマデン(スペイン)でローマ人は年間4.5トンの水銀をとりだす。

古代に,鏡はアマルガム化した水銀でつくられる。水銀とその化合物は医薬品として利用。

液体の銀,銀の水の意のラテン語hydragiumが水銀の名称の由来である。

 

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中世に発見された元素

りん(P),ひ素(As),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),亜鉛(Zn)

発見の歴史がはっきりせず,有史以前から鉱石として知られていたが,性質が不明瞭であった。中世の化学者が元素として発見(認識)した。

 

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化学分析が盛んになり,多くの元素が知られるようになり,そして周期表へ

18世紀末から19世紀に,それまで知られている元素の性質を系統的にならべる試みがあった。元素を原子番号の順に並べていくと似た性質の元素が周期的に出現する。この周期律に基づき,メンデレーフは周期表を作成した(1869)。次節で周期表を詳しく述べる。

なお,ここで原子番号とは,当初,原子量の順にならべたときの番号であった。原子の構造が分かるようになり,今日的意味では,原子核を構成する陽子の数が一つ増えると別の元素になり,原子番号が一つ増える。

 

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2.3周期表 Periodic Table

周期表とは元素の化学的性質がわかるようにならべた表。

以下の周期表では,原子記号と元素名を記す。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

周期

1

H

水素

He

ヘリウム

2

Li

リチウム

Be

ベリリウム

B

ほう素

C

炭素

N

窒素

O

酸素

F

フッ素

Ne

ネオン

3

Na

ナトリウム

Mg

マグネシウム

Al

アルミニウム

Si

けい素

P

りん

S

いおう

Cl

塩素

Ar

アルゴン

4

K

カリウム

Ca

カルシウム

Sc

スカンジウム

Ti

チタン

V

バナジウム

Cr

クロム

Mn

マンガン

Fe

Co

コバルト

Ni

ニッケル

Cu

Zn

亜鉛

Ga

ガリウム

Ge

ゲルマニウム

As

ひ素

Se

セレン

Br

臭素

Kr

クリプトン

5

Rb

ルビジウム

Srスト

ロンチウム

Y

イットリウム

Zr

ジルコニウム

Nb

ニオブ

Mo

モリブデン

Tc

テクネチウム

Ru

ルテニウム

Rh

ロジウム

Pd

パラジウム

Ag

Cd

カドミウム

In

インジウム

Sn

すず

Sb

アンチモン

Te

テルル

I

よう素

Xe

キセノン

6

Cs

セシウム

Ba

バリウム

La *

Hf

ハフニウム

Ta

タンタル

W

タングステン

Re

レニウム

Os

オスミウム

Ir

イリジウム

Pt

白金

Au

Hg

水銀

Tl

タリウム

Pb

Bi

ビスマス

Po

ポロニウム

At

アスタチン

Rn

ラドン

7

Fr

フランシウム

Ra

ラジウム

Ac **

Rfラザホージウム

Db

ドブニウム

Sgシーボーギウム

Bh

ボーリウム

Hs

ハッシウム

Mt

マイトネリウム

Dsダームスタチウム

Rgレントゲニウム

Cnコペルニシウム

Nh

ニホニウム

Fl

フレロビウム

Mc

モスコビウム

Lv

リバモリウム

Ts

テネシーネ

Og

オガネッソン

La ランタン

* ランタノイド

Ce

セリウム

Pr

プラセオジム

Nd

ネオジム

Pm

プロメチウム

Sm

サマリウム

Eu

ユウロピウム

Gd

ガドリニウム

Tb

テルビウム

Dyジスプロシウム

Ho

ホルミウム

Er

エルビウム

Tm

ツリウム

Ybイッテルビウム

Lu

ルテチウム

Ac アクチニウム

**アクチノイド

Th

トリウム

Paプロトアクチニウム

U

ウラン

Np

ネプツニウム

Pu

プルトニウム

Am

アメリシウム

Cm

キュリウム

Bk

バークリウム

Cfカリホルニウム

Esアインスタイニウム

Fm

フェルミウム

Mdメンデレビウム

No

ノーベリウム

Lrローレンシウム

 

元素の周期表の説明

・たての元素の並びは「族」という。1から18族からなる。

・横方向の元素のくくりは,「周期」で1から7まである。

・周期表で1,212-18族の元素は化学的性質が似ている。典型元素という。

3-11族の元素は化学的性質の類似性がみられない。むしろ横方向に類似性がみられる。遷移元素という。

 

次のリンク先は原子番号や原子量も記した周期表である。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/70/Atom%28ver.2018.06%29.jpg

(ウィキペディアの周期表)

 

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2.4地球化学的分類

周期表の応用として,ゴールドシュミット(Goldschmidt)は,元素を自然界における挙動をもとに分類した。

親鉄元素(siderophile elements) :鉄Feと挙動をともにする元素 Co, Ni, Moなど

親銅元素(chalcophile elements):銅Cuのように硫化物をつくる元素 Zn, Ag, Cdなど

親石元素(lithophile elements):けい酸塩として岩石をつくる元素 Na, Mg, Caなど

親気元素(atmophile elements):気体として大気に存在する元素 N, He, Arなど

この考えは大局的には正しく,自然界に金属相,硫化物相,けい酸相,気相が共存するとき,各々の元素がどのように挙動するかを示唆する。異なる相にまたがっている例も多いが,地質鉱物資源を考えるときには便利である。

地球化学的分類図 ウィキペディアより

https://en.wikipedia.org/wiki/Goldschmidt_classification

 

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2

元素記号を復習。次の元素の記号は何か。どんな用途があるか。

(きん),銅(どう),鉛(なまり),亜鉛(あえん),ニッケル

回答例:2のまとめの後

 

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2のまとめ

鉱物資源を知るのに元素の知識が必要となる。

周期表は元素の化学的性質がわかるよう元素をならべた表である。元素の元素記号や原子量がわかる。

 

2の回答例

金,銅,鉛,亜鉛,ニッケル

Au, Cu, Pb, Zn, Ni

(用途)

金:装飾,蓄財対象,医療,エレクトロニクス

銅:電線,配管,産業機械,電子関連デバイス

鉛:蓄電池電極,合金成分,放射線遮蔽材

亜鉛:合金成分,電池(負極材料),めっき(トタン)

ニッケル:ステンレス鋼や硬貨の原料,磁性材,耐熱材

 

補足(語源)

Auはラテン語で金を意味するaurumに由来。

Cuはラテン語で銅を意味するcuprumに由来。

Pbはラテン語で鉛を意味するplumbumに由来。

Zn,オランダ人が亜鉛を欧州に持ち込んだ。櫛の歯(Zinken)状の形からZinkと呼んだ。英語ではZinc

Ni,名称はドイツ語のKupfernickel (悪魔の銅)に由来。

 

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3 地質入門 Introduction to geology

鉱物資源を見つけるために地質の知識は必須。鉱石をさがす探査は地質調査そのものである。

ここでは地質の基礎(岩石や鉱物,地質時代,地質図)を説明する。

 

地質学のはじまり

・産業革命の頃,イギリスでは運輸のために盛んに運河が掘られた。その際,地層が良く見えるようになって近代的な地質学の基礎ができた。

・このときに活躍したのはウィリアム・スミス(William Smith, 1769-1839)

・彼は,炭鉱の鉱脈調査,石炭を運ぶための運河の建設や農地の改良といった仕事を手がけながら,様々な地層やそこに埋まっている化石を観察した。その観察から,スミスは地層累重(ちそうるいじゅう)の法則と示準化石(しじゅんかせき)による年代決定法(地層同定の法則)を編み出した。これについては地学史でくわしくふれる。

 

地質の基本として次のことを説明する。

・岩石の分類 Rock classification

・地質時代区分 Geologic age division

・地質図 Geologic map

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3.1 岩石の分類  Rock classification

岩石は,地球表面上で堆積した堆積岩(たいせきがん),マグマから固まってできた火成岩(かせいがん),すでにある岩石が熱や圧力を受けてできた変成岩(へんせいがん)に大きく分けられる。

 

堆積岩 Sedimentary rocks

堆積岩は砕屑物(さいせつぶつ)が固まった砕屑性堆積岩,化学−生物的岩石,火山性岩石に分けられる。

・砕屑性堆積岩

粗粒のもの:れき岩,角れき岩 / 中粒のもの:砂岩 / 細粒のもの:泥岩

・化学-生物的堆積岩 

けい質:チャート(放散虫が集まってできた)

石灰質:石灰岩(貝やサンゴなどからできた)

炭素質:石炭(特殊な環境のもとで植物遺骸からできた)

・火山性堆積岩 

凝灰角れき岩,凝灰岩など火山からの放出物が積もってできた岩石

 

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火成岩  Igneous rocks

火成岩は,マグマが固まってできた岩石で,火山岩(かざんがん)と深成岩(しんせいがん)に区別される。火山岩は概して細粒,深成岩は粗粒である。

化学組成で,けい酸(SiO2重量%)が少ないものから多いものの順に,超苦鉄質(ちょうくてつしつ),苦鉄質(くてつしつ),中間質,けい長質。この順に黒っぽい色調から白っぽい色調に変わる。

・深成岩の分類:超苦鉄質はかんらん岩,苦鉄質ははんれい岩,中間質はせん緑岩,けい長質は花こう岩である。

・火山岩の分類:苦鉄質は玄武岩(げんぶがん),中間質は安山岩,けい長質はりゅうもん岩である。

 

火成岩分類のまとめの表

色調:左側が黒っぽく,右側が白っぽい。           

組成

超苦鉄質

苦鉄質

中間質

けい長質

火山岩

 

玄武岩

安山岩

りゅうもん岩

深成岩

かんらん岩

はんれい岩

せん緑岩

花こう岩

 

注釈

かんらん岩は橄欖岩,はんれい岩は斑糲岩など少々難しい漢字となる。

苦鉄質:「苦」とは苦土(マグネシウム),そこで苦鉄とはマグネシウムや鉄という意味。

けい長質:「けい」()は二酸化けい素からなる石英,「長」は長石,そこでけい長とは石英や長石の意味。

 

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変成岩  Metamorphic rocks

変成岩は,もともとあった岩石が新たな圧力や熱の条件のもとで形を変えた岩石である。

・接触変成作用(せっしょくへんせいさよう):マグマと接触して生じる変成作用。できた岩石をホルンフェルスという。

・広域変成作用(こういきせんせいさよう):広域に,岩石が置かれた場所の地温勾配(ちおんこうばい)に応じた変成作用。これでできた岩石には,薄くはがれる片理構造の結晶片岩,縞状(しまじょう)構造の片麻岩(へんまがん)などがある。

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岩石や地層のようすを紹介する。上記の岩石がどのように見えるか,確認できる。

岩石の写真集(聖徳学園HPより)

http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/CHISITSU/GANSEKI/index.html

野外での地層や岩石のようす(産総研HPより)

https://gbank.gsj.jp/geowords/picture/photo.html

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鉱物と岩石の違いを確認してみる Mineral and Rock

・鉱物:自然の物質のうち,物理的・化学的に均質で一定の性質を有する無機質の物質。例:石英,長石,雲母

・岩石:数種の鉱物の集合体。例:花こう岩,玄武岩,砂岩

 

次の写真で鉱物を観察してみる(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3b/Granito.jpg

写真は花こう岩(岩石)。白い鉱物は長石,透明のガラスのような鉱物は石英,黒い鉱物は大部分が黒雲母。

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3.2 地質時代  Geologic age

化石に基づく相対年代と放射性鉱物を利用して数値で表す放射年代がある。

地質時代は古いものから新しいものへ,先カンブリア時代,古生代,中生代,新生代に区分できる。

先カンブリア時代には肉眼で見えるしっかりした生物はまだ現れていない。前半には大気に酸素がまだなかったが途中から酸素が含まれるようになった。古生代には魚類から両生類と生物が進化した。中生代は,爬虫類(はちゅうるい)の時代で恐竜が栄えた。新生代は哺乳類(ほにゅうるい)の時代で人類の出現と続く。

 

放射年代では,古生代の始まりが54100万年前,中生代の始まりが25200万年前,新生代の始まりは6600万年前である。

 

地質時代を細分するとつぎのようになる。

先カンブリア時代は,古いものから冥王代,始生代,原生代に分けられる。

古生代は,古いものからカンブリア紀,オルドビス紀,シルル紀,石炭紀,ペルム紀に分けられる。

中生代は,古いものから三畳紀,ジュラ紀,白亜紀に分けられる。

新生代は,古いものから古第三紀,新第三紀,第四紀に分けられ,さらにそれぞれの紀はいくつかの世に分けられる。

 

上のことを表にまとめる

代,時代

() (先カンブリア時代は代)

生物界

 

新生代

           

第四紀  (完新世/更新世)

新第三紀 (鮮新世/中新世)

古第三紀 (漸新世/始新世/暁新世)

動物:哺乳類(ほにゅうるい)

植物:被子(ひし)植物

 

中生代

            

白亜紀

ジュラ紀

三畳紀

動物:は虫類

植物:裸子(らし)植物

古生代

 

ペルム紀

石炭紀

デボン紀

シルル紀

オルドビス紀

カンブリア紀

カンブリア紀になり生物が爆発的に発生する。

時代が進むにつれ,無脊椎動物,魚類,両生類と進化していく

先カンブリア時代

原生代

始生代

冥王代

 

主な放射年代:古生代の始まり541,中生代の始まり252,新生代の始まり66(単位は百万年前)

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3.3 地質図 Geologic map

地質図は,地層や岩石を区分し,その分布を地形図の上に色や模様で表現したもの。資源調査,土木工事,防災調査で必須の図面である。

 

地質図の例:場所は北海道の襟裳岬の北,アポイ岳付近,岩石の種類でがわかるように色分けをしてある。

https://www.gsj.jp/data/openfile/no0376/APOIhp.jpg

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野外調査について

・地質調査の準備:野外を歩ける服装や靴,両手が自由になるよう荷物をザックに入れ背負う。地図,ノート,筆記具(鉛筆など),あればハンマー(トンカチで代用),クリノメータ(普通の方位磁石で代用),ルーペ(むしめがね)を用意する。

・地質調査:切割や川沿いなど,地層や岩石が露出しているところでどんな地質かを観察する。

・上記の地質の観察結果を地図上に記す。

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地質図を完成させるまでの手順を示す。野外観察,その結果を地図に記し,同じ地質単位の分布をつないで地質図ができる。(産総研HPより)

・野外で地層を観察する。

https://www.gsj.jp/geology/geomap/process-field/formation.html

・調査結果を地図に記す

https://www.gsj.jp/geology/geomap/process-field/gongenyama1.html

・その結果から地質図を作成する。

https://www.gsj.jp/geology/geomap/process-field/gongenyama3.html

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3: 

次のうち,どれが岩石名か。

長石,玄武岩,花こう岩,黒雲母

(回答例:3のまとめの後)

 

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3のまとめ

資源を知るために,地質の知識が必要で,その基本は次の通り。

岩石の分類:大きく堆積岩,火成岩,変成岩に分けられる。

地質時代:化石にもとづくものと放射年代にもとづくものがある。

地質図:地質の違いを地図にあらわしたもので,資源調査のほか,国土開発や防災の基礎情報となる。

 

3の回答例

玄武岩,花こう岩

 

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参考資料:

・「名経大ウェブのE-book

科学の偉人伝(おとなの楽習,偉人伝)

18ドミトリ・イヴァノヴィチ・メンデレーエフ 周期表の発見

理科のおさらい‐天文‐(おとなの楽習,17)

  26 地球の誕生,27 生物の誕生,28 恐竜の絶滅と人類の登場

・青空文庫

石原 純「ジェームズ・ワット」昭和17年(1942年)

https://www.aozora.gr.jp/cards/001429/files/58160_65493.html

科学が人間社会を大きく変えた産業革命のころの話題。5分くらいで読める短編。

・動画(429)

庵治石 石材採掘から加工までの9過程を知る。

https://japan-stone-center.jp/aji.html

・動画(4分47)

1969724日 アポロ11号月面着陸。

https://www.youtube.com/watch?v=BcIRVmK3j6Y                                        

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対面授業に出席できない履修生への課題

自習事項

・要旨で講義の骨子を読む。

・資料の問いについて,答を見る前に自分で考える。

・参考資料として記したe-Bookのどれかを読む。

課題(回答を提出)

1元素についてゴールドシュミットが提案した分類と何か。

2質問や授業の希望があれば記す。

 

(以下余白)