体験型: 犬山学 「大地をさぐる」 2024.08.26 version
序章
自らの調査や測定の結果を図面にまとめ,犬山の大地の成り立ちを語れるようになる。
・地図を作る基礎を学ぶ(測量入門,航空写真地形判読)。
・大地を構成する鉱物や岩石を観察する。
・地質調査を行い,地質図を作成する。それから地質断面を作成し,地下のようすを推定する。
・河川水についてpH,導電率,Ca,NO3を測定して環境を考える。
・放射線量を測定し,自然界から受ける放射線を理解する。
・他の体験科目と合同で見学を行い,議論の幅を広くする。
第1章 測量の基礎と地形図
・ある点から目標とする点までの距離や方位を測って目的とする点の位置を決めていく。
・この原理で点を増やして三角形の網を作り,位置を求めていく。
・地形図の等高線で山や谷の形を知り,緯度経度で場所を知る
1.測量の基礎
基準点(自分の位置)から目標とする点までの長さ(距離),北から何度か(方位角),高さがあれば,その目標までの角度(傾斜)を測るとその目標の点の位置が決まる。
距離の測定
・目標とする地点までの長さ(距離)を測るには,巻き尺などで測る。レーザーでも測れる。
・道具を使わず,歩測(ほそく)といって,歩幅(ほはば)で距離を測ることができる。
・いつも同じ歩幅で歩くためには,何度か繰り返して慣れてくれば一定する。
・なお,ついでに地面から目までの高さを求めておくと良い。
角度の測定
方位と傾きを測る道具にクリノメーターがある。測量に必要な方位や角度を求めることができる。
・方位:自分の位置から目標まで北から何度か。磁石の方向の角度から目盛で読み取る。
・傾斜:自分の位置から目標まで何度傾きか,傾斜方向に機器を向け,針が示す角度を読む。
※目標物までの距離を歩測で求め,傾斜を知れば,目標物の高さがわかる。
2.三角関数
柱や塔などの目標までの距離と角度がわかれば,三角関数からその高さを求めることができる。ここで三角関数を復習する。
直角三角形の頂点をA,B,Cとし、Cの角度を直角とする。辺の長さをAB=c,AC=b,BC=aとする。三角関数は次のように定義される。
サインA :sin A = a ÷ c (あるいはa/c)
コサインA :cos A = b ÷ c (あるいはb/c)
タンジェントA:tan A = a ÷ b (あるいはa/b)
代表的な例
・Cの角度(∠C)が直角(90度)の三角形でAの角度(∠A)が60度,Bの角度(∠B)が30度では,辺の比が,a=ルート3(=
1.73), b=1, c=2である。
sin A = sin 60 = 1.73 ÷2 = 0.87, cos A = cos 60 =
1÷2 = 0.5, tan C = tan 60 =1.73÷1 = 1.73
sin B = sin 30 = 1÷2 = 0.5, cos B = cos 30 =
1.73 ÷2 = 0.87, tan B = tan 30 = 1÷1.73 = 0.58
・Cの角度(∠C)が直角(90度)の三角形で,Aの角度(∠A)が45度,Bの角度(∠B)が45度では,辺の比が,a = b = 1, c =ルート2 =
1.41, である。
sin A = sin 45 = 1÷ルート2 = 0.71, cos A = 1÷ルート2 = 0.71, tan A = tan 45 =1÷1 = 1
※実際の測定では,さまざまの角度となるので三角関数表から求める。
三角関数表 https://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~yasuda/sysKOU/cit-H20/trig-table.pdf
測量例題 「柱の高さを測る」
ある柱(木)の最上部までの角度が30度,その柱の根元まで20mだった。この柱の高さを求めよ。
ただし,角度を求めたとき(人)の目の高さは1.5mである。
回答例
20m × tan 30 =20 × 0.58 = 11.6 m,
これに目の高さ1.5 mを加え,13.1 m。
実習 身近な木や柱の高さを求める。距離を歩測で求め,木や柱の突端までの角度を測る。
3.測量基礎その2
距離を直接測れない木の高さをもとめる
川が間にあるとか,山すそが広がっている場合,目標物(立木)までの距離を直接求められない。
距離は未知だが,目標物(木)の頂部までの角度αは前と同様に測ることができる。
その地点から目標と同じ方向に,後方の別の地点で,目標の頂部までの角度βを測る。
両者の距離dは,歩測測量や巻尺などから求める。
求める高さHは,H = d × tanα× tanβ/ (tanα- tanβ)
これに目の高さhを加える。
目標までの距離を離れた2点からの方位から求める
例えば,岸壁から船までの距離を求める場合である。
2点をAとBとする。目標物(船)をCとする。
A点から目標Cまでの方位とB点までの方位を測る。
方位の差からα(角CAB)を求める。あるいは,コンパスをまわしながら角度を求める。
同様にしてB点からCに伸ばした方向とAに伸ばした方向とのなす角度β(角CBA)を求める。
A点とB点の距離ℓを歩測や巻尺で測る。AとBをむすんだ直線からCまでの距離dは,
d = ℓ/ (1/tanα + 1/tanβ)となる。
AからCまでの距離=d/sinα,BからCまでの距離=d/sinβとなる。
※αやβが90度を超える場合(180度まで),その角度から90度ひいて関数表からtanα(またはtanβ)の値を読みとる。値は負になる。
船の上のマストの高さを知りたいときは,Aから(あるいはBから)マストの上までの角度を求める。
Aから(あるいはBから)Cまでの距離はわかっている。マストの上までの高さを計算で求める。
山の頂上の高さを求める原理である。
国土の基本地図を作るにあたり,このような三角形をつないで原点から順に測量点の位置を決めて,測量の基準点を定めていく。
4.測地の基礎と測量技術の進展
・緯度・経度:地図の座標,緯度は赤道から極に向かう角度,経度は南北基準線からの角度。
・三角点:三角測量を行う際,経度・緯度・標高の基準になる点。
緯度は比較的容易にわかるが経度のみつもりは長く困難だった。
1875年 大三角測量事業(一等三角測量)を開始,1915年 一等三角測量完了。
1924(大正13)年,3万9千点の三角点の経緯度をもとに,5万分の1地形図が完成。
1990年代,人工衛星の観測から精密な地球の形が分かるようになり,日本測地系見直す。
・GNSS(全地球測位衛星システム)測量:人工衛星からの電波で位置を決定。
かつて三角点の位置は三角測量や天測で決めたが,今はGNSS測量で直接決定。
・電子基準点:人工衛星の電波を受けて正確な測量を行うための基準点。
5.地形図 国土の基本図
・伊能忠敬(1745-1818)は,1800年から1816年まで17年かけて日本全国を測量した。
・明治以降の地形図作成 陸地測量部から国土地理院
1983年 2万5千分の1地形図全国整備完了。
2001年 国土交通省国土地理院,この頃から地図情報の電子化が進む。
・地形図の読み方:基本は等高線。
等高線の幅が狭いと急,等高線の幅が広いとゆるやかな地形。
地形図では,等高線によって起伏が表現される。基本は次の3つ。
・等高線の間隔がせまいところは傾斜が急で,間隔が広いところはなだらかな傾斜となる。
・ピーク(山頂)は等高線が丸くなっているところ。
・山頂から凸型になっているところが尾根,凹型が沢(谷)。
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体験 「大地をさぐる」
第2章 鉱物と岩石
・鉱物は,原子が規則正しく配列した結晶で,物理化学的に均一
・岩石は鉱物の集まりで,火成岩,堆積岩,変成岩に分けられる
・鉱物観察に偏光顕微鏡が使われる
1.鉱物
造岩鉱物(岩石を構成する鉱物)
けい酸塩鉱物 けい素を酸素が囲む正四面体を基本として,それらが連結した構造となる。
鉄やマグネシウムを含まない鉱物 石英,長石(斜長石とアルカリ長石)
鉄やマグネシウムを含む鉱物 かんらん石,輝石,角閃石,黒雲母
けい酸塩鉱物以外の鉱物
炭酸塩鉱物 炭酸基([CO3]2-)をもつ鉱物 方解石
酸化鉱物 酸素と結合した鉱物 磁鉄鉱,赤鉄鉱,コランダム
硫化鉱物 硫黄と結合した鉱物 黄鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱
2.岩石 岩石は鉱物が複数集合したもの,火成岩,堆積岩,変成岩に分けられる。
火成岩(かせいがん):マグマから固まってできた岩石で,深成岩と火山岩に分けられる。
|
超苦鉄質岩 |
苦鉄質岩 |
中間質岩 |
けい長質岩 |
SiO2 重量% |
40 〜 45 |
45 〜 52 |
52 〜 63 |
63 〜75 |
火山岩 |
|
玄武岩 |
安山岩 |
りゅうもん岩 |
深成岩 |
かんらん岩 |
はんれい岩 |
せん緑岩 |
花こう岩 |
例:花こう岩(ウィキペディアより)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3b/Granito.jpg
堆積岩(たいせきがん):地球表面上で堆積してできた岩石。
砕屑岩の例,れき岩,砂岩,泥岩。生物-化学岩の例,石灰岩,チャート。
変成岩(へんせいがん):岩石が熱や圧力を受け,元の岩石と性質が変わったもの。
ホルンフェルス,結晶片岩,片麻岩。
3.鉱物の性質
硬度 硬さの程度を表す。標準とする鉱物とこすり調べる。
モースの硬度 1滑石,2石膏,3方解石,4蛍石,5りん灰石,6正長石
7石英(水晶),8トパーズ,9コランダム,10ダイヤモンド
代用品 2.5爪(つめ),5.5ナイフ,釘
実験 鉱物をこすりあわせて硬度の違いを知る
密度 単位体積あたりの物質の重さ(質量) 。通常は体積が1cm3の時の重さで単位は,g/cm3。
似たものに比重がある。比重は同じ体積の水の重さとの比。
水の密度は1g/cm3なので,比重は密度の値で単位をつけないもの。
鉱物の密度の例 方鉛鉱7.5 g/cm3,石英2.7 g/cm3,正長石2.6 g/cm3,白雲母2.8 g/cm3
岩石の密度の例 花こう岩2.5-2.8 g/cm3,かんらん岩2.9-3.3 g/cm3,砂岩2.2-2.7 g/cm3
磁性 鉄(二価鉄 Fe2+)を含む鉱物は磁性を示す。鉄の含有量が多いほど強い磁性を示す。
条痕色(じょうこんしょく) 鉱物を粉末にしたときの色。素焼きの陶磁器に鉱物をこすった粉の色。
実験 鉱物の条痕色を知る。
蛍光(けいこう) 紫外線をあてると蛍光を発する鉱物がある。
実験 紫外線をあてて鉱物の蛍光色を知る。
4.鉱物や岩石の密度の測定
体積を物差しで測れないとき,水の入ったビーカーに試料を入れ,重さの変化から体積を知る。
実験 直方体の試料
直方体の岩石のたて,横,高さを測り,体積を求める。重さをはかり,密度(比重)を求める。
実験 不定形の試料
不定形の試料の重さをはかる。水の入ったビーカーに試料が底につかないように入れる。
水の密度は1g/cm3なので増えた重さ(g)が体積(cm3)となる。
それから密度(比重)を求める。
5.偏光顕微鏡(へんこうけんびきょう)
岩石中の鉱物を肉眼やルーペなどでは観察に限界がある。
岩石を光が通るまで薄くして偏光顕微鏡で観察する。
偏光顕微鏡は,二枚の偏光板を使うこととステージが回転できる。
それにより鉱物の光学的性質がわかる。
6.岩石のモード組成
深成岩は鉱物の粒径が大きいので鉱物の種類を同定できる。
肉眼で難しければ岩石を薄くして顕微鏡でくわしく決めることができる。
花こう岩の中にはカリ長石が桃色のものがある。
これなら肉眼でも石英,斜長石,カリ長石,黒雲母(角閃石)がわかる。
モード測定の実験
縦横に等間隔の線をひいてその交差点の鉱物を同定し数える。
こうして岩石中の鉱物比がわかる。その結果から,国際基準の岩石名を定めることができる。
長石を区別できなければ色指数だけでも有効な情報となる。
それは黒い鉱物(鉄マグネシウムを含む鉱物)の構成比である。
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体験型 「大地をさぐる」
第3章 地質図
・地質図とは,ある地域の岩石の分布を地形図上に表現したもの。
・地質調査では,岩石の種類,地層の傾き,などを調べる。これらを地図や野帳に記す。
・同じ地質がどう分布するか,地層の走向傾斜と地形との関係を考えて地質図を作る。
1.地質図とは
岩石鉱物でとりあげた堆積岩の多くは面的にひろがった地層となっている。火成岩は,マグマとして地層中に入り込み(貫入して)できた岩石で,地層(堆積岩)の広がりを切る。
地質図は,このようなある地域の岩石の分布を地形図上に表現したものである。異なる岩石ごとに模様あるいは彩色して視覚に訴えるよう表す。
地質図で地質を表すのに,岩石の種類に加え,地質時代が必要である。以下が地質時代区分。
代,時代 |
紀(世) (先カンブリア時代は代) |
生物界 |
新生代 |
第四紀 (完新世/更新世) 新第三紀 (鮮新世/中新世) 古第三紀 (漸新世/始新世/暁新世) |
動物:哺乳類(ほにゅうるい) 植物:被子(ひし)植物時代 |
中生代 |
白亜紀 ジュラ紀 三畳紀 |
動物:は虫類 植物:裸子(らし)植物時代 |
古生代 |
ペルム紀/石炭紀/デボン紀/シルル紀/オルドビス紀/カンブリア紀 |
両生類/魚類/無脊椎動物 |
先カンブリア時代 |
原生代/始生代/冥王代 |
|
主な放射年代:古生代の始まり541,中生代の始まり252,新生代の始まり66(単位は百万年前)
2.地質調査法
調査の用具と服装 (整備された林道や遊歩道沿いで調査を行う場合)
用具 ハンマー,クリノメーター,ルーペ,地図,筆記具。
専用用具は高価,汎用品で代用してよい。例 トンカチ,方位磁石,虫眼鏡。
服装 野外活動ができる,少々汚れても良い服装や靴を用意。帽子や軍手があると安心。
ザックかかばん 両手が自由になるようザックあるいは肩掛けカバンが良い。
地質調査で観察すること
岩石の種類,地層の傾き,鉱化作用などを調べる。これらを地図や野帳に記す。
別の章「岩石・鉱物」を参考にして,岩石の種類がわかるようにしておく。
地層(層理面)の走向傾斜の測定
堆積岩の重なりにおいて,肉眼的に区別される単層の表面を地層面あるいは層理面という。
地層面の走向とはその面が水平面と交わる直線の方向。この面と水平面がなす角が傾斜。
走向は,クリノメーターを水平に保ち,その長辺が面に接するときの長辺の方向を読む。
3. 野外調査結果から地質図
同じ地質がどう分布するか,地層の走向傾斜と地形との関係を考えてむすんでいく。花こう岩は,マグマとして地層を切って入り込む。
地質図と地質断面図 地質の境界線をむすんで地質図とする。
全体の地質の関係がわかる方向に地形の断面図を作る。ここでは東西方向をとる。地表の地質の分布に合わせて地質境界線をひく。これが地質断面図である。
4.地層面の傾き,褶曲,断層,不整合
地層面(層理面)の種類と走向傾斜の記号
傾斜層 長い線を走向と平行に配置し,傾斜側に短い実線をつける。傾斜角は傾斜側に記す。上位方向確認を示す場合は黒丸をつける。
逆転層 傾斜と反対側にU字形の実線をつけ傾斜角を記す。
水平層 白丸と十字を組み合わせる。
直立層 走向を示す実線の中点に短い実線を直交させる。
上位方向確認の場合は,傾斜層の記号で傾斜角を90にする。
褶曲(しゅうきょく)と記号
地層が波状に屈曲した構造を褶曲という。
山のように曲がった部分を背斜,谷のように曲がった部分を向斜という。
背斜 褶曲の軸を実線で示し,その両側に直交し互いに反対を向く矢印をつける。
向斜 軸の両側に直交し,互いに向き合う矢印をつける。
断層の種類と記号 地層や岩体がある面を境にずれていることがある。断層である。
実在断層 断層が確認できる。地層境界線より太い実線(図の上)。
伏在断層 断層形成後の堆積物により隠れた断層を伏在断層という。
地層境界線より太い点線であらわす(図の2番目)。
推定断層 直接確認できないが,あると推定できる断層。地層境界線より太い破線(図の下)。
不整合 ある地層が堆積後,あるいは火成岩形成後隆起し地表にあらわれた後,(陸上で)風化・削剥作用を受け,その浸食面上に新期の地層が堆積したとき,両者の関係を不整合という。
アバット 不整合の一型式。新期の地層の層理面が,その不整合面と平行せず,著しい角度でこれと斜交している場合,新期の地層は基盤にアバットしているという。
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体験 「大地をさぐる」
第4章 水質調査
・pH(ピーエッチ,ペーハー) は,酸性かアルカリ性かをあらわす
・導電率 液体中での電気の流れやすさを示す
・pHと導電率で水質の汚染度合いをモニタリングする
1.pHとは
ピーエッチまたはペーハーと読む。酸性あるいはアルカリ性の程度をあらわす。
中性はpH7,これより低い方を酸性,高い方をアルカリ性と呼ぶ。
pH値のいろいろ
水:水道水6.5,井戸水7.0-8.0,海水8.0-8.5
飲物:スポーツドリンク3.0-4.0,日本茶4.5-6.0,牛乳6.7
食べ物:レモン2.5,ヨーグルト4.4,こんにゃく12.2
生活用品:石けん液7.0-10.0,灰(線こう)
pHの定義(原理)
水溶液の酸性とアルカリ性は水素イオンの濃度で決まる。
水溶液では,[H+][OH-]=10-14=一定,
純水や中性溶液では,[H+]=[OH-]=ルート10-14=10-7
pHの定義 pH=-log10[H+]である。中性の溶液では[H+]=10-7なのでpH=7となる。
補足:常用対数の復習。10=101はlog10101=1、100=102はlog10102=2、0.1=10-1はlog1010-1=-1
理論的なpHの定義
水素イオンがいくつもあるとそれぞれが衝突することがあり,動きに制限が出る。
水素イオン濃度に活量係数をかけた水素イオン活量(aH
)でpHを定義する。
水素イオン活量(aH+)=活量係数(f) × 水素イオン濃度([H+])
pH=-log10 aH+
実用上のpHの定義
活量に基づくpHの理論計算は不可能。
pHが一定の水溶液を基準に,これと比較して,pH測定を行う。
その測定方法を国際標準化機構ISOや日本工業規格(JIS)で定義している。
JIS規格 この規格のpHは,pH目盛の定義に基づく量。
水溶液XとSのそれぞれのpHをpH(X)とpH(S)であらわすと,pHの差は
pH(X)-pH(S)=(Ex-Es)/(2.3026RT/F)
Ex:X中での起電力, Es:S中での起電力, R:ガス定数, T:絶対温度,F:ファラデー定数
2.3026RT/Fの値の例 10℃で56.18, 20℃で58.17, 30℃で60.15
ある1種類の水溶液のpHを定めればほかの水溶液のpHが定まる。
pHの具体例
馬は草で走る(英国のことわざ)。優秀なサラブレッドを育てるには良質の牧草が必要。
英国土壌はpH6.5-7,日本の土壌はpH4.2-5.5で馬の骨格を丈夫にする牧草が育ちにくい。
日本の土壌はカルシウム,りん酸,マグネシウムの含有量が少ない。
苦土石灰や炭酸カルシウムを与えるなど,土壌の酸性を弱まる努力が続けられている。
アジサイの花
pH4.5-5の酸性土壌では青色が強く,酸性が弱くなるにつれ赤味を帯びる。
(リトマス試験紙と逆)
農業
植物には適したpHがある。その例を示す。
土壌pH |
野菜 |
果樹 |
牧草 |
〜5.0 |
|
ブルーベリー |
|
5.0〜6.0 |
ジャガイモ サツマイモ ニンニク |
カキ クリ |
ライムギ |
6.0〜6.5 |
ニンジン キャベツ キュウリ |
ミカン リンゴ キウイフルーツ |
クローバー ヒエ |
6.5〜7.0 |
トマト ホウレンソウ ゴボウ |
ブドウ イチジク |
アルファルファ |
2.導電率(電気伝導率 electric conductivity)
導電率とは
液体中での電気の流れやすさを示す。物質が溶け込むと電気が流れやすくなる。
導電率とは液体中にどのくらいの物質が溶け込んでいるか(イオン化しているか)を示す指標。
身の回りの例
雨水,河川水,湖水では本来溶解しているものが少ない水なので,導電率は非常に低い。
一方,海水は,非常に高い導電率。
導電率の低い水が汚染されると導電率が高くなる。
そこで導電率は,雨水,河川水,湖水に対する汚染の指標となる。
導電率測定の原理
導電率は溶液中での電気の流れやすさを示す指標。
溶液中のイオンの存在量とその動きやすさに依存する。基本はオームの法則となる。
オームの法則 電流(I,アンペアA)=電圧(E,ボルトV)/ 抵抗(R,オームΩ)
抵抗の逆数1/Rを考える。
それは電流の流れやすさの指標でコンダクタンス(K,ジーメンスS)となり,I=K×Eとなる。
つまり,電流(I,(A)=コンダクタンス(K,(S))×電圧(E,(V))である。
ジーメンスSは抵抗Ωの逆数。
導電率の定義と単位
あらためて抵抗の中身を考えると,抵抗R=r×長さ(L, cm)/断面積(S, cm2)である。
ここでr(抵抗率)の単位はΩ/cmとなる。L/Sをセル定数aと呼ぶと,単位はcm-1となる。
rの逆数の1/r=kが比導電率,一般にこのkが導電率である。
k=1/r=a/Rなので単位はS/cm。
S/cmの1000分の1がmS/cm,さらに1000分の1がμS/cmとなる。
SI単位系では,S/m,mS/m,μS/mを使う。1μS/cm=100μS/m=0.1mS/mとなる。
3.導電率測定事例
環境測定
導電率は,雨水,河川水,湖水に対する汚染の指標となる。
環境保全の面で酸性雨のpHはモニタリングに重要な指標だが,導電率も汚染の指標となる。
排水管理
下水処理場や工場の排出段階では,汚れの指標の導電率が24時間モニタリングされている。
塩分測定
食品中の塩分濃度測定では,導電率を求めて換算している。
純水
水道水や河川水は化学的に純粋な水(H2O)ではない。いろいろなものが溶け込んでいる。
種々の産業用途や医療用途には高純度の水が必要となる。
電解質を取り除き,純粋な水にしていくと導電率は低くなっていく。
電解質を全部取り除くと水の分子自体が,5億個に1個くらいだけイオン化する。
理論的に導電率は,25℃で0.0548µS/cmとなり,ゼロにはならない。
超純水は0.06µS/cm以下で電子部品製造工程での洗浄に使われる。
脱イオン処理で導電率1µS/cm程度以下に下げた水をイオン交換水または脱イオン水という。
普通純水と言えばこのレベルの水のことを指す。
4.カルシウムイオンとカルシウム総量
体験型ではホリバのLAQUAtwinを使う。遊離のカルシウムイオンが測定される。
牛乳や乳酸飲料のイオン化していない結合カルシウムまで求めるには,前処理が必要となる。
試料を酸性にすることによりタンパク質と結合したカルシウムをイオン化させて全量を求める。
牛乳の場合,所定の濃度の塩酸を所定量加え,試料を酸性(pH=4.3-4.6)にする。
水(蒸留水)を加えるとタンパク質が沈殿する。その上澄み液を採取して測定する。
このように前処理に塩酸や蒸留水が必要で,正確な定量も必要となるのでここでは行わない。
※体験実習では試料のイオン化したカルシウムを前処理せず定量している。
5. 参考 pH(水素イオン濃度)は変化する(AIKEN愛研HPより)
pHは試料採取後に変化することがある。そのため,試料採取後すぐにpH測定をすることがよい。
植物の呼吸や光合成で変化することもある。
5.1 pHが変化する理由 その1 二酸化炭素との反応
空気中の二酸化炭素
空気中には二酸化炭素が存在する。二酸化炭素は水に溶けると炭酸になり,この炭酸が水素イオンと炭酸水素イオンに解離する。
CO2 + H2O ⇄ H2CO3
H2CO3 ⇄ H+ + HCO3–
二酸化炭素が水に溶けると水素イオンが生じるためpHが下がる,つまり酸性に傾く。もし採水直後のpHがアルカリ性や中性だとしたら,二酸化炭素と反応して時間が経つにつれてpHが下がる可能性がある。そこで現地ですぐ測る、または3分間振って二酸化炭素を外に出しpHを測る。
このようにして測ったpHを泉・松山(2017)はRpHとしている。
5.2 pHが変化する理由 その2 植物プランクトンや藻類による呼吸や光合成
植物プランクトンや藻類は,夜間は呼吸を行い,日中は光合成を行う。呼吸とは,有機物を分解してエネルギーを取り出すための反応で,二酸化炭素と水が生じる。
有機物 + O2 → CO2 + H2O + エネルギー
一方,光合成とは光エネルギー(太陽光)を使って二酸化炭素と水から有機物と酸素を作り出す反応。いずれも生命活動を維持するために欠かせない。
CO2 + H2O + 光エネルギー → 有機物 + O2
呼吸を行うと二酸化炭素が生じ,水中の二酸化炭素が増えるためpHが下がる。また,光合成では二酸化炭素を用いるため,水中の二酸化炭素が減り,pHが上がる。
光合成でpHが上がる(水素イオンが減る)ことをイオンの形で見てみる。二酸化炭素は水に溶けて炭酸水の形となる。実際には多くは水和したCO2として存在する。
CO2 + H2O ⇄ H2CO3
炭酸水は、水中では炭酸水素イオンと水素イオンで存在する。
H2CO3 ⇄ HCO3-
+ H+ ⇄ CO32- + 2H+
光合成は植物が葉緑素と日光エネルギーのもとに、水中の二酸化炭素と水を使ってでんぷんと酸素に変える作用である。HCO3-は減少してH+も減少する。その分酸素が放出される。
H+イオンの減少でpHが上がる。粗く定性的に簡単化すると、酸素が加わることで水中の[H+]の一部は[OH-]となり、pHが大きくなる。
このことは、夏季に湖沼の停滞域での藻類の光合成現象として観察できる。田んぼでの稲の生長時にも同様なことが期待できる。
名古屋経済大学周辺の田んぼの事例(2023/6/26)を紹介する。
時刻 |
8:10 |
10:10 |
11:55 |
14:05 |
16:00 |
分(8:00=0) |
10 |
130 |
235 |
365 |
480 |
pH |
6.8 |
7 |
7.7 |
8.3 |
8.4 |
5.3 pHが変化する理由 その3 温度
pHは温度によっても変わる。
水は水素イオンと水酸化物イオンに電離している。
H2O ⇄ H+ + OH-
この式は条件によって左方向にも右方向にも進む平衡状態であることを意味する。
温度を上げれば下がる方向に,温度を下げれば上がる方向に反応が進む。水の電離は吸熱反応(熱を吸収して温度が下がる反応)であるため,水の温度が上がると右向きに進み,従って水素イオンが増えるためpHが下がる。
H2O ⇄ H+ + OH-
一方,左向きの反応は発熱反応(熱を発して温度が上がる反応)であるため,水の温度が下がると左向きに進む。従って水素イオンは減るためpHが上がる。ホリバのpH測定計は温度補償機能があるのであまり気にしなくてよい。
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体験 「大地をさぐる」
第5章 放射線
参考文献:福士正広(2011)「正しく覚えよう! 放射線の基礎知識」エステー株式会社,pp.30。
1.放射線とは
放射線の種類
アルファ(α)線:ヘリウムの原子核,紙1枚でさえぎられる
ベータ(β)線:電子,薄いアルミ板やプラスチック板でさえぎられる
ガンマ(γ)線:電磁波,物質を透過する力が強い。鉛や鉄でさえぎる。
放射線の単位
放射線を出す側の単位(Source side)
放射能(Radioactivity):
ベクレル(Bq) ,1秒間に原子核が壊変する数。
放射線を受ける側の単位(Receiver side) 放射線量 (Radiation dose)
吸収線量
(Absorbed dose):グレイ(Gy)
放射線があたってどれだけのエネルギーが吸収されるかを表す。
1Gyは,吸収されたエネルギーの単位で1ジュール(J)/kg。
実効線量(等価線量,Dose equivalent):シーベルト(Sv)
吸収線量だけではどれだけの影響(体へのダメージ)があったかわからない。
そこで受ける側がどれだけの影響があるかを表す単位。
β線とγ線は1,α線は20という荷重係数をかけて求める。
線量率(Dose
rate) 一定時間あたりの線量。Sv/h(シーベルト毎時)。1Svは大きい。
ミリシーベルト(mSv, 1/1000Sv)やマイクロシーベルト(μSv=1/1000000Sv)を使う。
参考:そのほかの単位
現在,放射線固有の単位記号としてGy(グレイ), Sv(シーベルト),
Bq(ベクレル)が与えられている。放射線の単位は歴史的に変遷があり,R(レントゲン), rad(ラド), rem(レム),
Ci(キュリー)が以前使われていた(産総研放射線標準研究グループ)。現在の単位との換算を以下に記す。
照射線量:C・kg-1(1R=2.58×10-4 C・kg-1),光子によって単位質量あたりの空気中に生成される正または負の電荷量
吸収線量:Gy = J・kg-1(1 rad = 0.01 Gy),放射線の照射によって物質の単位質量あたりに吸収されるエネルギー量
線量当量:Sv = J・kg-1(1 rem = 0.01 Sv),吸収線量に線質係数(生体への照射効果を示す因子)を乗じたもの
放射能:Bq = s-1(1 Ci = 3.7×1010
Bq),放射性同位元素が単位時間当たりに壊変する数
2. 自然界から受ける放射線
外部被ばく 体の外側から被ばくする
宇宙線などの自然放射線 0.39mSv/年,大地からの放射線 0.48mSv/年
内部被ばく 体の内部に放射性物質が入り,体内から被ばくする
食物から 0.29mSV/年,吸入により(主にラドン)1.26mSv/年
食物中のカリウム40の放射能量(Bq/kg) 干ししいたけ700,牛乳50,食パン30,米30
自然放射線から受ける線量の世界平均2.4mSv/年
内部被ばく量1.55mSv/年,外部被ばく量0.87mSv/年
日本における自然放射線平均1.5mSV/年
内部被ばく量0.8mSv/年,外部被ばく量0.7mSv/年
地質と放射線量 岩石の性質などは単位時間あたりの量μSv/hを使うのが便利。
花こう岩(Granite) 0.05-0.08 μSv/h,はんれい岩(Gabbro) 0.02-0.04 μSv/h
流紋岩(Rhyolite) 0.04-0.07 μSv/h,安山岩や玄武岩(Andesite, Basalt) 0.02-0.03 μSv/h
西日本:0.05-0.10
μSv/h 花崗岩や変成岩が多いことを反映
東日本:0.01-0.05
μSv/h 火山岩や凝灰岩が卓越することを反映
3. 放射線の人体への影響
日常生活での被ばく
ブラジル・ガラパリでの自然界からの放射線(年間) 10 mSv
全身CTスキャン(1回) 6.9 mSv
自然界から受ける放射線量(年間,世界平均) 2.4 mSv
自然界から受ける放射線量(年間,日本の全国平均) 1.5 mSv
胃のX線集団検診(1回) 0.6 mSv
東京-ニューヨークのフライト(往復) 0.2
mSv
胸のX線集団検診(1回) 0.05 mSv
医療関連
歯科撮影0.01mSv,胸のX線(検診,1回) 0.05mSv,
胃のX線検診(1回)0.6mSv,CT検査(1回) 6.9mSv,
放射線取扱い作業者の線量限度100mSv(5年),50mSv(1年)
造血系の機能低下,眼水晶体の白濁1000mSv
さらに高くなると不妊,一時脱毛がおきる
※がん治療では治療部位のみだがさらに高い線量の放射線をあてる
4. 放射線の測り方
放射線をある物質に当てると電離(放電)したり,光を放ったりする。
レントゲン写真はわかりやすい例で,放射線がフィルムに焼きつく。
放射線検出
ガイガー・ミュラー(GM)計数管(気体の電離)
半導体検出部(固体の電離)
シンチレーション検出器(蛍光反応)
フィルムバッジ(写真作用)
放射線測定器(大岩俊之監修HPより)
放射線測定器は,放射線を測る測定器。放射線は,アルファ線・ベータ線・ガンマ線。
問題になるのはガンマ線で,一般的な放射線測定器はそれを測る。
「放射線が原子の近くを通ったときに,電子がイオン化して飛び出してくる」という現象に注目。
飛び出してきた原子を測り,どのくらいの線量なのかが分かる。そのままではベータ線かガンマ
線かを区別できないので,「ガンマ線はさまざまなものを突き抜けるが,ベータ線は薄いアルミ板
で止まる」という性質を利用して,ベータ線をできるだけ排除する。アルファ線は問題とならない。
測定器の選び方
検出方式から選ぶ,用途に合ったタイプのものを選ぶ,精度の高いものを選ぶ
これらは原理を理解していないとなかなか理解できず,迷う。
初心者用機種
「家庭用放射測定器エアカウンターS」は”迷ったらコレ!超コンパクトスティックタイプ”
メーカー記述:長さ17cm,電池を含めて約60gとコンパクト&超軽量に携帯できるスティック型。
最長2分程度の最初の予測測定が完了した後は,10秒ごとに表示を自動更新するため,ほぼリアルタイムで放射線のチェックができる。検知した際のアラーム通知・シンプルで見やすい画面表示・手に取りやすいリーズナブルさとポイントが満載。
仕様 種類 空間線量計,検出方式 シリコン半導体,対応放射線 ガンマ線
幅 約直径22mm,高さ 約170mm,重量 約60g(電池含む)
空間線量の測り方
空間線量はその場所の外部被ばく量を知るために測定する。ベータ(β)線は測定しない。
地表から1mの位置で測定する。複数回測り,平均を記録する。
※簡易機器でも同じ機器,同じ条件で継続的に測定することで,信頼できるデータとなる。
多くの地点でデータを収集すれば統計的に有意義となる。
例題 測定された数値が0.05µSv/hだった。1年間の被ばく量に換算する。
(a)測定した場所に1年間とどまる場合
0.05 ×
24(h) × 365(days)=438µSv 約0.44mSv/y
(b)測定した場所に毎日屋外に8時間,その場所の木造家屋内に16時間いるとする。
木造家屋滞在の被ばく低減効果を60%(係数0.4)とした場合
0.05 ×
(8/24 × 1.0 + 16/24 × 0.4) x
24(h) × 365 (days)
=0.05 ×
0.6 × 24 × 365=262.8µSv 約0.26mSv/y
5. 参考 電磁波の仲間
ガンマ線とエックス線は電磁波の一種。ラジオの電波や光も電磁波の仲間でそれぞれ波長が違う。
周波数 Hz |
波長の種類 |
|
具体的例 |
1023 〜 1017 |
ガンマ線 エックス線 |
(原子核から出る) (原子や装置で発生) |
医療器具の照射 X線撮影,CTスキャン |
1016 1015 1014 1013 |
光 |
紫外線 可視光線 赤外線 遠赤外線 |
日焼け 蛍光灯,白熱灯 テレビのリモコン,こたつ サウナ |
1012〜1011 1010 109 108 107 106 |
電波 |
サブミリ〜ミリ波 センチ波 極超短波 超短波 短波 中波 |
レーダー UHFテレビ,電子レンジ FMラジオ,VHFテレビ 短波放送 AMラジオ |
6. 参考:放射線による被ばく(環境省HPより抜粋)
上記で記した内容と重複するが,環境省ホームページの被ばくについての解説はわかりやすい。転載する。
線量測定
作業する場所の放射線量を計測することで,その場に人がいたらどのくらい被ばくするかを推計することができる。体の外からのα(アルファ)線やβ(ベータ)線は体内にまでは届かないので,外部被ばくの線量測定としてはγ線を測定する。最近の計測機器は,1時間当たりのマイクロシーベルトで表示されるものが多いので,この測定値にその場にいた時間を乗じて,外部被ばくによる線量を概算する。
空間線量
空間線量率というのは,空間中のγ(ガンマ)線量を測定したもので,1時間当たりのマイクロシーベルトで表示されている。空気中に漂っている放射性物質からのγ線も検出しているし,大地に落ちた放射性物質からのγ線も検出している。また計測しているのは事故由来の放射線だけではない。自然放射線としては,主に大地からの放射線が挙げられる。
通常,測定器は地上1mくらいの高さに置かれることが多い。これは大人の場合,この高さに重要な臓器があるから。
建物の遮へい
屋外で受ける放射線量は,近くで計測された実測値を使う。屋内での線量率を求める場合は,近くの屋外線量率の値に低減係数を乗じて,屋内の空間線量率を推定する。
低減係数は,建物による遮へいや床下に汚染がないことなどを考慮したもので,建物の種類や放射性物質が浮遊しているか,沈着しているかによって値が異なる。例えば,放射性物質が土壌や建物に沈着している場合,木造家屋は外からの放射線を約4割に低減する。ブロックやレンガの家屋,鉄筋コンクリート家屋では,より遮へい効果が高まり,木造家屋に比べ放射線量は低くなる。また放射性物質が主に土壌表面上にある場合は,高層階になるに従い,土壌からの距離が離れるので,放射線量も少なくなる。
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体験 「大地をさぐる」
第6章 太陽黒点の観測
・太陽は地球に一番近い恒星であり,われわれは常にその影響を受けている。
・望遠鏡で太陽像を投影してみると,太陽の白い円盤像には黒いしみ(黒点)がある。
・黒点を観測すると太陽の自転や太陽の活動のようすがわかる。
1.太陽とは
太陽は地球に一番近い恒星であり,今から50億年前に太陽系の惑星とともに誕生した。太陽系の中心に位置し,膨大なエネルギーを放出していて,われわれは常にその影響を受けている。
望遠鏡で太陽像を投影してみると,白い円盤に映る。円盤像には黒いしみがある。黒点という。この黒点の活動のようすを何回か観測する。
2.太陽黒点とは
黒点の温度は4000K,周囲の光球(5800K)より温度が低いので暗く見える。黒点には,地球磁場の1万倍の強さの磁場がある。磁力線の作用により,内部からの高温ガスが黒点に運ばれにくく,そのためにまわりの光球よりも温度が低い。
K:絶対温度の単位,ケルビンと読む。
3.太陽黒点観測法
絶対に太陽を直接見てはならない。失明する。
望遠鏡を太陽に向け,それを平らな面に投影する。日よけを望遠鏡に付けるが,望遠鏡の先の影がなくなるよう調整すると太陽に向くことになる。太陽が円になって面にうつる。明るい光球に黒いしみがある。黒点である。
投影面にあらかじめ定めた大きさの円を書いておき,そこに太陽が入るよう調整する。黒点の位置を鉛筆で印をつける。投影面を固定しておく(動かさない)。すると太陽が動いていくのでその方向を鉛筆で印をつける。
黒点はいくつかの群れになっている。群れの数,群れの中の個々の黒点の数を数える。群れの数を10倍し,それに個々の黒点の数を加える。これを黒点の相対数という。
日付と時刻を記して,観測終了。
これを何回か行ってみる。寿命が長い黒点があると太陽が自転していることがわかる。
4.観測から何がわかるか
4.1太陽の自転
太陽面上の黒点が東から西へ移動している。太陽も自転していることがわかる。自転速度はhttps://swc.nict.go.jp/赤道で一番速く,緯度が高くなるほど遅くなる。赤道で25日,緯度75°では35日で一周する。体験授業の際,何回か観測して実際に自転を確認してみる。
4.2太陽の周期活動
黒点は,周期的に変動する。黒点の数が極大になる時期を太陽活動極大期,極小になる時期を太陽活動極小期という。極小から次の極小までの期間は太陽活動のT周期で,平均約11年である。
参考サイト 黒点の観測と11年周期(動画)
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005301551_00000#in=0&out=64
長期的な太陽活動(ウィキペディア)
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/28/Sunspot_Numbers.png
太陽黒点の増減が気候変動と関係あると考えられている。
資料
諸 量 |
太陽の値 |
地球の値 |
太陽÷地球 |
赤道半径 |
6.96x105km |
6.38x103km |
109倍 |
質 量 |
1.99x1030kg |
5.97x1024kg |
33.3万倍 |
平均密度 |
1.41g/cm3 |
5.52g/cm3 |
0.255倍 |
数研の高校地学(数研出版)2014年版より
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体験型 「大地をさぐる」
第7章 地質(ジオ)で地域振興−ジオパークなど
・ジオパークとは、地球(ジオ)を知り楽しむことができる場所。大地の公園。
・ジオ鉄とは、鉄道を利用しながら沿線の自然を楽しみながら,地球の成り立ちを知る活動。
・ヘリテージストーンとは、自然の岩石を人類の文化として意識させる石材。
1.ジオパーク 地球(ジオ)を知り楽しむことができる場所。
地球科学的意義のあるサイトや景観を,保全・教育・持続可能な開発の観点で管理した地域。
日本ジオパークは43ヶ所。そのうち、次の9ヶ所はユネスコ世界ジオパークにも認定
洞爺湖有珠山,アポイ岳,糸魚川,隠岐,山陰海岸,室戸,伊豆半島,島原半島,阿蘇
事例:アポイ岳ジオパーク (場所 北海道日高南部のまち「様似町」)
A.世界でも類を見ない新鮮で多彩な“かんらん岩”から成る山々や渓谷がある。
B.特殊な土壌条件などによって育まれた固有の“高山植物群落”がある。
C.海岸の特殊な地形が天然の良港となり“古くから交易の拠点”としての歴史と文化がある。
メインテーマ:地球深部からの贈りもの(かんらん岩)がつなぐ大地と自然と人々の物語
サブテーマA:かんらん岩から大地の変動を知る
1300万年前,大陸プレートの衝突で地殻の下のマントルの一部が突き上げられ,かんらん岩が現れた(アポイ岳)。かんらん岩とは超苦鉄質岩の一つ。マグネシウム(苦土)や鉄が多い岩石で,かんらん石や輝石からなる。地下深くのマントル物質と考えられる。
サブテーマB:アポイ岳の高山植物から自然環境を知る
アポイ岳の特殊な土壌・気象・地理的環境からヒダカソウなどここにしかない固有植物が生育する。かんらん岩特有の超苦鉄質という化学組成が重要な要素である。
サブテーマC:歴史から自然と人間社会の共生を知る
奇岩類にまつわる先住民族アイヌの多くの言い伝えが残る。地形から天然の良港として江戸時代から北前船流通の要衝として発展してきた。
ジオツーリズム:アポイ岳に登る
アポイ岳は日高山脈の南端付近に位置し,約1,300万年前のプレート同士の衝突によって日高山脈が形成された際に,地下数10kmにあった上部マントルが上昇露出したとされる「幌満かんらん岩体」からなる山。この特異な地質条件と過酷な気象条件などが重なり,標高810mと低標高ながら,アポイ岳のみに生育するヒダカソウやエゾコウゾリナの固有植物など,多彩な高山植物が生育している。
2. ジオ鉄 (ジオ鉄Ⓡ 商標登録第5378786号)
ジオ鉄とは
鉄道を利用しながら沿線に広がる自然を楽しむ旅を通して,地球の成り立ちと大地の変化に想いを馳せる活動。
・沿線の見どころ「ジオポイント」を発掘する。
地質や地形に関わりの深い鉄道施設。たとえば森林鉄道や鉱山鉄道,廃線跡もターゲット,
安全・快適な列車運行のための土木や防災技術。
・沿線の魅力的な地質・地形を発掘し,それらと関わる鉄道や文化の物語を読み解く。
・鉄道を通したジオツアーの楽しみ方を提案する。
ジオ鉄でとりあげられた鉄道
@JR 四国土讃線、A土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線、
BJR 四国予土線、CJR 大糸線、DJR 北海道富良野線、
E土佐くろしお鉄道中村・宿毛線、F三陸鉄道南リアス線、
G三陸鉄道北リアス線、H黒部峡谷鉄道
3. グローバルヘリテージストーン資源 (Global Heritage Stone Resource, 略してGHSR)
・自然の岩石を人類の文化の中で意識する。
・英国・欧州が盛ん,それは石の文化があるから。
建造物修復に石材の供給が必要。代替するにはどこが良いかを提案する。
・計画的管理で持続的採石活動を行い,地域産業を絶えないようにしたい。
GHSR認定基準
・50年以上にわたり稼行実績がある。
・広域に利用されている(国外にも利用されているとなお良い)。
・公共的あるいは産業界で重要なプロジェクトで利用された。
・現在も採掘している,あるいは(休業していても)採掘ができる。
事例 ウェールズ粘板岩
・カンブリア紀の粘板岩。三葉虫を産出。
・古くはローマ時代建造物に利用。
・13世紀ころから本格的に利用。19世紀と20世紀には、世界中に輸出が拡大。
・バッキンガム宮殿、英国図書館などの屋根材に利用。ボストン空港の床材にも利用。
・日本のゴルフ場から1985年頃に注文があった。
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