岩石と鉱物つづき

 

岩石や鉱物の違い、岩石の分類、偏光顕微鏡による観察方法についてすでに解説しました。ここでは少し深めてみます。

1.岩石の定量的な扱いを紹介します。

2.偏光顕微鏡の見え方については、結晶光学の知識を加えてみます。

3.鉱物の性質から、岩石がどんな条件できたかを探る事例を紹介します。

 

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1岩石の定量的分類

1.1モード組成

岩石を顕微鏡で観察できるよう、プレパラートにはりつけ薄くしたものを薄片という。

岩石を構成する鉱物の量の割合は、岩石の薄片のなかにおける鉱物の量の割合を測定すればよい。粗粒の岩石であれば岩石を板状に切った岩石片(スラブ)上で、顕微鏡を使わず鉱物の割合を測定する。

 

ポイントカウンター:薄片を等間隔に移動して視野の中央の鉱物を同定して数える

http://www.nichika-kyoto.com/product/kougaku/prod_4.html

 

染色

花こう岩は粗粒なのでスラブを利用することがある。花こう岩は主に石英と長石からなる。

石英は透明ガラス様で長石と区別が容易である。

長石は斜長石とカリ長石からなる。カリ長石がピンクないし赤みを帯びていれば区別がつく。そのような色を呈さないカリ長石と斜長石は肉眼では区別がつきにくい。

そのような時、薬品で反応させて染色をすることがある。

 

染色方法:

目的の面をフッ化水素酸(フッ酸)に3分間浸す

水道水で十分水洗する

コバルチ亜硝酸ナトリウムの粉末を塗り3分放置

水洗、乾燥させる

カリ長石が黄色に染色される

 

花こう岩のカリ長石を染色した例(信州大学)

http://science.shinshu-u.ac.jp/~geol/harayama/laboratory.html

 

モード組成の実際

体験型授業ではアルカリ長石が赤色になっているスラブを用いた。

その画像に計測線を等間隔に10本くらい縦横にひいてその交差点の鉱物を同定する

石英、斜長石、アルカリ長石、黒雲母の割合が決まる。石英、斜長石、アルカリ長石の割合を計100%に再計算して国際的な分類図に記すと正確な岩石名となる。

 

花こう岩類の分類(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/40/QAPF_diagram_granite.svg

Q:石英、K:アルカリ長石、P:斜長石、F:準長石

 

1.2ノルム組成

鉱物が細粒であったりすると鉱物比であらわすのが困難となる。岩石を粉にして化学分析を行い、それから鉱物比を求めることがある。火成岩についてはその手法がほぼ完成している。

ノルムの計算とよび得られる鉱物をノルム鉱物という。ノルム鉱物の中には計算の便宜上、仮想的鉱物もある。マグマから鉱物が晶出する順にノルム鉱物を順に求め、さしひいた化学組成の成分の量からそのほかのノルム鉱物をさらに求めていく。

場合分けで計算の経路が変化するため、手計算では手間がかかる。数が多いときは、エクセルで計算法にしたがい、条件文などを使い計算をできるようにしておく。

 

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例題

                               重量%/分子量 イルメナイト 正長石  アルバイト アノーサイト コランダム 磁鉄鉱 ハイパーシーン 石英

成分

重量%

分子量

分子比

il

or

ab

an

C

mt

hy

Q

SiO2

71.0

60.06

1.182

 

264

336

92

 

 

29

461

TiO2

0.2

79.90

0.002

2

 

 

 

 

 

 

 

Al2O3

15.9

101.94

0.156

 

44

56

46

10

 

 

 

Fe2O3

0.6

159.68

0.003

 

 

 

 

 

3

 

 

FeO

1.3

71.84

0.018

2

 

 

 

 

3

13

 

MnO

0.1

70.93

0.001

 

 

 

 

 

 

1

 

MgO

0.6

40.32

0.015

 

 

 

 

 

 

15

 

CaO

2.6

56.08

0.046

 

 

 

46

 

 

 

 

Na2O

3.5

61.99

0.056

 

 

56

 

 

 

 

 

K2O

4.1

94.2

0.044

 

44

 

 

 

 

 

 

99.9

 

分子比

0.002

0.044

0.056

0.046

0.010

0.003

en0.015

fs0.014

0.461

ノルム鉱物重量% (= 分子比 x 分子量)  il 0.3   or 24.5  ab 29.4  an 12.8    C 1.0   mt 0.7   hy 3.3  Q 27.7

(en 1.5 fs 1.8)

 

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ノルムの計算

T.分子比の計算

化学分析結果は酸化物(SiO2, Al2O3、‥)の重量パーセントで与えられている。それぞれの値を酸化物の分子量で割って、分子比を求める。

MnOは少量成分なのでその分子比をFeOの分子比に加える。

 

U.副成分鉱物の計算

比較的少量出てくる鉱物の量を計算しておく。

TiO2の分子比の値にはそれと同じFeOを付け加え、イルメナイト(記号 il)FeOTiO2を作る。FeOは残る。

 

V.主成分鉱物の計算

(a)正長石(記号 or)K2OAl2O36SiO2を計算する。計算後、K2Oが残るときとAl2O3が残るときがある。普通はAl2O3が残る。

(b)残ったAl2O3Na2Oと結合してアルバイト(記号 ab)Na2OAl2O36SiO2をつくる。Na2Oが残るときとAl2O3が残るときがある。Al2O3が残る場合で続ける。

(c)残っているAl2O3CaOを結合してアノーサイト(記号 an)をつくる。計算後、CaOが残るときとAl2O3が残るときがある。Al2O3が残ったらコランダム(記号 C)を計算する。CaOが残るときは一旦放置する。

(d)Fe2O3は、(b)Na2Oが残っていたら錘輝石(記号 ac)Na2OFe2O34SiO2をつくる。残ったFe2O3は、FeOと結合して磁鉄鉱(記号 mt)をつくる。(b)Na2Oが残っていなければただちに磁鉄鉱をつくる。磁鉄鉱をつくった後にFe2O3が残れば赤鉄鉱(記号 hm)にする。多くはFeOが残る。

(e)ここまでで(c)CaOが残っている場合、MgOと残っているFeOをこの時点の比と同じ割合にしてディオプサイド(記号 di)CaO(Mg,Fe)O2SiO2を計算する。このとき、CaO:(MgO+FeO)=1である。

(f)ディオプサイド計算後にCaOが残っていたらSiO2と結合してウラストナイト(記号 wo)CaOSiO2をつくる。普通は(Mg,Fe)Oが残っている。これにSiO2を結合させて、ハイパーシーン(記号 hy)(Mg,Fe)OSiO2やかんらん石(記号 ol)2(Mg,Fe)OSiO2をつくる。ハイパーシーンとかんらん石とのどちらになるか、あるいは両方になるかは次のSiO2の量により決まる。ディオプサイド、ハイパーシーン、かんらん石ではこの時までに残っているMgOFeOとの比と同じ割合になるよう計算する。

 

W.SiO2の分配

(a)ここまで計算してきた副成分鉱物および主成分鉱物のすべてに、必要なSiO2を分配する。主成分鉱物の計算の(f)で、まず(Mg,Fe)OはハイパーシーンとなるようにそれだけのSiO2があればかんらん石をつくるには至らない。まだSiO2が残るときには、残ったSiO2は石英(記号 Q)SiO2とする。花こう岩など実際に石英を含む岩石はここまでである。

(b)ハイパーシーンだけを計算するにはSiO2が不足する場合、主成分鉱物の計算の(f)の計算をやり直して、ハイパーシーンとかんらん石をつくる。ハイパーシーン(Mg,Fe)OSiO2の分子比をhy、かんらん石2(Mg,Fe)OSiO2の分子比をolとする。ハイパーシーンやかんらん石の計算直前に残っているSiO2(Mg,Fe)Oが使える。

hy=2x使えるSiO2-使える(Mg,Fe)O

ol=使える(Mg,Fe)O-使えるSiO2

玄武岩などの苦鉄質岩まで含む、日本の多くの火成岩はここまでの計算で求めることができる。

 

さらにSiO2が不足する場合は、主成分鉱物の計算の(b)の段階までもどってアルバイトの一部あるいは全部やめてネフェリン(記号 ne)Na2OAl2O32SiO2を計算する。さらにまだSiO2が足りないとリューサイト(記号 lc)K2OAl2O34SiO2などを計算する。

 

X.重量パーセントの計算

このようにして求められたノルム鉱物の量は分子比である。それを普通は重量パーセントに換算する。それには、鉱物の分子比の値にそれぞれの鉱物の分子量をかければよい。ディオプサイド、ハイパーシーン、かんらん石は、Ca,Mg,Feのけい酸塩の成分がいくら含まれているかを表示した方がよい。

 

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2.偏光顕微鏡の理論

岩石鉱物Tで偏光顕微鏡の概略と鉱物の見え方を紹介した。ここでやや詳しくかつ系統的に説明する。

 

2.1結晶光学の基礎

複屈折

1669年バルトリヌス(デンマーク)は、1本の光線を方解石の結晶に入れると、屈折光線が二つに分かれることを発見。これが複屈折。一部(等軸晶系)の結晶をのぞき、ほかの結晶で呈する現象である。

 

偏光

光は進行する方向に垂直な平面内で振動する。通常はあらゆる方向に行われている。ところが、振動方向が限られている光があり、偏光という。

 

屈折率

媒質Aからもう一つの媒質Bへ光が入ると、光の振動方向が変化する。これを屈折という。投射角をθA、屈折角をθBとすれば、スネルの法則が成り立つ。

sinθA / sinθB = n

nを媒質Aに対するBの屈折率という。

ある物質の屈折率というときは、その物質の真空(空気中)に対する屈折率の意味である。

 

多色性

結晶は透過した光で何らかの色を呈することがある。偏光の振動方向によって違った色を呈することがある。それを多色性という。

 

 

2.2偏光顕微鏡概略

(a)歴史

16世紀末にオランダで発明。

17世紀に生物学で使われ、微細構造の観念を一変させた。

19世紀前半、本格的光学ガラスが用いられる。

19世紀、偏光が理解され、偏光をつくるニコルのプリズムが発明される。

1873年、ツィルケル「鉱物と岩石の顕微鏡学的性質」

  顕微鏡岩石学の成立をつげる労作

 

(b)偏光顕微鏡の構成

偏光顕微鏡は通常の顕微鏡に偏光板をとりつけたものである。

二つの偏光板を重ねて一方を回転すると90度ごとに暗黒になる。偏光板は光の振動方向を一方向にする性質があるので,偏光板二つの光の振動方向が直交すると光を通さなくなる。

 

偏光顕微鏡ではプレパラートの下と上にこの光の振動方向が直交するように偏光板を配し,上の偏光板は出し入れできるようにしてある。

 

上の偏光板を外した状態での観察を下方ポーラー(あるいは平行ポーラー)での観察,上の偏光板を入れた状態の観察を直交ポーラーでの観察をいう。

 

この観察を有効にするため,プレパラートを置くステージが回転できるようになっている。

 

このように普通の顕微鏡にない偏光顕微鏡の特徴は,偏光板を有することとステージが回転することである。

 

 

偏光顕微鏡の例(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/95/Leica_petrographic_microscope.jpg

 

2.3偏光顕微鏡での鉱物の見え方

デジタル顕微鏡を使って観察する。

http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/KYO/CHISITSU/dezital_henkoh/index.html

(岐阜聖徳学園大学理科教材より)

 

(a)下方ポーラー

屈折率

石英は平滑に見えるが、ざくろ石はザラザラして見える。

プレパラートのバルサムの屈折率に石英は近いが、ざくろ石は高いためである。つまりざくろ石の屈折率は石英のそれより高い。

(実習)顕微鏡をopenで観察

石英とザクロ石の見え方を比較する

 

多色性

鉱物の中には、方向によって色が変わるものがある。

(実習)顕微鏡をopenにしてステージを回転して色の変化を観察

黒雲母、角閃石、斜方輝石(色の変化は黒雲母や角閃石に比べ弱い)

 

(b)直交ポーラー

消光

ざくろ石は光学的等方体である。これを直交ポーラーで観察するとステージを回転しても常に暗黒である。

等方体以外の光学的異方体では、たいていは明るく見える。ステージを回転すると明るさが変化して1回転の間に4回全く暗黒になる。これを消光といい、その位置を消光位という。

(実習)顕微鏡をcrossで観察

ざくろ石 ステージを回転していつも暗黒であることを確かめる

石英   ステージを1回転して4回暗黒になることを確かめる

 

レターデーション

鉱物の屈折率の高い方をn2、低い方をn1とする。薄片の厚さdと薄片に垂直な方向の二つの屈折率の差 n2 - n1 との積、

R=d(n2-n1)

をレターデーションという。

屈折率の差が大きくなるとレターデーションが高くなる。通常の鉱物ではレターデーションが低いと灰色であるが、高いと鮮やかな黄、赤、青、緑となる。

石英はn2-n10.009、かんらん石は0.035-0.52

(実習)顕微鏡をcrossでレターデーションを観察

石英

かんらん石 

 

消光角

結晶は柱状であったり板状であったりする。柱の方向か板の底面の方向に平行なへき開があって、薄片ではその切断線が認められることがある。この直線の方向と消光の方向の角度を消光角という。

消光角は鉱物の同定や鉱物の組成の決定に役立つ。

消光角の測り方

Openにして、ステージを回転して鉱物の直線の方向を顕微鏡の十字線の方向(普通は縦方向)に合わせる。

Crossにして、暗黒になる(消光する)までステージを回転する。その角度が消光角である。45度より大きい場合と小さい場合があるが、小さい方の値をとる。消光角が0度の場合、直消光、そうでない場合、斜消光という。

(実習)次の鉱物のうち、どれが直消光でどれが斜消光か。

角閃石

単斜輝石

黒雲母

 

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3.鉱物の性質から岩石の成因をさぐる

鉱物はある温度圧力のもとでできる。そこで鉱物の産出からそれを含む岩石の形成条件を知ることができる。

 

3.1鉱物組合せから形成条件を知る

津西部の変成岩の例

泥岩起源の変成岩で、珪線石と紅柱石、白雲母のあるなしから変成作用の圧力や温度を語ることができる。

すなわち、現在見えている岩石が地下どのくらいにあってどの程度の温度だったかを知る。

津西部地域では、変成岩の鉱物組合せからABCの地域に分けられる。巨視的には南よりCBAとなる。

BCの地域では珪線石が産出

ABの境で珪線石と紅柱石共存

Aでは紅柱石が産出

ABでは白雲母が産出

Cの地域で白雲母は消失

 

変成作用で起きた反応

Al2SiO5の鉱物は、温度や圧力に違いで、藍晶石、珪線石、紅柱石となる

http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/zougankoubutu/Al2SiO5.html

 

白雲母が消失する反応は次の通り。

 白雲母+石英=カリ長石+珪線石+水

 KAl3Si3O10(OH)2 + SiO2=KAlSi3O8 + Al2SiO5 + H2O

 この反応曲線はAl2SiO5の鉱物の珪線石と紅柱石の境界線を横切る。

 

実験でわかっている温度や圧力の違いによる鉱物の安定性から、津西部(変成岩のA,B,C)地域の温度圧力は4-4.5kb, 600-700℃となる。

 

このような解析が各地の変成岩で行われている。それらを総合して、変成帯の温度圧力型が求まる。

日本の地質区分で白亜紀の二つの変成帯、領家変成帯と三波川変成帯は温度圧力型が異なるものである。

領家変成帯(りょうけへんせいたい)(桃色) 1億年前(白亜紀)の高温低圧変成帯(もとはジュラ紀の付加体)

三波川変成帯(さんばがわへんせいたい)(紫色)1億年前(白亜紀)の低温高圧変成帯(もとはジュラ紀の付加体)

☆日本の地質帯(nue_3_swjapan)

 

3.2斜長石の双晶

鉱物の結晶学性質に双晶というものがある。

それは、特定の結晶面あるいは結晶軸に関して互いに対称的であるように2個の結晶が結合したもの。

2個体がある軸のまわりに180°回転して双晶ができるとき、この軸を双晶軸という。

2個体が一つの面で接合しているとき、その面を接合面という。

 

双晶の概念をマッチ箱で示す。

http://y95480.g1.xrea.com/twin.htm

 

ここの例のように斜長石双晶は、アルバイト双晶、カールスバッド双晶、アルバイト‐カールスバッド双晶、ペリクリン双晶、バベノ双晶などに分けられ、それらは偏光顕微鏡で容易に同定できる。

マグマ起源の岩石ではカールスバッド双晶やアルバイト-カールスバッド双晶を産するが、変成岩ではまれである。アルバイト双晶やペリクリン双晶は両者に含まれるが、ペリクリン双晶単独の産出は変成岩に限られる。

 

事例 

津西部の変成岩の斜長石双晶でペリクリン双晶の産出頻度をみると、変成度が高いC地域とB地域の多くで10%前後から30%前後であるが、B地域の一部とAの地域では、50%を超える。地域では北側の花こう岩に近づくとペリクリン双晶が多くなる。花こう岩の貫入によるせん断応力を受けてペリクリン双晶の頻度が高くなると解釈した。

 

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