地球を測る その2 地形図 Topographic maps  2024831version

1 地形図入門

1.1 緯度と経度

1.2 三角測量と三角点

2 国土の基本図

2.1伊能忠敬「大日本沿海輿地全図」

2.2地形図作成の歴史

3 測量技術の進展

4 測量の応用

2000年有珠山(うすざん)の噴火

5 実習:地形図を読む 

6 実習:測量の基本

6.1三角関数の復習  

6.2測量の原理

7実習:航空写真の利用(実体視)

補足:経度の歴史

付録:あおぞら文庫や動画の紹介

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地形図の等高線で山や谷の形を知り,緯度と経度で場所を知る

人工衛星や天体の利用で測量技術が精密化している

測量で大地の変化を知ることができる

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自習の効率をあげるため,本文中の問いをまとめて記す。

1 地形図の等高線が込み合っているところは地形的にどんなところか。予想される地質災害は何か。

(回答例は1まとめの下) 

2 犬山市役所は北緯35.4度,東経136.9度,札幌市は北緯43.1度,東経141.3度である。ある日の太陽の南中(真南に来ること)について,南中時刻はどのくらい違うか?

(回答例は1まとめの下に記す)

3 ある木の最上部までの角度が30度,その木の根元まで20mだった。この木の高さを求めよ。ただし,角度を求めたとき()の目の高さは1.5mである。

(回答例は2まとめの下) 

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1 地形図入門

1.1 地形図の基本情報:等高線,緯度,経度

等高線

等高線は同じ高さを線でむすんだもの。山になっている,谷になっているなどを読みとることができる。下の図は,立体的な画像に等高線を重ねたもの。

地形と等高線の関係(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Topographic-Relief-perspective-sample.jpg

等高線の幅が狭いところは急,等高線の幅が広いところはゆるやかなことがわかる。

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1

地形図の等高線が込み合っているところは地形的にどんなところか。予想される地質災害は何か。

(回答例は1まとめの下)

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緯度と経度

緯度:赤道を基準として南北へそれぞれ南緯,北緯として90度までを表す。

経度:英国のグリニッジ天文台跡付近を通る子午線(しごせん;赤道に直交する地球上の南北の線)を基準に東西へそれぞれ東経,西経として,180度までを表す。

 

緯度経度(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8c/Latitude_and_longitude_graticule_on_an_ellipsoid.svg

現在は,人工衛星からの電波を利用して容易に緯度と経度を知ることができる。ところがほんの数十年前まで,一つの点の緯度経度を求めるには天体の観測を基礎にして,さまざまな補正を行うなどして時間がかかった。

緯度は,北極星と地平線との角度で求められる。緯度の違いは,同じ日の太陽の南中角度の差となる。(南中: 太陽が真南にくること)

経度は地球一周で360度,地球が1回転(1日)24時間,そこで1時間は360÷2415度となる。日本の標準時子午線は東経135度としているので世界標準時(グリニッジ天文台での時刻)135÷159時間の差がある。日本国内でも時差があるが,東経135度の時刻で統一している。そこで東ほど日の出の時刻が早くなる。

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2

犬山市役所は北緯35.4度,東経136.9度,札幌市は北緯43.1度,東経141.3度である。

ある日の太陽の南中(真南に来ること)について,南中時刻はどのくらい違うか?

(回答例を1まとめの下に記す)

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1.2三角測量と三角点 

平坦な場所にある2点間の距離を正確に測る。もう1点を加えて三角形を作り,三角形の内角を測る。計算で求めもう1点の位置を決める。さらに点を増やして三角形の網を作り,各点の位置を求めていく。

 

国土地理院の説明,図参照

https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sankaku-survey.html

 

三角点

三角測量を行う際,経度・緯度・標高の基準になる点。次の写真参照(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/25/1_tou_sankakuen.jpg

・三角測量とは,地上で実際に測った一本の線を基礎に次々に三角形の内角を測定することで三角点の位置を決定していく。

・三角点は,地図作成,各種測量,地震後の変動見積もりなどで利用される。

最近の三角点測量

・人工衛星を使って位置を決めることができる。GNSS (Global Navigation Satellite Systems) 測量という。

・現在,三角点の測量ではこの方法を用いることが多い。ほかの基準が見えなくても位置を決められる。

 

三角測量から三辺測量へ

・三角形の形と大きさを決定するには,三角形の三辺の長さを測定してもよい。長さの測量は従来多くの労力がかかったが,最近は光波を使って容易に測定できるようになった。

・原理は二点間を光が往復する時間を測定してそれに光速度をかけその半分を算出する。光波測距儀が発した光を反射鏡で反射してくるのをとらえる。

・光速度は30万キロ/秒で1pの精度で距離を求めるには時間差を3×10-11秒まで測定しなくてはならない。現在はまだ困難なので光を変調して波にしてその数で求めている。

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1のまとめ

地形図には土地の基礎情報が盛られ,自然のようす(山の形など)を等高線から読みとれる。公共の施設は記号でしめされている。地形図は災害予測や開発の基礎として利用される。

 

1 回答例

急な傾斜。落石に注意する。

 

2の回答例

経度の差は141.3-136.9=4.4度。15度が1時間だから4.4÷15=0.29時間,つまり17.6分違う。ちなみに南中時の太陽の角度は,緯度の差の43.1-35.4=7.7度違う。

 

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2 国土の基本図 地形図

国の基本を知るために正確な地図が必要となる。江戸時代に伊能忠敬とその弟子が日本全土の地図を完成した。明治になり,日本の近代化の中で地図(地形図)が整備されている。戦前の参謀本部陸地測量部(りくちそくりょうぶ)から現在の国土地理院(こくどちりん)まで歴史がある。

 

2.1伊能忠敬「大日本沿海輿地全図」

江戸時代に伊能忠敬(いのうただたか 1745-1818)が,1800年から1816年まで,17年かけて日本全国を測量して「大日本沿海輿地全図(だいにほんえんかいよちぜんず)」を完成させた。

測量の様子が付録の動画で知ることができる。

伊能忠敬の地図の一部 (渥美半島) (ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/70/Ino_Tadataka_map_%28daizu%2C%2C_Atsumi-hanto%29.jpg

 

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2.2地形図作成の歴史

明治になると国の根幹をなす事業として地形図作成が着手された。

戦前は参謀本部が地形図を管轄(かんかつ)する。現在に至るまでの歴史は次の通り。

1869: 民部官戸籍地図掛,その後,民部省,工部省,兵部省,内務省等々に所属

1874: 内務省地理寮,

1875: 大三角測量事業(一等三角測量)を開始

1888: 参謀本部陸地測量部

1892: 日本経度緯度原点を設置(東京麻布)

 

桜田門から望む陸地測量部(明治末期撮影,ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7e/IJA_General_Staff_HQ.jpg

日本経緯度原点(港区立郷土歴史館)

https://www.minato-rekishi.com/museum/2009/10/88.html

 

1915: 一等三角測量完了

1924: 全国5万分の1地形図完了

1945: 内務省地理調査所

1948: 建設省地理調査所

1950: 25千分の1地形図作成開始

1960: 建設省国土地理院,土地利用調査,天文・地磁気・重力観測など多岐

1983: 25千分の1地形図全国整備完了

2001: 国土交通省国土地理院,以後急速に地図情報の電子化が進む

 

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3 測地技術の変遷

この節のかなりの部分は,箱岩(2003)を参考にした。

測量技術の変遷(箱岩英一,2003,測量技術の変遷.電学誌,123813-816)

 

(a)   忠敬の緯度観測と子午線弧長の観測

1800年 に伊能忠敬が 「日本図(日本全体が表された図)」作りに着手。

磁針儀による角度(方位)測定と,縄や歩測による距離測定に,星を使って緯度を測 る「天測」の方法を加え位置確認を行う。

(b)  経度測量の開始

1871(4)年 にウラジオストックと長崎を結ぶ大陸への海底ケーブルが敷設され,日本列島は国際電信網に結ばれ,アメリカ人科学者によって経度測量が明治7年に実施。

複数ヶ所の時計を電信で合わせて,同一星の子午線通過をそれぞれで測定し,その測定時間差から経度差を得る。

(c) 三角点の整備と5万分の1地形図

1884(明治17)年,初めてイギ リスグリニッジ(世界の原点)と結ばれた東京の 「仮経緯度原点」が誕生し,三角測量の計算原子が決定。この原点をもとに一等三角測量が進められ,大正2(1913)年に完成 した。

1924(大 正13)年,39千点の三角点の経緯度をもとに,「基本図(陸測5万分の1地形図)」が完成。

(d)  経緯儀からトータルステーションへ(国土調査事業や公共測量の進展の中で)

1951年の国土調査法で地籍を明 らかにする基礎調査として四等三角測量事業が行われる。四等三角測量の測量機器は,当初からしばらくは経緯儀が使用された。

・電子機器 の開発に伴い角度は30秒から1秒読みとなり,さらに,光波(レーザ)を用いた距離観測も同時に可能としたトータルステーシ ョン(TS)を利用。

・トータルステーションは,膨大なデータを短期間で扱う土木事業のための公共測量で利用される。

 

光学的測量器機は日本では経緯儀とよばれていたが,そのうちバーニヤ目盛りで角度をはかるものを「トランシット」,内蔵した精密分度盤の数字をマイクロメーターで読み取る,あるいはデジタルディスプレー表示のものを「セオドライト」と区別している。

 

トランシット ウィキペディアより

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6b/Kern_Theodolit_DKM2-A.jpg

セオドライト ウィキペディアより

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4b/Taqu%C3%ADmetro_Sokkisha_TM20H_%282%29.jpg

 

(e)  世界測地系の導入

・人工衛星の観測から精密な地球の形が分かるようになり,明治期に決められた日本測地系で想定した地球の楕円体の形・大きさやその中心位置が少し異なることが明らかになる。

20024月,測量法の改正で日本列島の位置を世界測地系にあうよう変更した。

・その際,三角点などの国家基準点の位置は,VLBI (Very Long Baseline Interferometry 超長基線電波干渉計)GPSなどの測量データをもとに修正された。

 

補足:地球楕円体

(この項は藤井陽一郎(1994)地球の形と大きさ.新版地学教育講座「地球をはかる」,1-49.を参考にする)

16世紀には地球が球形であることは定性的にはわかったが,その大きさがどのくらいか,測定技術の進歩とともに何回もくり返し測定が行われた。

17世紀後半には地球がはたして完全な球なのか疑問が持たれるようになった。フランス科学アカデミーがフランス領ギアナに遠征したが,北緯5度で振子時計を正しく保つには北緯49度のパリで正しくあわせた振り子時計の振子を短くしなければならないことがわかった。地球が赤道付近でふくらんでいるとすれば説明がつく。この成果は1684年に公表された。

18世紀,地球の赤道半径と極半径がどのくらい違うか,偏平率=(赤道半径ー極半径)/赤道半径を求めることがフランスを中心にして続けられた。19世紀には三角測量の三角網がひろがり,その結果,いろいろの地球楕円体が提案された。

20世紀後半には人工衛星の結果もとりいれ,世界測地系の国際楕円体を使うようになった。これはGPS利用の前提となる。

 

地球楕円体(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3e/%E5%9C%B0%E7%90%83%E6%A5%95%E5%86%86%E4%BD%93.svg

 

(f)    電子基準点

・三角点に代わる電子基準点を全国に約1,200(25km1)配 置 して,24時間常時観測するようになる。

・電子基準点とは,人工衛星の電波を受けて正確な測量を行うための基準点。

・電子基準点同士の相対的な位置関係を利用して,地殻変動の監視に利用される。例えば,水平変動量から東日本と西日本で異なることなどが明瞭となる。

(g)  VLBI測量

・数十億光年の宇宙のかなたにある電波星(準星:クエーサ)から放出される電波を地表2地点で同時に観測し,その到達時間の差から受信アンテナ間の相対位置関係(基線ベク トル)を高精度で決定する。

・日本とハワイの間 をVLBIで観測した結果,1年間に約6cmずつハワイが近づいているがわかる。

 

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4 測量の応用例 2000年有珠山(うすざん)の噴火

 

有珠山は,北海道有珠郡壮瞥町,北海道の南西部,洞爺湖の南に位置する。

有珠火山は,ほぼ定期的につぎのような火山活動がある。

1663年,流紋岩質軽石放出

1769年,明和熱雲,小有珠形成

1822年,文政熱雲,

1853年,大有珠形成

1910年,明治新山形成

1944-45年,昭和新山形成

1977-78年,軽石噴火からマグマ活動,大有珠隆起,小有珠沈降

2000年,有珠噴火

 

有珠山全景(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/20/%E6%9C%89%E7%8F%A0%E5%B1%B1.jpg

噴火口近くで廃墟となった山麓(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8a/Mount_Usu.jpg

隆起して地割れした道路(ウィキペディアより)

 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a0/UsuZan2007Ryuki.JPG

 

測量事例

噴火時には,この地域は立ち入り禁止のため,安全な周囲から噴火地域内に目標を定めて測量を行った。例えば建物の屋根の角などを目標とした。測量法の原理で2ヶ所から目標への方位や角度を測り,目標物の動きをとらえた。定期的に観測して,目標点が隆起あるいは)ことがわかる。そのうちにその動きは止まり,火山の活動は収まると判断できた。

 

測量結果(地質調査所2001の一部引用)

→ http://y95480.g1.xrea.com/nue_mineral_5_gsj2001fig11.pdf

隆起(Uplift)722日頃で止まり,火山の活動が収まると判断でき避難解除を進める。

 

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有珠山2000年噴火では人的被害ゼロ

人里での噴火にもかかわらず,噴火による犠牲者は1人もいなかった。人的被害ゼロ実現のポイントは次の通り。

・噴火リスクの高まりを的確に共有できた。

・すべての住民が避難勧告・避難指示を受入れ,予定時間内に避難をなしとげた。

(須貝俊彦 有珠山人的被害ゼロの教訓 地理・地図資料,2017年度2学期2)

 

参考:昭和新山の測量

前回の地学史で,有珠山のふもとで1943年に昭和新山が出現し,その成長を記録した三松正夫氏を紹介した。付録の動画で,三松正夫氏の活動のニュースを見ることができる。

 

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5 実習:地形図を読む

国土地理院の地形図

国土地理院の地形図は印刷されたものが市販されている。

現在は,デジタル化が進み,ウェブで任意の場所の地形図を見ることができる。

https://maps.gsi.go.jp/#5/36.102376/140.097656/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1

使い方:

・任意の場所に移動する。

+/-で地図の大きさを変える。

・メニューバーのツールを利用すると地形断面作成や3D表示ができ,距離や面積の計測ができる。

 

地形図の地図記号

地図記号一覧は次の通り(Mapionより) (国土地理院地形図以外で使う記号も含む)

https://help.mapion.co.jp/map/mark/mapnote.html#map

https://help.mapion.co.jp/map/mark/notation.html

 

大学付近で地形図に盛られている内容を見てみる。

名古屋経済大学付近の地形図は次の通り。

以下のことを確認してみる。

・名古屋経済大学の北()の方に田んぼ「記号:ll」が広がっている。

・大学の南西(左下)に神社や寺がある。西()に住宅が広がっているのがわかる。

・北東(右上)に本宮山がある。その周りは等高線が込み合い山であることを読みとれる。

・本宮山の山頂に三角点「△」があり,その高さ(標高)292.9mである。

 

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6 実習:測量の基本

 

三角関数の復習

地図を作るのに基準となる点から三角形で各点の位置を順に決めていく。このとき三角関数を使う。

 

以下は三角関数を忘れた人のために用意。身についている人はとばす。

直角三角形を考える。

三角関数は次のように定義される。

サインB   :sin B = b ÷ c (あるいはb/c)

コサインB  cos B = a ÷ c (あるいはa/c)

タンジェントBtan B = b ÷ a (あるいはb/a)

 

代表的な例

Cの角度が直角(90)の三角形とすると,

Bの角度が30度,Aの角度が60度では,

a=ルート3(= 1.73),  b=1,  c=2

これからsin 30 = 1÷2 = 0.5, cos 30 = 1.73 ÷2 = 0.87, tan 30 = 1÷1.73 = 0.58

Aの角度とBの角度がともに45度では,

a=1, b=1, c=ルート2(= 1.41)

これからsin 45 = 1÷1.41 = 0.71, cos 45 = 1÷1.41 = 0.71, tan 45 = 1÷1 = 1

 

任意の三角関数の値は,表あるいはスマホで求める。次は表になったもの。

三角関数表(PUKIWIKI)

http://emath.s40.xrea.com/ydir/Wiki/index.php?plugin=attach&refer=%BB%B0%B3%D1%B4%D8%BF%F4%C9%BD&openfile=trig-table.pdf

 

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例題

次の図を参照して,岸から沖の船までの距離を求めることを行う。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/80/Distance_by_triangulation.svg

(図はウィキペディアより)

Iの長さをℓとするなら

= d/tan α + d/tan β 

ゆえに

d = /(1/tan α + 1/tan β)

 

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3 ある木の最上部までの角度が30度,その木の根元まで20mだった。この木の高さを求めよ。

ただし,角度を求めたとき()の目の高さは1.5mである。

回答例を6まとめの下に記す。

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6のまとめ

地形図を作る測量は三角測量が基本である。そのためには三角関数の知識が必要となる。測量を行うことで火山の山体変化の観測など,遠隔で地形の変化を知ることができる。

 

3

回答例

20m x tan 30 =20 x 0.58 = 11.6 m, これに目の高さ1.5 mを加え,13.1 m

 

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7 実習:空中写真判読 (Aerial photo judgment)

場所をずらして撮った空中写真を両目で見ると山や谷などの形が見える。実体視あるいは立体視と言う。活断層や地滑り地形などを読みとるに有効。ここで立体視を体験する」

 

・実体視(立体視):地図作成用に撮影された空中写真の隣り合う写真の画像の互いに重複する部分を使うと,画像が立体的に見え,実体視又は立体視と言う。

・写真測量:実体視することにより視野に入った各事物の水平位置関係や比高等を観察し,地図化していくこと。

・実体視による調査:地形・地質,土地利用,植生(土地被覆),地すべり・崩壊・高潮・洪水等に係わる災害地形等の調査の際は空中写真の実体視が必要な技法になる。

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立体視を試みる

ともかく二つの画像を見てそれが一つになるように(気持ちで)すると,立体的に見える。はじめはなかなかできないが,一度見えるとそれからは別の写真でも見えるようになる。

ただしあまり続けていると気持ちが悪くなるので無理をしない。

 

例:竹田城跡--天空の城,兵庫県朝来(あさご)

各自のくせで,左右の目線を平行,あるいは交差して見る。

以下にはそれぞれに対応できるよう準備した。そこで山がへこんで見える場合,もう一方の写真で試してみる。

また,画像を小さめにした方が立体視しやすいので画面の大きさを調整する。

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そのほかの例

土木情報サービス いさぼうネット

https://isabou.net/TheFront/disaster/geology/Hypostatize/zittai.asp

実体視の原理とサンプル

 

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7のまとめ

場所をずらせて撮影した空中写真を使うと実体視(立体視)ができる。そのことで地質や地形の調査に使え,活断層や地すべり地形の判読ができる。

 

経度の歴史

自分が地球上のどこにいるかは,緯度経度から知ることができる。緯度は比較的容易にわかるが,経度を求めることには変遷があった。

この節の主な参考文献:

石橋悠人(いしばしゆうと)2010 経度の発見と大英帝国.三重大学出版会,pp.261

古代

・エラトステネスは,シェネ(アスワン)とアレキサンドリアを結んだ線を基準としてそれに平行に数本の直線を引いた。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e8/Mappa_di_Eratostene.jpg

エラトステネスの地図(19世紀に復元したもの,ウィキペディアより)

・ヘレニズム期,ヒッパルコス(Hipparchos, BC190-BC125)は,各地点を決定するための座標系に経緯線網を考える。月食の開始と終了時刻の差から経度を求めた。

・アレキサンドリアのプトレマイオスは,ローマ時代になり,各地の地理情報が流入し,世界各地8000ヶ所の経緯度を記した。

経度の基準「本初子午線」は,世界の最西端と考えられていたカナリア諸島の「幸福諸島」近辺を通過する子午線であった。

 

15世紀初頭

中世ヨーロッパではプトレマイオスの影響力が失われていたが,15世紀初頭にギリシャ語からラテン語に翻訳され,ヨーロッパにおけるプトレマイオスの「再発見」となる。

世界の輪郭の「正確性」の向上が課題となる。それは各地の経度が不正確,つまり経度測定法が課題であった。

 

背景は,大航海時代となり,大海原での緯度経度の決定の必要性があった。

例えばコロンブスは,緯度は比較的容易にわかるので,同じ緯度に沿って(緯線に沿って)西へ移動してアメリカ(サンサルヴァドル島)に達した。コロンブスは,そこがヨーロッパ人にまだ知られていない陸地とはわからず,アジアと考えた。当時の地図では,アジアを広く考えていて,アジアの経度を実際よりも東に広げていたからである。すなわち,コロンブスは,スペインから大西洋を渡ってアジア(ジパング)に達するのに4300kmの航海ですむと考えていた。これは実際の距離の3分の1程度だった。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4d/Martellus_world_map.jpg

Martellusの世界地図(1490),ウィキペディアより

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/36/Columbus_routes.png

大航海時代の英雄

クリストファー・コロンブス

ジェノバ生まれ,ポルトガルで航海術を学ぶ。 149283日船出,72日目に今日の西インド諸島に着く。1493年の航海でプエルトリコに着く。1498年南アメリカ大陸,1502-1503年には今日のホンジュラスやニカラグアに達する。

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アメリゴ・ベスプッチ(イタリアの航海家)

1497年中部アメリカに達し。1499年南アメリカに上陸。

アメリカの名称はアメリゴ・ベスプッチにちなむ。コロンブスの名はコロンビアとして残る。

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バスコ・ダ・ガマ(ポルトガルの航海家)

1498年喜望峰をまわりインドのカルカッタに上陸,インド航路を開く。

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フェルディナンド・マゼラン 

1519年今日のマゼラン海峡を発見,その後,太平洋に出てフィリピンに至る。1521427日マゼランは先住民に殺される。残った一行は1522年セビリアの港に着く。地球を一周,地球球形説が証明された。

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地図学の発達

ゲルハルト・クレーマー(ドイツ,数学的地理学の研究)

1569年,大世界地図を完成。彼の名前をラテン語化するとメルカトル,そこで彼が使った図法をメルカトル投影図法(北からの角度)とよばれる。極地方が赤道近くにくらべて大きく表現されるが,2点を結ぶ方向の方位角は正しく表現される。航海術では方位角が重要だったのでこの図法が利用される。

 

経度決定法 16世紀

二地点の経度の差異は,地方時の差異である。そこである地点で基準となる経度での時刻を知ることである。太陽の南中時刻を異なる2点で観測し,その時間差から経度を求めることができる。

どのようにして時刻を知るか。当時は振り子時計で測定するが,船が揺れると正しく動かない。ぜんまい時計はまだ十分実用化していなかった。

日食や月食の時間差を見る,木星の衛星の食を観測する,月と星との位置関係を利用する(月距法)などが提案された。

このように陸上で経度を求める技術はそれなりに確立したが,海上では長い間決定的な方法は見つからなかった。依然として船の速度から距離を計算して経度を推定していた。

 

・経度決定の懸賞政策

1567,スペイン王が海上で経度を決定する方法開発を懸賞政策とした。同様のことがオランダ,ヴェネチア,フランス,ポルトガルでも実施した。

1714,英国で経度法制定

英国で経度測定法の開発が奨励され,賞金2万ポンドが用意された。現在の価値では100-350万ポンドくらいである。

・機械時計(クロノメーター)の開発

1735,ハリソン,イングランド東部リンカンシア生まれの時計職人,が「H1」大型の機械時計を提出した。その後,改良を加えた。

1761,「H4」を発明。

1767H4を標準振子時計との比較実験。

1770,複製K1が完成した。複製が作られることで実用化に踏み出す。

・月距法

正確性を高めるための要件が3つあった。すなわち,

「精確な星表」,「角距離の観測機器の改良」,「月運動論の確定」である。これらは以下のように克服された。

星表は,フラムスティードが1725年にブリタニカ星表,1729年に天球図譜を著わす。

機器として,1731年に四分儀,1759年に六分儀が開発される。

月運動論は,1756年にゲッチンゲンのマイアー(Tobias Mayer, 1723-62)が体系化する。

・月距法の実用化

1763 ネヴィル・マスケリン「英国航海者ガイド」を著わす。これは航海者向けの簡明な月距法の利用術の解説書である。

1767 天文暦の一つとして航海年鑑完成。これはグリニッジ子午線について,年間の3時間ごとの月と太陽や恒星への角距離の早見表である。これにより月距法に要する時間が大幅に短縮する。

・キャプテン・クックの航海

経度測定法の実現を象徴するのが,キャプテン・クックの三次の航海である。太平洋の島々の正確な海図を作成した。ヨーロッパ諸国による太平洋航海の新時代の幕開けと位置づけられている。

 

クロノメーター(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9b/Chronom%C3%A8tre_%C3%A0_suspension.jpg

 

赤道や極は明確な基準があるが,経度は人為的に設定する必要があった。経度0度の基準となる子午線が本初子午線である。過去には世界各地でさまざまな本初子午線を使用していた。

1851年に英国のグリニッジ天文台に子午環が設置され,そこを通る子午線がグリニッジ子午線である。1884年万国子午線会議で,本初子午線(経度0°)はグリニッジ子午線を国際本初子午線とすることが採決された。

19世紀後半,グリニッジ子午線を基準として経度を求めることが行われた。それは電信ケーブルで時間差を求めることができるようになったことが大きい。このように電信と天体観測で経度を求める方法が用いられた。

20世紀になると,無線通信が実用化され,船から無線の時報を受信することで経度が求められるようなった。

1960年に人工衛星信号を利用して世界測地系を策定,さらに1980年頃から地球の精度良い形(準拠楕円体)が明らかになり,全地球的測地系へ移行する。1980年以降,国際地球回転・基準系事業により定義されるIERS基準子午線を使うようになった。グリニッジ子午線は,経度0度のIERS基準子午線から102.478m西の位置を通過している。

 

複数のGPS衛星からの電波で位置がわかようになった。数cmの誤差で経度を求めることができる。GPS:グローバル・ポジショニング・システム,全地球測位システムである。

 

GPS衛星の軌道アニメーション(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9c/ConstellationGPS.gif

船舶用GPS受信機(ウィキペディアより)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f4/Global-Positioning-System.jpg

 

人工衛星を用いた測量 GNSS (全世界測位システム)

基準とする2点間の距離や2点からの目的とする点までの角度を測る手法が,測量に使われてきた。方位を利用して間接的に距離を求める代わりに,レーザーで直ちに距離を測ることができるようになり測量の手間が大きく省かれるなどしたが,しばらくは,座標(緯度経度)決定には,既知の基準(三角点)を参照しながら求めた。

現在は,人工衛星を用いてその場所の座標(緯度経度)を決定し,それから2点間の距離や方位などの位置関係を求めることが普通となっている。それをGNSS(Global Navigation Satellite System: 人工衛星を利用した全世界測位システム)という。

 

GNSSの原理(計測・試験機器総合Web)

測位衛星を4機用いて,位置情報(X,Y,Z)を取得する。

「自分」と「4機の測位衛星」との距離をそれぞれ計算し4つの距離を求める。その4つの距離がひとつに交わる点を数学的に割り出し,自分の位置を求める。

 

【測位衛星と自分までの距離=電波の速度 X 電波伝搬時間】

・電波の速度=299,792,458m/

・電波伝搬時間:「測位衛星から出た電波」が「ユーザの持つ受信機」に届くまでの時間

 

測位衛星から送信した電波には「送信した時刻」の情報が入っているので,「送信した時刻」と「自分のところに電波が到着した時刻」との差で「電波伝搬時間」がわかる。

計算上は3つの距離情報があれば自分の位置が特定できるが。受信機の時計にはわずかに「誤差」があり,3機の衛星では位置情報にズレが生じる。その誤差補正するためにもう1機の情報を使う。

https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi45009.html

国土地理院(GNSSを用いた測量)

上記説明例はこのサイトの最初の単独測位。複数測位など詳しく説明。

 

VLBI(VLBI: Very Long Baseline Interferometry 超長基線電波干渉計)

・電波天文学から発展した技術を測量に応用。

1.遠くにある天体が放つ電波をパラボラアンテナで受信する。

2.アンテナの位置によって天体からの距離がわずかに違うため,電波を受信する時間が少しだけ違う(0.02秒以下)

3.それぞれのアンテナが電波を受信した時刻の差を割り出す。

4.時刻の差に電波の速さをかけ,天体の方向を考慮してアンテナ間の距離を求める。

5.このようなことを多くの天体で行い,アンテナ間の位置関係を求める。数千キロ離れたアンテナの距離が,数ミリメートルの精度で測ることができる。

1年間に約6cmずつハワイが日本に近づいているがわかる。

 

VLBI観測局の平均的な運動(国土地理院)

http://www.spacegeodesy.go.jp/vlbi/image/world.png

 

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経度の歴史のまとめ

自分がどこにいるかは,緯度経度から知ることができる。緯度は比較的容易にわかるが,経度を求めることには長く困難であった。電信の発達で世界の各地との経度を比較できるようになった。国内の地形図は日本測地系で整備されてきた。人工衛星の利用で精密な地球の形が分かり,日本測地系から世界測地系へ移行した。

 

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付録

青空文庫:寺田虎彦「地図をながめて」(初出 昭和9年)

https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2508_10272.html

動画:昭和新山とミマツダイヤグラム(NHK)248

https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005401233_00000&p=box

動画:伊能忠敬の測量(NHK) 155

https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005310099_00000

動画:剣岳‐点の記‐ 151

  https://www.youtube.com/watch?v=RCfIDeioFIs

 

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対面授業が受講困難な受講生への課題

1 江戸時代,1800年から1816年まで17年かけて日本全国を測量して「大日本沿海輿地全図」を完成した人は誰か。名前を記す。

2 緯度および経度とは何か。それぞれ記す。

3 質問や感想があれば自由に書いてください。

 

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