副専攻環境ワークショップU個人課題と調査・解析法
・ワークショップU仕上げのテーマを考える。
・テーマ解析法の一つにSWOT法がある。Sは強み、Wは弱み、Oは機会、Tは脅威。
・野外調査に簡易測量,データ整理に表計算ソフトや地理情報システムの利用。
・環境問題の歴史で人間社会と自然の関わりを考える。
1.
テーマを考える
これからテーマを決める上で参考となることを記す。
テーマの例
・企業や研究所を訪問してインタビュー
・野外調査で計測を行い考察する
植生調査(外来種の頻度など),地質調査(岩質と地形,植生),木の密集度と木の円周
・地域活動に参加してその報告と感想
・施設の見学記
例 あいち新エネルギーパーク 要予約が多い,
うち,田原臨海田原市公園内風力発電所10号機は常時自由見学可
とよたエコフルタウン
・新聞や書籍から環境問題を深めまとめる
例 新聞社説,環境関連書籍
環境と経済,環境法事例等々
・その他
2.
解析・評価法
決まったテーマをどのように調査し,評価するか。ここでは経営などに用いるSWOT分析を応用してみる。
SWOT分析
SWOT分析についてはウェブ上にさまざま解説がある。一例から説明する。
自社の強みを活かしても市場に需要がなければ利益をあげられない。市場に需要があっても苦手分野に対策なしでは利益は出ない。
マーケティングでは内部環境と外部環境の視点から分析を行い,両方を掛け合わせて考える必要がある。次の4つの項目から分析を進める。Strength(強み),Weakness(弱み),Opportunity(機会),Threat(脅威)
「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」が内部環境で,「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」が外部環境である。
分析事例 トヨタ
Strength(強み):ブランド力が高い。独自の高い技術力がある。
Weakness(弱み):海外販売の比率が高く,為替変動によって利益率が変動する。
Opportunity(機会):東南アジアで市場が拡大している。
Threat(脅威):人口減少により国内市場規模が縮小。新興国の人件費が高騰している。
クロス分析から対策を考える。
強み×脅威:「ブランド力が高い」×「東南アジアで市場が拡大している」
→東南アジアへ積極的に参入する。
環境素材に応用
練習問題 風力発電の「強み」,「弱み」,「機会」,「脅威」を抜き出してみる。可能ならクロス分析も行う。
練習問題 次の社説を読んで環境問題を深める。
中日新聞2025年2月21日の社説
https://www.chunichi.co.jp/article/1028147?rct=editorial
「エネルギー計画 国民軽視の原発回帰だ」
を読んで次の問いに答える。
1.原発回帰とする根拠・理由は何か。
2.原発の課題・問題点は何か。
3.問題点を原発そのものが持つ内部要因と政策や世論を含めた外部要因にわけ整理してみる。
例:強み,安定電源;弱み,廃棄物処分;機会,アジアでは需要;脅威,住民の反対
3
調査に簡易測量、データ整理に表計算ソフトやGISを利用
3.1ワークショップTの野外調査を簡易測量で深める
ワークショップTで行ったことを個人で深めてみる。
森林の密集度
森林密集度調査で立木の高さを目測で定めた。この改良手法。
立木までの距離を測り,立木頂部までの角度(仰角)を測る。
・あらかじめ自分の歩幅を測っておく。
・立木頂部までの角度(X)をクリノメータで測る。分度器に重りをつるして測っても良い。
・立木まで何歩か測り,1で決めた歩幅から立木までの距離(L)を決める。
木の高さ(H)は,H=L×tan X
植生の分布
沢の源(湧水)を探したりした。
再度,同じ場所に来て調査することも考えて,簡単な地図を作ってみる。
・自分が進む方向を決める。クリノメータの長辺方向を進む方向に向け,磁針がさす角度から読みとる。
・目的とする方向まで何歩あるか測り,歩幅から距離を決める。
・目的とするところから次の目的とするところまでの方向と距離を同様に求める。
・これらを図上でつないでいく。沢の位置や植生などを記しておけば,路線図となる。
3.2
調査データをグラフで表す-表計算ソフト利用
水質データ分析に日を変えて測っている。その変化をグラフで表す。
エクセルの演習の実践である。
・横に地点,縦に日付(原点からの日数)をとりデータを記す。
・エクセルメニューバーで「挿入」とする。「グラフ」を選ぶ。
・「散布図」にデータだけをプロット,データを線で結ぶものなどがある。
表のデータを選んで図の種類をとれば自動でグラフを得ることができる。
練習
デモ用データ(リンク)でグラフを作ってみる。
3.3調査データを地図上に表す-GISソフト利用
小さな課題ならフリーのGISソフトで下記のことができる。
1.調査地点の位置は、地図上に落とせない場合、GPSデータからの座標を入力して地図上に表すことができる。
3.各地点の化学分析データを色や大きさで区分して表すことができる。
4.できあがった図を発表用スライドに使う。
5.植生図や地質図など、ほかの図面に重ね解釈を深めることができる。
参考 環境調査結果をGISソフトで地図上に表すまでの事例→ リンク
参考 上記事例の調査データ→ リンク
練習 背景地図やデータ表が入ったGISデモデータ(リンク)に座標や分析値を入力してみる。
4.
環境問題の歴史
出典:奥山 格(2024)環境の基礎科学.丸善出版,146p.
18世紀半ば 産業革命:工業化で化石燃料の使用でCO2排出。
1880年代 足尾銅山鉱毒問題:田中正造らによる住民運動があった。
1895 ナショナル・トラスト(英国)設立:自然環境を寄付や買取り入手し守っていく。
1900年代初頭 ハーバー・ボッシュ法の確立(アンモニア合成):工業的に窒素固定。
1920年代 フィッシャー・トロプシュ合成法の開発:炭化水素合成。
1940年頃 原子爆弾,原子力発電の開発:235U核分裂のエネルギーを利用。
1952.12 ロンドンスモッグ事件:石炭燃焼によるSOXやばい煙。
1950年代 イタイイタイ病:神岡鉱山からのカドミウムが水田汚染し,骨がもろくなる。
1955〜 森永ひ素ミルク中毒事件:ひ素による健康被害。
1950〜60年代 四大公害病(熊本と新潟の水俣病,イタイイタイ病,四日市ぜんそく):大阪空港の航空機騒音を5つ目の公害とすることもある。
1950〜60年代 スモン病事件:整腸剤キノホルムによる健康被害。
1962 レーチェル・カーソン(米国)「沈黙の春」発表:DDTなどの農薬の危険を警告。
1960年代 ベトナム戦争における枯れ葉剤の使用:ダイオキシン被害。
1960年代 ロサンゼルス型スモッグ:自動車排気ガス。
1960年代 サリドマイド事件:睡眠薬サリドマイドによる健康被害。
1968 カネミ油症事件:米ぬか油製造過程でPCBが混入し健康被害。
1968 大気汚染防止法の制定:ばい煙の排出規制。
1970年代 光化学スモッグ問題(日本各地):工場や自動車の排ガスの成分が太陽の紫外線で光化学反応を起こす。
1973 化学物質審査法の制定
1970〜80年代 薬害肝炎事件:出血を抑える血液凝固剤に含まれた肝炎ウィルスのためにC型肝炎となる健康被害。
1977〜1990 香川県豊島事件:産業廃棄物不法投棄。
1980年代 薬害エイズ事件:血友病治療の血液凝固剤に混入していたウィルスによりHIV感染。
1987 モントリオール議定書の採択:オゾン層破壊物質の規制。
1993 環境基本法制定:7項目をあげた。2012年に改正され8項目を典型的公害とした。大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,悪臭,地盤沈下,放射能汚染。
2000〜 東京豊洲土壌汚染:重金属,ベンゼン,シアン化物。
2001 ストックホルム条約(POPs条約):残留性有機汚染物質(POPs)は気流に乗って国境を越える可能性があり,国際連携をとる。
2002 土壌汚染対策法の制定:重金属,VOC,農薬,PFASやPFOSが対象。このうちVOC(揮発性有機化合物)は電子部品工場で洗浄用に大量使用,広域に広がり地下水汚染。
2009 プラネタリー・バウンダリーの概念提案(ストックホルム大学など):地球の限界点。CO2(350ppm),生物絶滅率(100万種あたり年間10種),窒素肥料(年間4400万トン)は,限界を超えている。
2011 福島第一原子力発電所事故:235U核分裂のエネルギーを利用。放射能汚染。
2015 SDGsを含む2030アジェンダの採択(国連):多くの項目に「持続可能」や「平等」の但し書きがある。
2015年12月 COP21パリ協定(地球温暖化対策:1.5℃目標):気温上昇を産業革命前に比べ2℃より低く,1.5℃抑える努力を追及する。
2017年12月 水素基本戦略の策定:カーボンニュートラルをめざす。
2018年6月 海洋プラスチック憲章の採択:海洋プラスチックごみは海洋生物に取り込まれると大きな被害を与える。
2018年10月 IPCC「1.5℃特別報告書」の採択:人為起源CO2排出量を2050年前後に正味ゼロにする必要がある。
2021年6月 プラスチック資源循環促進法の制定:飲食店の使い捨てスプーンやストローの有料化や代替品切り替えを求める。
2021年10月 第6次エネルギー基本計画の発表:水素を新たな資源として活用。
2023年2月 GX実現に向けた基本方針の策定:GX(green transformation)は,化石燃料からクリーンエネルギー中心に転換し,脱炭素社会を実現する取り組み。
2023年6月 水素基本戦略の改訂:水素社会実現を加速するために2017年版を改訂。重点項目は,水素供給,脱炭素型発電,燃料電池,水素の直接利用(脱炭素型鉄鋼など),水素化合物の利用(燃料アンモニアなど)。